4話 梅が香にたぐへて聞けば鶯の声なつかしき春の山里
前回のあらすじ
城に向かう旅が始まった
刀曰、刀の力があれば一時的にでも人の姿に成れるとの話だった。しかし、私は結局人の姿に成ることは叶わず、刀の力をもってしても獣人といったくらいの見た目でしかなかった。取り敢えず近くの村で城の位置とか聞こうと思うのだが、このような獣人の姿ではいろいろと面倒だ。そこで私は今、寄り道をしている。
「刀、抜けば珠散るとかなんとかっていうくらい切れるのだろう?だから、少しその切れ味を試させてもらうよ」
「主の考えは全てわかりますが、僕をそのような物で試さないでください。それなら小刀とか鋏でいいのではないかと」
「私は犬だ。そんなもの持っていない」
「先生の鞄に......」
「では行くぞ」
私は居合の構えを取る。一陣の風が吹き、木に掛けてある黒布をふわりと吹き飛ばした瞬間を狙い、私は腕を出しその風を斬る。ほろほろと切れた布が落ちていき、布は見事に型紙通りに斬れた。
「よし、あとは縫うだけだ。前世の知識で裁縫を覚えているから、夕方までには終わるな」
「僕の切れ味どうでした?」
「氣で斬ったからよくわからん。それより、少しの間黙っててほしいな。裁縫には集中力が必要だから」
「わかりました」
※
完成した粗末な黒のローブを纏い、白犬は街道沿いに歩いた。傍から見れば、寒くもないのに厚手のローブを着こみ、顔をフードで隠しているだけでなく手には立派な緋色の太刀を持っているその姿は異様に見えただろう。しかし、白犬はそんなことを気にせず歩いた。
「ねえ太刀、どこに村があるとかわからないのか?」
「そうですね...確か...わかりません」
「先生から聞いたりしてないの?」
「はい、そうです」
「それは困ったな。取り敢えず道沿いに行けばいいのかな?」
「多分、問題ないかと。それより主、どうして獣人で行動をなさるのでしょうか?」
「なんとなく、じゃあダメかな?まあ、大した理由はないんだよ。ただ私の微かな前世の記憶で私は人間だったから、この姿の方が居心地がいいんだ」
「そうですか」
しばし二人は黙って歩いていた。すると、そこに一人の少女がぶつかってきた。その少女の足はボロボロで、服は所々破けている。見た所、何かに追われているようだった。
「大丈夫か?」
「......た......て......」
かすれた声で少女は何かを伝えようとしていた。白犬は大丈夫だ、と言って少女を抱きかかえたとき、少女の来た方角から二人の大男が太刀を抜身の状態で持って現れた。
「そこの旅の奴、悪いことは言わない。その少女を殺すんだ、その子はモノノケに憑かれているぞ!」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ。見てみろ、その娘の右手の痣を」
そう言われたので白犬は少女の右手を手に取り見てみた。するとそこには焼け爛れた痕のような醜い痣が腕まで広がっていた。
「これは......!」
「神の祟りですね。恐らく何かしらの禁忌を犯したことによる罰です」
「治せるか?」
「そうですね、できなくはないですが......浄化の舞、そう呼ばれている儀式が必要です。ただ、それを行うにはいよいよもって城に行かないとです」
「なんだ?お前達城に行くというのか?」
「ああ、そうだ」
「そうか、ならやめておけ。今城下では妖が押し寄せてきて戦争中だぞ」
「でも、行かなくてはいけないんだ。そうだ、そこのお二人さん、私がこの少女を連れて行ってもいいかな?」
「連れていくって、城にか?」
「ああ、そうだ」
「そうだな......その娘は妖を引き寄せる存在だ。だから、俺たちはその子を村の為、家族の為に殺さざるえなかっただけだ。もし、お前が連れていってくれるなら止めはしない」
「そうか、ならこの少女は貰っていくぞ」
「なら、少し待ってくれ。俺たちを人殺しにならないようにしてくれたお礼にこんだけもってけ」
片方の男が白犬に少しの銭が入った袋を差し出した。
「本当は俺たちだって殺したくはなかった。そしてお前に全部任せてしまって申し訳なくて、せめてもの礼だ」
「それなら、遠慮なく。ところで、城はどちらに?」
「まさか、今まで知らなかったのか?城はこの街道をずっと行った先にある。大体1週間程で着くぞ」
「そうですか、ありがとうございます。それでは、私はそろそろ」
「ああ、気をつけてな」
二人の男と別れ、白犬は再び城に向かって歩み出した。
※
ここは街道沿いの森の中の少し開けた場所、私と太刀と少女3人?で今野宿をしているところだ。
「いつになったら起きるかな?そもそもなんで祟りに?」
「この祟りは恐らく、神と戦ったのではないでしょうか?」
「そんなことできんの!?」
「ええ、しかし多くの者は生きて帰ることはないとか」
「ということは、この娘かなり強いのか」
「いや、そうではないと思います。それなら村人に殺されそうにならないので。私の情報によると、神と戦い帰って来たものの多くは、偶然巻き込まれてなんとか逃げ帰れたというものが多いです。しかし神と対峙してしまったせいで祟られる」
「可哀そうだね。神様ってのも理不尽だ」
「ええ、そうですね。さて主、そろそろ寝た方がよいのでは?」
「そうだね。じゃあ、おやすみ」
次回予告
遂に城に到着する一行。なぜ城に向かっていたのか明らかに!
5話「山桜枝きる風の名残なく花をさながらわがものにする」




