Into the girls! ~出会いは少女達の中に~
またまた短編。ですが、二人の出会いの続きは頭の中で続いています。かかしになった少女に黒マントの剣士の出会い、そして大冒険へ…私たちは冒険者だ! ドン!
私は今、かかしです。かかしになって一時間、綺麗な青空を見続けるだけで一万円ですよ。もちろん雇い主の畑を守ることが最重要ですが、今の所、私は無事です。つまり畑も無事ということです。幸福ですね…。そういえばかかしに至る前にはこんなことがありました。
~回想~
私は森で散策をしていました。キノコを採って、キノコを売るごく普通の田舎娘です。今日もいい天気なので、私は森の奥深くまでキノコを探しておりました。
そんな時…
――お金がないんです…どうか助けてください。
ボロ雑巾のような毛布を頭から被ったおじいさんが、今にも死にそうなガラガラ声で私に助けを求めてきました。私はもちろん快くお金を全額渡しました。お金がなくてもまたキノコを売っていれば、私は今日も生きていけます。
気を取り直して更に森の奥を進んでいくと…
――服がないんです。お願いします。
裸の男の子が私に泣きながら助けを求めてきました。私は快く全部…は必要ないので上着をあげました。上着だけなら下着とズボンがあるので大丈夫だと思いました。男の子は私の上着を取って、そのままどこかへ消えて行きました。
更に森の奥を進んでいくと…
――おい。全部寄こせ。
盗賊に襲われ、遂にキノコ入れも採られ裸になってしまいました。ですが服は大きな葉っぱを何枚か重ねて着ればどうとでもなります。私は葉っぱを蔓で縫いあわせた服を着て、気を取り直して森を進んでいくと…
――ねえ。金が欲しい? なら私の畑の番よろしく。
小金持ちそうなおばさんに遭いました。そのおばさんの依頼を快く受けた私は、こうしてかかしになりました。約束は一時間のはず…でしたが――
「まだ帰ってこないですね…」
一時間買い物に行くからと言って家を出て行ったおばさんは、まだ帰ってきません。私は体が疲れて痺れ始めて参りました。
「辛いですね…」
私の疲労の大半は、空を見過ぎて青色を見るのが耐えられなくなったことだと思います。ですが首を回すことは出来ません。かかしでしっかりと私の体が首まで固定されているのです。かかしは畑を守る番人。ここで諦めたら一万円は手に入りません。せっかく依頼を受けたにもかかわらず、おばさんの畑を守ることが出来ないのは私のプライドが許せません。お金以上に、依頼を受けた責任を果たしたいのです。
「まだまだ…!」
私は己の弱さに負けないように、気合を入れて再び空を見上げました。
すると、私と畑を丸々包み込むような大きな影が現れました。そして目の前には…
――がおおおお!
大きな怪獣が鳴いていました。
「チッ」
所変わって、同森の中…。キョロキョロと周りを見渡しながら、時折舌打ちをする髪とマントが黒一色の剣士が迷子になっていた。右目に眼帯を付け、これもまた真っ黒で開かれた左目の瞳は赫炎に満ちていた。
「ここに宝があるって言ってたはずなんだけど――」
もうヘロヘロだった。三時間以上も彷徨い続けた結果、どの景色も緑の葉っぱと茶色の幹ばかり。森に生えていたキノコ食べたら毒状態になるし、葉っぱに隠れた崖に気づかずに落っこちるし……もう緑を見るのが大嫌いになっていた。そして何百回目かの木を残った体力で「ええい!」と進み入る。
「道か! …って、なんだよ畑かよ…」
がっくし。と、肩と腰を同時に落とす。落胆と諦めが頭の中を駆け巡る中、ふとある物体に目が行った。
「かか…し……?」
後姿だが、よくよくみると手と頭が異様に動いている。まるで生き物のようだ。
「…ああ…助け……だ…ず……げでぇ……」
…。
「人間かよ!?」
眼帯マントは甲高い叫び声を上げた。かかしって、十字の丸太に布や飾り物を付けて人型にする。そして畑に何本か磔にしておくことで、畑を荒らす動物たちを警戒させる。自分も初めて見るものだったが、人がかかしとして磔にされるという場面は全く経験がない。もちろんこのマント野郎もあるわけがない。
「!」
更に驚くべきことに、かかし人間の目の前に巨大な怪獣が大きな口を開けていたのだ。背中に大きなトゲトゲが尻尾の先まで生えており、身体は黄色で両の頬に赤い丸がある。まるでガッ〇―ラみたいである。
何故まずこの怪獣から気づかなかったのだろうと思いながらも、気を取り直して黒マントは颯爽と駆けだしていった。
「きゃあああー!」
ボロボロの麦わら帽子に黄ばんだ布を着たかかしは、これ以上の恐怖から逃れるために目を閉じた。食べるならいっそのこと一飲みに…かかしは生き残る道を諦め、少しでも痛くない死を望んだ。怪獣の臭い息がかかしの顔や体を吹き抜けていく。
(最期の匂いがこんな臭いなんて…お父さんの一週間洗ってない靴下並みの臭さ……いやだ――っ!)
