68.問題児
お待たせしました。
王都を散策するクラッロ公爵の護衛が始まった。
移動手段は徒歩だ。まあ疲れれば念動力で移動する事も視野に入れている。
「この辺りは以前来た時はもっと活気があったが、今はあまり無いな。ラソマ伯爵、どう思う?」
「そうですね…」
こうしてたまに俺に聞いてくる。正直、答えが難しい。政治とは無縁だったし、町興しをした事もない。実家の領地は俺が知る限り、ずっと活気があった。そして、ここが昔と比べてどれ程活気に違いがあるのか分からない。
おそらくクラッロ公爵もそれは分かっているだろう。ただ単に会話の種として喋りかけてきているだけかもしれない。
「お、ラソマ伯爵。あそこに見える学園にスィスル嬢が通っているんだったな」
「ご存知でしたか。はい、通っています」
スィスルの事も調べていたのか。
「ああ、心配しなくても良い。相対する相手の素性を調べるのは私の趣味だ。ラソマ伯爵やレミラレス伯爵の弱味を握ろうとは考えておらん」
「はい」
「今、ラソマ伯爵に敵対しては陛下から罰を受けるかもしれないからな」
クラッロ公爵は苦笑いする。
「罰、ですか?」
「そうだ。勇者ではないのに魔王を倒す事の出来るラソマ伯爵は貴重な人材だ。潰すわけにはいかん」
まあ、そうだよな。勇者しか魔王を倒せないと思われていたこの世界にとって、俺はイレギュラーな存在だろう。
さて、次の場所を目指すか。ん?あそこに見えるのはスィスルだな。
「噂をすればだな。あそこに見えるのはスィスル嬢ではないか?」
「そうです」
外見も調べられているのか。
「声をかけてはどうだ?私もスィスル嬢とは話をしてみたいからな」
「分かりました。スィスルに声をかけてみます」
「ちょっと!そこの冒険者!」
スィスルに声をかけようとした時、女生徒に声をかけられた。何故か怒っている。
「何か?」
「何か、じゃないわよ!さっきからスィスル様を呼び捨てにするなんて、立場を考えなさい!」
「「そうだ!そうだ!」」
女子生徒の取り巻きのような2人の男子生徒も同じように言ってくる。
「いや、俺はスィスルの」
「黙りなさい!スィスル様はレミラレス伯爵様のご息女であり、英雄ラソマ伯爵様の妹君なのよ!あなたのような冒険者が呼び捨てにできるようなお方ではないの!」
いや、俺がその兄なんだけど。それを言おうとしたら遮られてしまった。
と言うか、俺の事は知ってるけど、俺の容姿は知らないのか。
「ククク、スィスル嬢に会うのも一苦労だな」
「笑い事じゃないですよ」
クラッロ公爵は笑っている。
「ちょっと!どこの子供か知らないけど、スィスル様の事をスィスル嬢、だなんて何様のつもり?」
嘘だろ。クラッロ公爵を知らないのか?顔は知らなくても、外見でクラッロ公爵もしくは血縁者なんて分かるだろう。
「ほう?」
「お、落ち着いてください?」
クラッロ公爵が笑顔を消して、真面目な顔で女子生徒を見る。
「きみ、どこの貴族家の者だ?」
「何よ、偉そうに。父様はザケイヘン男爵よ!」
「ザケイヘン男爵か。陛下に報告しなければいけないな」
クラッロ公爵は自分が知られていない事に腹を立てているわけではない。貴族家に生まれた者として最低限の礼儀がなっていない事に対して怒っているんだ。クラッロ公爵はそういう事に厳しいからな。俺達を平民だと勘違いしていたとしても、蔑ろにして良い理由にはならない。でもこの子の態度が横暴だと感じたから国王に言わなければいけないと思ったんだろう。
「陛下に報告ですって!?ただの平民にそんな事ができるわけがないでしょう!」
「なあ、きみ、それ位にしておかないか?これ以上騒いでも自分の為にならないぞ?」
「何ですって?!」
あ、これは駄目だ。人の話を聞く気が全くない。ふと周りを見ると、他の生徒が見ている。でも…うん、俺やクラッロ公爵に気づいているな。でも、この女子生徒を止めようとしない。まあ今更止めても何も変わらないけど。
「あれ?兄様?」
騒いでいると、スィスルがやって来た。
「スィスル様!」
「何かあったの?」
「この無礼者達に説教していたところです」
「無礼者?貴女、兄様に無礼者と言ったの?」
「…え?」
「この人は私の兄様よ。兄様が冒険者をしているのは知っているでしょう?」
「ま、まさか英雄ラソマ伯爵!?」
「そうよ」
女子生徒と2人の男子生徒は驚いている。名乗る暇さえ与えてくれたら良かったんだけどなぁ。
