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21 獅城桜と告白と

〈前回のあらすじ〉

 いっぱい戦った






 「いやー、すごいな。もう平民級悪魔の中でも最強のギャショウ種に1対1で圧倒するとか。」

 「いや、逃げ回りながらちょこちょこ切りつけてただけだから。」

 「それでもすごいですよ。私には絶対無理です。」

 「お、嫌みか?お前一番レベル高いもんな。喧嘩うっとんのやったら買うぞ?」

 「彩乃......魔法使い。」

 「じょ、冗談ですよ~」


 店の一角で俺たちの笑い声があがる。


 俺たちはあの後、時間をかけて素材回収したのち、消耗が激しいということで帰ってきた。


 そこで、どうせならと地下迷宮に行く前に助けた女の子—ー獅城桜から渡されたメモに書いてあった店—ーフェアリーバーに行くことにした。


 「はい、お待たせしました。赤ワイン煮込みの牛バラ肉のチーズリゾット、一角獣(ユニコーン)のユッケ、黄金鶏のイエロースライムステーキに、ポイズンバタフライとアサシンウルフの骨付き肉、ソードリザードマンとポイズンスパイダーのイエロースライム鍋になります。火、つけますね。」


 と、ウエイトレス姿の桜が積み上げた料理を持ってくる......

 よくそんなに積めたな。


 一方の俺らは顔を引きつらす。

 ここは、少し高めの酒場といったところだが、今出てきた料理はその中でも高級、上級狩人(ベテランハンター)でもおいそれとは手を出せないようなもなばっかだ。


 それを頼んだのには訳がある......


 というか俺らは頼んでいない。


 桜が夕方のお礼に奢らせてくれと、かたくなに断らなかったので、そうさせてもらうことにしたのだ。


 すると桜がおすすめの品があるからといったので、それにしてもらったのだ。


 「えっと、こんなに高いのばっかり大丈夫なんですか?」

 「はい、こうでもしないと遠慮なさると思ったので。味は保証します。安心してください、あとで請求なんてしませんから。」

 「あ、いや......」


 そうして小さめの鍋4つすべてに火をつけ終えた桜が姿勢を正して、


 「あらためまして、神崎さん、夕方は助けていただいてありがとうございました。」


 礼を言ってきた。


 「もうそんな何回もやめてください。けがをしたわけでもないのですから。」

 「......助ける、当たり前。」

 「はい、ありがとうございます。それでは、今日は私のおごりなんで遠慮せずに食べてください。」

 「じゃあ、いただきます。」

 「「いただきます。」」


 そういって料理に手を付ける。

 まずはチーズリゾット。

 牛肉と一緒に木製スプーンですくって食べる。


 「—ーッ」


 瞬間、口の中に広がる赤ワインのコクのある風味、

 わずかに感じるパルメザンチーズの舌触りに噛んだ牛バラの油が流れ込んでくる。

 牛バラも表世界でこんなに柔らかいのは食ったことがない。

 まあ、牛肉もあんまり食べたことがないんだが。

 うちが貧乏なことを知ってか、クラスの女子たちが作ってくれて夜に温めて食べるお弁当にたまに入ってる炒め物ぐらいだ。

あとなんかのお祝いでちょっといいお店に行ったときとか。


 「うまい。」


 ただそれだけしか出てこなかった。


 「これもすごいなあ。」


 よこでアサシンウルフの骨付き肉を食っていた翔馬が—ー同族食い(笑)—ー油を滴り落としながらつぶやいでいる。


 「狼とは思えへんくらい柔らかくて油が詰まってる。でも全然あざとくなくて......そうか。アサシンウルフは筋肉をほとんど使わんからこんなに柔らかなるんか。スパイスのポイズンバタフライの羽もすごい。まるでいくつもの香辛料を混ぜ合わせて作った塩みたいな......」

 「この黄金鶏もすごい。信じられないくらい柔らかいです。周りのイエロースライムのだしも、これは黄金鶏のおいしさを引き立てるためにあえて薄めて白湯(パイタン)みたいに。でも黄金鶏の油が染み出てて......」


 俺の前でスープを飲む彩乃も感嘆の声を上げる。


 二人とも饒舌だな......。


 桃は......