「…何、諦めてんの? あんた」
「え――」
その時、かかしのすぐ横で、真っ黒のマントに身を包んだ短い黒髪の男が忽然と現れた。…かと思えば、怪獣は臭い息を吐きながらも、これ以上かかしに近づこうとしない。何故? と思ったかかしは、恐る恐る怪獣の方を見上げると…
――があ…あぁ…
上の歯と下の歯の間に剣が挟まっている。鞘に納められたその剣は、周りに蔓のような緑の糸が巻かれて、その糸が輝いていた。これが伝説の聖剣『エックスカリバーロー』。この世の男なら誰もが欲しがる名誉に等しい剣であり、手に入れれば世界を手に入れたも同然と言われる代物である。
かかしは思わず「聖剣エックスカリバーロー」と呟くが、黒マントは首を横に振って答えた。
「ちげえな…そっちじゃねえ…」
すると黒マントはニヤリと笑ったかと思えば、左拳を大きく縦に振り回しながら、地面を蹴った。瞬間、怪獣の眉間の前までジャンプした黒マントは、バカでかい声を上げ――
「おおらららあああああー!!!!!!」
そのまま怪獣の眉間めがけて拳骨を決めたのだった。怪獣の眉間は左拳に減り込むようにクリーンヒットし、黒マントが天にこぶしを突き上げるや、怪獣は綺麗な煙の弧を描いて空の彼方へ飛んでいった。そして黒マントの男がかっこよくポーズを決めてこう言った。
「聖拳ゲンコツ一発…ってな!」
…………
………
……
…
「有難うございました。お陰で元気で」
――グ~
「「…」」
かかしのお腹が鳴り響く。かかしは顔を真っ赤にして俯くと、黒マントが無言で懐から葉っぱの包みを取り出した。開くと、四つのおむすびだった。かかしは一瞬躊躇ったが、黒マントの男は半ば強引にかかしにおむすびを渡した。かかしはドバーっと大粒の涙を流して礼を言うと、早速おむすびを食べ始めた。
「本当に、本当にありがとうございます。とても美味しくて…ハムハム…」
「お、おう…(こいつ半分あげるって言ったのに、全部食ってやがる…)」
怪獣を追い払った後、黒マントと元かかしのブロンドストレートの髪の少女は、倒れた丸太の上でご飯を食べていた。ちなみにかかしだった少女は今黒マントを貸してもらっていて、黒マントを取った男は黒Tシャツを着ている。服越しから見える筋肉はムキムキしていてカッコいい…と少女はうっとりしながらおむすびを完食した。
「改めてありがとうございました。お腹もいっぱいでまたかかしに専念できます!」
「…またかかしをやるのか?」
「はい!」
黒マント男は、何故ここまで元気にかかしを続けるのがはなはだ疑問であった。だが、止めさせてもこちらに特はないので、とりあえず森の出口を聞いて帰うと思った。
「じゃあ俺は森を出る。…道を教えてくれないか?」
「え? …あ、はい。道ですね。え…っと――」
「ここです!」
「おう、ありが…と……う?」
ふと、スマホの画面を外して横を見る。するとそこには自分と同じようにスマホから目線をこちらに移した女子生徒が現れた。お互いに驚きの表情を見せ合っている。それもそのはず、互いにスマホ画面のセリフと現実世界でのセリフがリンクしていたから。更には…
「「まさか…ダンクロート…やってる(んですか)?」」
スマートフォン専用ゲームアプリ、『ダンジョン・クロース・トロイメア』を二人とも起動していたのだった。
「…ってお前は、うちのクラスの武藤遊子!」
「…ってあなたは、クラス担任の海婆子先生!」
因みに無糖遊子は、いっぱい遊んでほしいという意味で遊子の母が名付けた。更に婆子の意味は婆子のおばあちゃんが自分と顔がそっくりだからという理由で付けたという理由である。
――キーンコーンカーンコーン
学校の鐘が鳴り響く。休み時間の終わりを告げる鐘であった。だがそんなことはどうでもいい。それよりも…
人は同じクラスの教師と生徒であったのだ。
まあそういうわけで、現実世界とゲームの世界で出会ってしまった二人は、これから一体全体どうなっていくか。色々構想があって面白いそうです。とりあえず最初はここまで、続きはまあ、人気になったら書こうかな…? いや! 自分がこの世界を広げようと思ったら続けよう。…どっちにしよう。優柔不断でサボり魔の作者はどうしたらいいんだ…。というわけで、面白かったら評価お願いします。評価次第でこの物語が続くかもしれません。