「兄様、今日はどうしたんですか?」
「冒険者としての依頼で、たまたま来ただけだよ」
「この方は?…っ!失礼しました!」
クラッロ公爵を見たスィスルが跪く。その光景に女子生徒達は驚いている。
「私が誰か分かるのかい?」
「クラッロ公爵ですよね?」
「うむ、さすがレミラレス伯爵の娘だな」
クラッロ公爵は感心しているけど、やっぱり知らない方がおかしいと思うんだよなぁ。
「とりあえず、立ってくれ。路上で女性を跪かせるのは趣味じゃないのでね」
「は、はい!」
クラッロ公爵に言われたスィスルはすぐに立ち上がる。
「あ、あの、スィスル様?この方はクラッロ公爵なのですか?」
「見て分からないの?…まさか失礼な事はしてないわよね?」
「そ、それは…」
「スィスル嬢、残念ながらきみの学友は失礼な事をし続けた。親であるザケイヘン男爵にも報告はしないといけないし、陛下にも報告しなければならないだろう」
その結果、処分は免れないだろうな。公爵と伯爵への暴言…特に他の公爵と比べて権力が段違いにあるクラッロ公爵への失礼は不味い。だから王都で生きていくならクラッロ公爵を含む三大公爵の事は知っておかないといけない。
「あ、あの!すみませんでした!」
女子生徒と他の男子生徒が謝罪する。
「うむ、その謝罪は受け入れよう。ただ、だからと言って報告しないという選択肢は無いからな。相応の覚悟はしておくように」
「…はい」
3人は項垂れている。その後、クラッロ公爵は男子生徒の家柄も聞き、3人は立ち去った。
「あのような貴族がまだ居るのか」
「結構多いと思いますよ」
「貴族だからといって平民を蔑んで良い理由にはならんのに」
「そうですね」
クラッロ公爵も俺と同じで、貴族だからという理由で平民を虐げるような、そういう貴族ではない。
「だが、スィスル嬢は私を見てすぐに分かったのだな」
「勉強しているので」
「うむ、良い事だな」
逆にさっきの女子生徒達は勉強していないという事になる。子供だからといって貴族なら油断してはいけない。
「さて、それじゃあ俺は冒険者活動に戻るよ」
「はい!クラッロ公爵様、失礼いたします」
「うむ」
クラッロ公爵の許可を得たスィスルは学校の方に向かった。
「なかなかしっかりした娘だな」
「はい。自慢の妹ですから」
「くくく、そうか。だが気持ちは分かるな。あの歳であれだけしっかりしている者はそうそういないだろう」
「そうでしょうか?」
少しだけ疑問に思ってしまった。貴族として生まれたら、生きていく上で恥ずかしくない最低限の教養を身につけさせられると考えているからだ。
「大抵の貴族は物事をきちんと教えている。しかし、さっきの生徒のように何も教えていない者も少なくないのだ。今までにもそういう者達に会った事はあるからな」
クラッロ公爵は残念そうに言う。同じ貴族として、残念な貴族を見るとガッカリしてしまうのかな。ちなみに俺はさっきの生徒達を見て、同じ貴族だと思うとガッカリした。
「まあ立ち話もなんだ。そろそろ行くか」
「はい」
冒険者活動の再開だな。まさかあんな風に絡まれるとは思わなかった。と言うか、英雄ラソマは知っているのに、俺の顔は知らないんだな。そういう魔道具もあるんだけど。
それから俺は再びクラッロ公爵と王都を散策した。でも、その後は問題は起きなかった。まあクラッロ公爵を狙うような奴も居ないだろうしな。
「今日はご苦労だったな」
「いえ、依頼をこなしただけですから」
クラッロ公爵の屋敷に帰ってきて、リビングで話をする。
「1つ問題は起きたが、それ以外は順調だったな。やはりラソマ伯爵といると問題が起きなくて良いな」
「私が居たから、ですか?」
クラッロ公爵を敵に回す輩がいないだけではないだろうか。
「うむ。英雄ラソマ、お主の影響力は大きい。街の者達も私より、ラソマ伯爵に目が行くだろう」
確かに自分と関わりの少ない貴族より、魔王を倒した英雄の方が注目はされるか。
「今回の散策で分かった事も多い。またラソマ伯爵には依頼する事もあるだろう。その時は頼んだぞ」
「はい」
今後もこういう依頼があるのか。ドラゴンを討伐したり、魔王を倒したりといった事ではなく、こういう平和的な依頼は良いな。身分の高い人と一緒に行動する事で気を遣うのは大変だけど。
その後、俺はギルドに行き、依頼達成の報告をし、報酬をもらって家に帰った。
読んでくださり、ありがとうございます。