 「ハァーー」


 あ、あかん、天に上りかけてるわ。


 一角獣(ユニコーン)のユッケを食べた桃は恍惚とした顔をしている。

 あんな幸せそうな顔初めて見た。


 「喜んでもらえてよかったです。」

 「いや、獅城さん、あれの対価にこれだけのものが食べられるのなら安すぎですよ。おつりが大量に出ます。」

 「やめてください。獅城じゃなくて桜と呼んでください敬語もやめてもらえると......」

 「えっと、桜......さん、桜さんも俺のことは直兎と呼んでくだ—ー呼んでくれ。」


 せめてもと、俺が返すと、


 「はいっ。」


 桜は名前にたがわぬ華やかな笑顔を見せた。


 後ろに下ろされた銀髪に光が反射して光っているように見える。


 すごくきれいだ。


 となりを見ると翔馬がにやにやしていた。


 何だよてめえ。


 ◇


 夜、俺は寮で保護者の明美さんと、玄関横の管理室で向かい合っていた。


 大事な話がある、と言って時間を作ってもらった。


 ほかの寮生はもう寝ている。


 「それで?直兎、話って何だい?」

 「はい、実は、—ー今、生徒会に入ってるっていうのは嘘で......」

 「......」

 「仕事を始めたんです。他言無用でお願いしたいんですけど、実はこの世界には—ー」


 そして話す。

 裏世界という存在を。

 俺がそこで何をしているのかを。


 できるだけ詳しく、

 わかりやすいように。


 なぜ今かというと、いろいろと聞いて、これは隠し通すことは無理だと判断し、それならできるだけ早く打ち明けようと思ったからだ。


 その間、明美さんは黙って聞いてくれていた。


 そして、


 「—ーということです。」

 「......」


 すべてを話し終えて、明美さんは、


 「直兎、」

 「はい。」

 「それは......楽しいか。」


 ただそれだけ聞いてきた。


 「はい。チームメイトは優しいし、レベルが上がって自分が強くなると嬉しいし、魔法なんて今まで体験したことないことなんかも体験出来て。最近何やっても飽き飽きしてたけどこれはすごい楽しいです。」


 俺は本心からそう答える。


 「そう、無理してお金のためにしてるんやないんやね。なら私からは何も言わん。ただ、自分の体は大事にし。私たちは家族や。湊も、健一も、それこそ香織だって、直兎が傷ついて帰ってきたら悲しむ。どんな卑劣な手を使っても、誰になんとののしられようとも、ここに帰ってき。そしたら迎えたる。家族だけは一生の味方や。分かったな。」


