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2 裏世界






 そこは地球の渋谷と同じ建物が建っていた。

 ここに来るまでに通った街とほとんど同じ建物が、同じ場所に建っている。

 そこら辺を歩いているのも人間。

 正真正銘、渋谷の街だ。


 だが、ここがさっきと同じところかと聞くと、10人中10人が違うというだろう。

 さらに何人かは、地球ですらない、と。


 空だ。

 空が赤い。

 太陽も雲も見当たらず、そのかわり空全体が黒がかった赤になっている。

 だがなぜか暗くはなく、—ー明るくもないが—ー視界は良好だ。

 そして、不安を掻き立てる空気があたり一面に漂っている。


 裏世界(バックワールド)。青木はそう言った。

 ならここは異世界なのだろうか。


 「ええ。ここは異世界です。」


 —-やっぱり思考を読んでいる。

 ......いや、今のは誰でもわかるか。


 「それもただの異世界ではありません。見ての通り、皆さんが住んでいる世界、表世界(フェイスワールド)と強いつながりを持った世界です。」


 語りながら青木はゆっくりと歩いていく。

 それについていきながら、話に耳を傾ける。


 「しかしこの世界は危険です。常に人を襲ってくる魔物と悪魔がいる。そこの門、ゲートといいますが、ゲートの周り、渋谷区あたりは、『生き残った(サバイブド)都市(シティ)』と言って魔物も悪魔も()()、寄り付きませんが、ここから出れば違います。常に魔物や悪魔、総じてモンスターと呼びますがが、モンスターが襲い掛かってきます。そこで私たちはモンスターを撃退するための組織を作りました。ここがその組織の本部です。」


 そう言って青木は入っていく。

 それに続いて俺たちも。


 大きな木の扉をくぐって入ったその建物は、都心部にしてはずいぶんと底面積—ー敷地面積—ーが広く3階建てになっていた。

 扉から進んで奥に向かうとカウンター—ーおそらく受付—ーがあり、その両隣に階段。

 中央の大きな鳥の化石を囲うように机と椅子が並んでいて、今もそこで何人かの人が雑談をしたり、食事をとったりしている。上は2階、3階と中央が吹き抜けになっており、外側に部屋などがずらっと並んでいる。

 こんな建物、表世界(フェイスワールド)の渋谷にはないだろう。

 建て直したか。


 「東京都市本部。表世界(フェイスワールド)でいうところの都庁でしょうか。見ての通り、1階は受付と酒場になっています。基本的には、受付でモンスターの討伐依頼、クエストを受けたり、魔物の素材や魔石を売ったりします。

 どうです?ゲームみたいでわかりやすいでしょう。

 あなたたちにはここに通ってもらうか、住み込みでクエストを受けてもらいたいのです。」


 なるほど。それで魔物の素材とかを売ったお金で生活できるわけか。

 まあ、やるとしても落ち着くまでは寮から通うことになるだろうが。


 「それと、モンスターを積極的に倒す理由は、モンスターは常に生まれ続け、数が増えると密度を増し、都市内に入り込んでくる。最悪の場合は、そのモンスターが(ゲート)に入り込んでしまうことです。」


 —-‼


 確かに、モンスターが表世界(フェイスワールド)に行けば、人々を襲い、間違いなく大混乱に陥るだろう。


 が、そこで、


 「おっと、少し勘違いをしている人がいるみたいですね。モンスターが表世界(フェイスワールド)で物理的に人々を襲うことはあり得ませんよ。」


 どういうことだ?


