11 乾杯と帰還
「「「「乾杯!」」」」
基礎魔法を覚えた俺たちと、素材を売り終えた翔馬たちは合流して、近くの飲食店—ーもとい、酒屋に入った。
新しくギルドに入った俺の歓迎会をしてくれるらしい。
寮の方には、夕食はいらないと連絡している。
ちっさめのビルの1階にあるこの酒屋は、カウンター席12と、テーブルが6つくらいの、少し大きめの酒屋だ。
まだ時間も早い—ー現在5時前—ーこともあり、半分くらいしかいない。
あと3時間もすれば、満杯になるらしい。
テーブルに並んだ品は、ゴブリンのから揚げ、オークの生姜焼き、マンゴーのスライム煮、カリーバ(魚)のトレント焼きetc,etc......
異世界料理です。
ゴブリンとか、あの顔見たら食べたくないんだけど。
飲み物は彩乃と翔馬が酒。俺はサイダーで、桃はミルク(ミノタウロスの。w)。
ここは表世界ではないので、未成年の彩乃も酒を飲める。
俺は飲まないけど。
サイダーを飲んで、料理を食べる。
—-ッ!
「うまい!」
やばっ。これがあのゴブリン?
すごい柔らかくて、ジューシー。
んー、鶏肉の、ももに近いかなあ。
オークはまんま豚。
マンゴーのスライム煮、これもおいしい。
マンゴーはいい感じに熟してて、甘みが出てるのに、ほとんど煮崩れしてない。
スライムてなんだろうな。
「そうやろ。俺も初めて食べたときはびっくりしたわ。なんせあの見た目やからな。」
「うっ。」
思い出したらちょっと食えへんわ。
「翔馬さん、それはマナー違反ですよ。」
彩乃が起こる。
まあ、確かにマナー違反やろうな......うっ。
やばい。もう考えんとこ。
「はは、すまんすまん。」
ちなみに、この酒屋を経営して人、というか、その他武器屋や薬や、宿屋に道具屋などの店員は、ほとんどが桃のようなこの世界の住人だそうだ。
両親ともに裏世界の人間で、この世界に暮らしている人のうち、大半は非戦闘員らしい。
店を経営したりして、戦闘員—ー狩人のサポートをする人が多いのだとか。
それもあって、狩人の中には傲岸不遜で、自己中心的で、トラブルを起こす人もいるらしい。
やりすぎると本部から何らかの処分が下るらしいが。
非戦闘員の中では、本部の職員がエリートである。
表世界でいうと、公務員......いや、官僚とか政治家みたいなものだそうだ。
最高責任者—ー表世界でいうと内閣総理大臣的な人—ーは、なんとびっくり、今日俺を裏世界に連れてきたあの青木さんらしい。
本部直属のギルド【東京都本部】のリーダーってことだ。
なんやかんやしゃべりながら、飲み食いして、2時間ほど。
人が多くなってきたところで酒屋を出て解散した。
お金はギルドの経費から出た。
ありがたいありがたい。
「じゃあ。明日は午後4時くらいやな。」
「はい。それじゃあ。」
門の前で3人と別れる。
3人はホームで寝るらしい。
べろんべろんによってつぶれた彩乃は桃が背負ってる。
3人に背を向けて俺は門に足を踏み入れる。
来た時のような、どこかわからないところを歩いていく感じはなく、すぐに、あのビルの地下に出た。
◇
「ただいま帰りました。」
寮に帰ってきた俺は、玄関の隣の部屋にいる寮生の保護者である明美さんに挨拶をする。
もうすぐ60代に届こうかという年齢で、穏やかな顔つきの明美さんは、この寮に住むたった一人の大人だ。
「直兎か。はい、お帰りなさい。」
そのまま廊下を進んでリビングに入る。
「お帰り。」
「......」
リビングのL字ソファーには、2人の男女が座っていた。
健一お兄ちゃんとその妹の香織ちゃんだ。
健一お兄ちゃん、赤坂健一は現在中学3年生で、両親がいなくなって行き場のなくなった俺を保護してくれて、ここまで連れてきてくれた俺の恩人だ。
この寮に入ってからも何かと世話をやいてくれた、お兄ちゃんのような存在だ。
香織ちゃんは小学6年生で、健一お兄ちゃんの妹。
それなりにかわいくて、勉強もできる優等生らしいが、欠点は重度のブラコン。
そして自分の兄を同じく兄と慕っている俺のことを極度に嫌っている。
二人は、両親が現在シリアの石油会社で働いていて、2歳と5歳の時にこの寮に預けられている。
「ただいま。」
俺は二人にあいさつをして、洗面所にうがいをしに行く。
「どこ行ってたんだ?朝は散歩に行くって言ってたけど一日中一人で散歩してたわけじゃないだろう?」
健一お兄ちゃんが聞いてくる。
「あー、えっと、気まぐれで渋谷の方に行ったら小学校の友達とあって、それでみんなで渋谷をまわってた。」
とっさに口から出まかせをはいてごまかす。
「そうか。楽しかったか?」
「はい。すっごく。」
嘘はついてない。
事実、今日はすごい楽しかったし。
「そうか。それはよかった。お風呂あとは直兎だけやから入ってお湯ぬいといてな。」
そのまま2階に上がって自分の部屋に戻る。
荷物は財布とスマホしかない。剣とナイフはギルドのホームに置いてきたし、行きは特に何も持って行かなかった。
時刻は9時前、いつもなら寝るには早すぎる時間だけど、今日はもう疲れたからお風呂に入って寝よう。
タオルと着替えを持って下に降りる。ちょうど明美さんがリビングにいた。
「明美さん、これから今日くらいの時間に帰ってくるかもしれません。」
「なんかあったのですか?」
「はい。今日メールが来て、生徒会に入ることになったんです。それでしばらくは今度の行事の準備で学校に残らないといけなくて。ご迷惑おかけするんですが、夕食は置いといてくれたら食べとくんで。すいません。」
「そうか。大丈夫やで。直兎はクラブにも入ってなかったからな。頑張りな。」
「......はい。頑張ります。」
嘘をついてるのに応援してくれてることに罪悪感を覚える。
「直兎、おまえ生徒会はいるんか。」
健一おにいちゃんも聞いてくる。
「......ええ。まあ。」
「そうか。頑張れよ。」
「はい。」
そのまま、リビングから逃げるようにお風呂へ向かう。
お風呂に上がった後、自分の部屋のベッドに横になる。
やっぱりまだ早かったが、すぐに眠りに落ちた。
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次回は10月10日0時予定です。
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