 そう、明美さんが答える。


 本当に、この人にはかなわんなあ。


 「はい。ありがとうございます、明美さん。」


 そう返事して、俺は自分の部屋に戻った。


 ◇


 そして、翌日。

 4限の数学-βが終わり、昼休みに入る。


 そこで俺は花鈴と大成のところに行く。


 「なあ、今日は中庭で食べよ。」

 「いいけど……なぜ急に?」

 「いや、ちょっと話したいことがあって……」

 「ここでもいいけど……」

 「いや、他人に聞かれたくないことやから。」

 「あ、わかった。恋愛相談だろ。」


 大成がおちゃらけた雰囲気でおどける。


 ゴンッ


 「ッツー」

 「雰囲気で悟りなさいよ。真面目な話でしょう?」

 「わかったわかった。だから頭ゴリゴリするのやめてー」


 大成の冗談で途端に明るくなる。


 クスリと笑ってしまう。


 きっとなんとなくどんな話かわかってるんだろう。

 その上で不安を取り除いてくれる。


 本人は頑なに認めないだろうけど、こういうところがあるからこそ、俺たちも大成を憎めない。


 「じゃあ、早く行きましょう。ベンチ先に取らないと。」

 「そうやな」


 ◇


 「足りーーーーーん。」


 ベンチで空になった弁当箱を持ち上げて大成が叫ぶ。


 「十分多かったでしょう。」

 「そんなことないって。あ、そうや。直兎、もらった弁当一個ちょうだい。」


 大成が入ってるもらった弁当とは、貧乏な俺の為に夕食として同級生の女子が作ってくれたもののことだ。


 「ダメダメ。あれ誰かにあげたら凄い悲しそうな顔されるから。」


 あれはあれだな、貧乏なのに周りに施しを与える俺を哀れんでいる顔だ。


 「鈍チン……」

 「あなたも大概だけど……」

 「はぁ?」

 「おいそこ、何コソコソ話してるんだ?」

 「いや、直兎その弁当他の寮生に分けてるだろ。」

 「大成、覚えておくといいよ。ばれなければいい。」

 「直兎……よくそれで弁当もらえるわね。」

 「どういう因果?」

 「いや、それより食べ終わったから本題に入ってくれないかしら。」


 そうだった。

 二人に打ち明けるためにわざわざここまで来たのだった。


 「実はさ、最近仕事始めたって言ってただろ。」

 「ええ、こないだ聞いたわよ。」

 「それについてなんだが……」


 話す。

 明美さんの時と同じく、できるだけ詳しく。


 時折、大成が質問をしてくるが、それにも一つずつ答えていく。


 信じられなくてもいい。

 ただ伝えておこう


 そう思っていたが、二人は驚くほど素直に信じた。


 そして。


 「……以上。」


 全てを話し終わる。


 「……」

 「……」

 「……」


 昼食を食べ終え、サッカーを始める学生たちの喧騒を遠くに、ベンチに沈黙が舞い降りる。


 やはり、こんな話信じられないか。

 それとも今まで黙っていたことに怒っているのか。


 はたして二人の反応は、


 「ふーん」


 大成の返事は気の抜けた返事だけだった。


 「え、いや、それだけ?」

 「いや、逆にどういう反応を期待してるんだ?」 

 「それは……その……」


 大成の質問に答えられずに言葉がつまる。


 「直兎が決めたことだったら俺らからは言うことねーよ。なあ?」

 「ええ、直兎はこういうのノリで乗っかるように見えるけど、しっかり考えて行動しているのは知ってるわ。だったらその行動には口を挟むつもりはないの。それくらいには信用してるのよ。」


 ……とんだ過大評価だ。


 「ただ、……死なないでね。直兎ならそうそう失敗しないと思っているけど、ほら、幼馴染が死んじゃうと悲しいじゃない。」


 そういって笑う夏鈴の表情は、なんともまあ混沌とした顔で、それでいてそのまま額縁に入れたいほど綺麗だった。


 「鈍感の幼馴染はツンデレかよ。」


 シリアスぶっ壊れ。




 昨日と今日、三人に告白したことが、正しいかどうかなんてわからない。


 ただ、これを機に、俺の生き方を大きく変えられることになることは、今の俺はまだ……いや、ごくわずかな人数しか知らない。


 ……なんていうんだろうな、俺がラノベの主人公だったら。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。


誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。

修正まで時間がかかるかもしれませんが、助かっています。


「おもしろい!」

「応援してる!」

「はよ次更新しろ!」


そう思っていただいてる方、この下の評価欄で評価してください。

最大10ポイントです。

10ポイントはほんとに助かります。


ブックマークもしていただけるとありがたいです。

ブックマークもしていただけるとありがたいです。(大事なことなので2回言いました)


次回は1月1日0時予定です。(元日)


それではまた次話で。

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