 「モンスターは(ゲート)をくぐった時点で、肉体を維持できなくなるからです。ただ、もちろん害はありますよ。

 悪魔が(ゲート)をくぐれば瘴気となって表世界(フェイスワールド)を漂い、人間の憎悪や欲望といったを増幅させ、悪政や犯罪を多発させる。

 また、魔物が(ゲート)をくぐれば異分子として表世界(フェイスワールド)を漂い、自然現象に干渉し、感染病や異常気象、災害を起こす。

 つまり、間接的に人々に害を及ぼすので、我々はそれを阻止するために、モンスターを狩っているのです。」


 なるほど。

 ただ、質が悪い。

 あくまで表世界(フェイスワールド)で起きてもおかしくない事件として害を及ぼすため、対処のしようがない。

 モンスターの原型を保って人を襲ったほうが、自衛隊や軍を送るなりで対処ができる。


 「これが最後です。引き受けてくれますか?降りる人は手を挙げてください。」


 最後の確認だ。


 これに対しての答えは俺は意外と早くから決めていた。


 やる。

 学校があるから合間の時間にしかできないだろうが、それでもいい。

 命の危険があるが、安全策を取っていればある程度大丈夫だろう。

 むしろ刺激(スリル)があっていい。

 異世界にも行ってみたいと思ってたしね。

 これだけの好条件で退屈な日々から抜け出せるなら願ったりかなったりだ。


 周りを見ても誰ひとり手を挙げない。


 「わかりました。全員参加ですね。

 それでは説明を続けます。この世界のシステムについて教えましょう。

 まず。右手を体の前で振り落としながら、ステータス、と念じてください。」


 ステータス


==============================

 神崎 直兎 14歳 人族 Lv.1


 HP 100%

 MP 100%


 力    7

 敏捷   6

 器用   12

 知能   34

 耐久   2

 魔耐久  0

 魔力   1


 スキル


 独自魔法


==============================


 すると、右手を振り下ろしたところに、白く光るボードが現れた。


 周りの人もみんな手を振り下ろしているが、ボードは見えないので、これは自分にしか見えないのだろう。


 「これがステータスウィンドウ。自分自身の能力(ステータス)をあらわしたものです。

 次に、左手を振り下ろしながら、アイテムボックスと念じてみてください。


 アイテムボックス


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 神崎 直兎


 データコイン

  500p


 アイテム


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 すると同じく青く光るボードが現れた。


 「こちらがアイテムウィンドウ。システムがらみのアイテムを情報化してあらわしたものです。

 データコインというのは裏世界(バックワールド)で使える仮想通貨のこと。1pが1ドル、約120円です。全員に軍資金500pを払っていますが、足りなければ、現金を受付にもっていけばデータコインに還元してくれます。」


 軍資金に6万円はたかい。

 ここにいる全員に払うとなると、合計金額180万円だ。

 よっぽどきつい状況なのだろうか。


 「以上でチュートリアルを終わります。あとは自分たちで臨機応変に頑張ってください。質問は受け付けません。

 ......っと、1つ、忘れてました。

 今、全員にあるアイテムを送ったので見ておいてください。

 表世界(フェイスワールド)で使えば、(ゲート)まで転移できる空間制御装置です。

 では、頑張ってください。」


 そう言って、青木と秘書の望月可憐は奥へと消えていった。


 いわれた通りアイテムウィンドウを見ると、確かに何か追加されていた。


 〔空間制御装置 東京(ゲート)


 というらしい。



   ◇



 さっそく行動を開始しよう。ここに来るまでに、ケーキ屋とか服屋が武器屋っぽい店になっているが2軒程とりあえず、町を探索しながら装備を調えよう。

 6万円あればなんとかなる...... はず。


 ほかの子供たちも似たようなことを考えたのだろう、少しずつ本部から人が出ていく。


 本部から出るとやけに人が多かったが、それらを避けて進もうとすると、


 —-ダッダダー


 ものすごい勢いで何かが突進してきた。


 とっさにその場から離脱して身構えるが、その必要はなかったらしく、()()は先ほどまで俺がいた位置の手前で急停止した。


 ようやく目視で来るようになり、それを見ると、小さな女の子だった。


 かなり幼く—ーピカピカのランドセルを背負わせたら、一部の人間から歓声が上がるであろう—ー見えるサイズの体に、茶色がかった髪から柔らかそうなおさげがふたつ、こちらも全く発育してない胸の前にたらされている。

 動きやすそうなショートパンツに薄黄色のフードつきパーカーを羽織った私服姿で、それだけならかわいいロリキャラなのだが、彼女の左手には俺の身長より長そうな—ーおそらくは武器であろう—ー赤い槍が握られていた。


 彼女はくるんっと俺のほうに向きなおり、まくし立ててきた。


 「入る。」


 ......はい?











8話くらいまでは、説明会なので、何言ってるか全然わからないと思いますが、じっくりと読んでください。

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