5話 山桜枝きる風の名残なく花をさながらわがものにする
前回のあらすじ
少女を助けた。そして、白犬は城に向かう。
救った少女は目を覚ましたが、声を発する事はなかった。なぜなら祟りの浸食がもはや首にまで及んでいたからだ。しかしこちらには覚の力を持つ妖刀がいるので、苦しいことはなかった。
「君の名前は?どうして祟りに?」
「名前もどうしてこうなったのかもわからない、気が付いたら倒れていて村人たちに追いかけられていた。とのことです」
「それで、君は祟りのことを知っているの?」
「はい、なぜか自分の存在に関わらない記憶はある程度あります。とのことです」
「ほうほう、では当面の予定とかは?」
「取り敢えずこの祟りを解く方法を探さないことにはなにもできないので。とのことです」
「なるほど。って太刀さんよ、“とのことです“がすごい邪魔なんだけど」
「気を付ける、と言っておきます。それより主、いつまでその娘を負ぶってるつもりですか?さすがに恥ずかしいと思ってらっしゃいますよ」
「そうか、それはすまないね」
私は少女を下ろし、前に持っていた荷物を後ろに背負い直した。
「そういえば、ここから城下まであと少しですね。と」
「そうなのか?」
「はい、彼女の言う通りここからなら1時間もしないで着きます」
「しかし城なんて見えないぞ」
「この国の城は今妖に見えないように隠されているそうです。でも城下に入れば見えますよ。と」
「なるほど、それは早く見てみたいものだし、速度を上げていくかな」
「急ぐ必要はあまりないかとおもいます」
※
「今回も、また繰り返されるのか。紫水殿は人格をも失い、記憶も失い、肉体も失ってもなお浄化の舞を踊り続ける定めを全うしなくてはならない。王よ、どうして6人の転生者の定めを終わりにできないのでしょうか」
「それは、簡単なことで他の国の王がまだ傀儡の状態だからだ。だからアレと戦えるのが私らしかいない。圧倒的、力不足だ」
「しかし王は強いし、俺もいますよ」
「じゃあお前に聞くが、私ら二人で一騎当千しても、5つの国を同時に滅ぼせるか?」
「せいぜい転生者を相手にしないなら1国が限界ですね」
「だろ?アレは6国の力を持ってしないと倒せないんだ。なぜなら、アレは大量の魂を収集し妖の軍勢を作っている。言っておくが今この国に向けられているのはその一部でしかないからな」
「そうですよね、やはり我らには時を待つしかないのでしょうか」
「ああ、傀儡の王ではない新しい指導者の訪れをな」
※
城門を潜ったその先は、どこぞの物語の世界のような美しい和風な建築が広がっていた。水の都、と呼ぶべきなタワーカルストの地形だ。私の記憶にある中国の山水画というもののような景色だと思ってもらえればよいかな。
あたりを見渡し城を探すと、一つだけ巨大な天空まで聳え立つ山のような建物があった。恐らく、あれが城だろう。そう決めつけ私はそこに向かう。
「主、よく城がわかりましたね」
「見ればわかるでしょ」
「でもどうやって城に入るのですか。と」
「お前を見せれば大丈夫でしょ」
「ああ、そうだ」
突然背後から女性の声がしたので、驚いて振り返るとそこには絵画のように美しい女性が剣士風の男を引き連れ立っていた。
「貴方のことを待っていました。紫水様」
「紫水?誰のこと?」
「貴女様です。犬の見た目のお方、どうやら既に次の紫水様もいらっしゃっているようで。それはともかく、まず私についてきてください」
「そんな見ず知らずの人について行けないよ」
「そういえば、貴女は記憶がないのだったな。我こそが森の国3代目国王、オロチだ。そして隣に居るのが私の護衛である剣士、キセツだ。それで、お前には済まないが今すぐ来て欲しいのだ。もうじきここに妖の大群がやってくる。それを止めるにはお前が舞を踊らねばならないのだ。そうでないと、多くの者が死ぬ」
「それは、百鬼夜行ですね。王よ、貴女のことを知らずにあのような言葉で話して済まない」
「いや、気にしないでくれ。さあ、舞台に向かうから着いてきてくれ」
「わかりました」
私は王の跡をついて行った。舞の踊り方は何となく覚えているから、問題はない。ただ、いくつか気になる点があるのだが、王に対しそれを聞くのは何処かおこがましい気持であった。
まあ、そんなことは置いておいて、私は先生の遺志の元、舞を踊り、そして多くの人を助けるんだ。なぜかわからないけど、それを必ずしなければならない気がするんだ。
※
「会場はここです」
王はそう言い、白犬のフードを外した。その時、風と共に花びらが舞、白犬を包む。滝つぼにある会場に水しぶきの霧が漂い、花びらが水を含み落ちていく。すると、白犬は着物姿の能面の男性となっていた。
「紫水、また会えましたね」
「ああ、魂の片割れもここに居るようだからな。元気にしていたか、大蛇」
「ええ、お陰様で。でも、またすぐにお別れなんて、悲しいものね」
「大丈夫、また会えるさ。さあ、早速舞おうか」
そして紫水と呼ばれた白犬は舞を始めた。
※
紫水の定め、それは“繰り返す”。生まれ、妖を浄化すべく舞、そして死ぬ。それが彼の定め。いつになったら、彼はその定めから解き放たれるのだろうか。そんな時は来るのだろうか。それは、まだ誰も知らない物語。
終わり
あとがき
初めて書いた小説です。内容がまとまっていないし、文章のリズムも悪くて、直さないといけないところが沢山あります。ただ、これからももっと精進して、書きたい物語を書けるように頑張るつもりです。




