66.魔王の娘
お待たせしました。
応接室に1人の魔族の女の子が入って来た。
「…えっと?」
「今はラソマ伯爵と話をしてるんだから、勝手に入ってきては駄目よ」
「でも私もラソマ様に会いたいです!」
「それでも順序というのがあってね」
興奮している女の子を魔王が諌めようとしている。
「そこに座っている方がラソマ様?」
「そうです。お久し振りですね」
「…あれ?ラソマ様…もしかしてあの時の?」
「はい、カナーハ王女」
「あら?2人は知り合いなの?」
「お母様、ラソマ様は、私が人族の領地に行ってしまった時に、薬草を一緒に探してくれた人です。名前が一緒だったけど、同じ人だとは思いませんでした」
以前、病気の母親の為に薬草を探して、人族の領地まで来たんだよな。妖精に頼んで薬草を見つけてもらったっけ。
王女はメイドに用意してもらった椅子に座る。
「あの時、カナーハを助けてくれたのはラソマ伯爵だったのね」
「ラソマ様は薬草探しだけでなく、火と金属の魔王を倒してくれた2つの意味で恩人なんですね」
「そうね。ラソマ伯爵にはお礼をしても、しきれないわ」
「お礼なんて要らないです。誰かからお礼を言われたくてした事ではないですから」
「そういう謙虚さがあるのが良いわ。どう?カナーハと結婚しない?」
「「え!?」」
魔王の言葉に俺と王女の驚きの言葉が重なる。
「お母様!何を言ってるんですか?!」
「だって魔族を助けてくれるような良い人だし、恩人でもある。それにカナーハも絶対に嫌ってわけじゃないでしょ?」
「そうですけど…」
絶対に嫌じゃないのか…。
「ラソマ伯爵はカナーハの事をどう思う?」
「魅力的だとは思います。でも私はまだ結婚などは考えていません」
「そう…好きな人はいるの?」
「…います」
「いるんですか…」
俺の言葉に王女がガッカリしている。いや、そんな反応をされると、結婚を意識してるみたいじゃないか。俺はアミスと結婚するって決めてるからな。…まあ、アミスの気持ちが変わっていなければだけど。
「でも一夫多妻が許されているし…カナーハは1番でも2番でも良いのよ?それとも魔族と結婚というのは考えられない?」
「そんな事はないです。魔族とか人族とか、そういうのは関係ないです。ただ、結婚相手に1番2番をつけるのは好きではありません」
「別に序列をつけているわけじゃないんだけどね。まあ、これ以上言っても無理そうだし、諦めるわ」
「と言うより、本人の気持ち次第では?王女殿下の気持ちが大切ですよ」
「そうね」
「あの…ラソマ様?私の事は名前で呼んでください」
「え?」
「王女殿下ではなく、カナーハと呼んでください」
「いや、しかし」
王女を名前で呼ぶのは不味いだろう。さっきはカナーハ王女と呼んだけど、あれは以前会った事があるという事と、名前を覚えていたという事を主張する為だ。
「あら、良いじゃない。カナーハの方から攻めるなんて積極的ね」
「そういうわけじゃないです!せっかく恩人であるラソマ様に会えたのに、よそよそしいのは嫌じゃないですか」
「そうね」
「それなら私の事もラソマ、と呼んでください。王族の方々に様付けされるような立場ではないので」
俺の事を様付けするのはやめて欲しい。まして王族に様付けされるのは気が引ける。
「それは駄目です!ラソマ様は私達の恩人なんですから」
「そうね。私は立場上、様付けはできないけど、他の人達が様付けをするのは仕方ないわ」
立場上、と言えるなら、俺の立場を考えて欲しいんだけど。
「フフフ、これ以上からかっては駄目ね。ラソマ伯爵、貴方と会えたのが嬉しくて、少しからかってしまったの。ごめんなさい?」
魔王が微笑みながら言う。からかわれていたのか…。
「そうだったんですか。驚きましたよ」
「え?お母様、からかってたんですか?でも私は様付けをやめないですよ」
「呼び捨ては無理ですか?」
「はい!」
「それでは伯爵と呼ぶのは…」
「無理です。間を感じます」
「それなら………さん付けで呼ぶのはどうですか?」
「ラソマさん…ラソマさん、それなら大丈夫です!」
「良かったです。それではこれから、それでお願いします、王女殿下」
そう言うと、微笑んでいた王女がムスッとした顔をする。
「私の事は名前で呼んでくれないんですか?」
「カナーハ殿下ですよね」
「呼び捨てでも構いませんよ?」
「いえ、それは…」
魔族の国とはいえ、王女を呼び捨てにはできないだろう。
「では、さん付けで」
「…良いんでしょうか?」
「カナーハが良いと言ってるのだから、私としてはどちらでも良いわよ」
確認の為、魔王に聞いてみたら承諾された。良いのか。
「それでは…カナーハさん」
「はい!」
「王女殿下をさん付けで呼ぶのは緊張しますね」
「そんなに緊張しなくても大丈夫です。恩人であるラソマさんになら、呼び捨てでも構わないんですから」
「さすがに呼び捨てにするわけにはいかないですよ」
そう言って苦笑いする。
「せっかく来てくれたのに、街を案内できないのが残念です」
「まだ復興の途中みたいですからね。また来ますよ」
「約束ですよ?」
「はい、約束です」
「ねぇ、ラソマ伯爵。提案があるんだけど」
魔王がそう切り出してくる。怖いな。
「何ですか?」
「私と個人的な友好関係を築かない?」
「個人的な?」
「そう。私は魔族の王、貴方は人族の伯爵。世間的に考えて友好関係なんか作れないでしょ?」
「そうですね。立場がありますし」
「だから、個人的な友好関係はどうかしら?私、モレイクと、ラソマくん、2人で友達になるの。どうかしら?」
「そうですね…」
特にデメリットはないか。人族の誰かにバレた時が不味いかもしれないけど、その誰かと俺なら、俺の言葉を信じてくれそうな気がする。何せ、魔王を2人も殺してるんだから、別の魔王と友好関係を築いているなんて思わないだろう。
モレイクというのは流れ的に魔王の名前だろうな。
「それなら私とも友達になってくれますか?」
魔王に便乗してか、王女もそんな事を聞いてくる。こうなったらやけだな。
「はい。魔王陛下ともカナーハさんとも友好関係を築きます」
「まあ!即決ね!」
「断る理由も無いですし」
「ラソマさんと友達になれるなんて嬉しいです!」
王女が屈託のない笑顔を見せる。そんなに俺と友達になりたかったんだろうか?人族と友達になっても特にメリットがあるようには思えないんだけど。
「不思議そうね?でも単純な事よ。種族に関係なく、恩人であるラソマ君と単なる他人でいたくないだけなの。少しでも精神的な距離を近づけたいのよ」
「そうなんですか」
「精神的な距離が近づくと、こんな事もできるようになるわ。今からする事は攻撃じゃないから驚かないでね?」
「え?はい」
念押しした魔王の胸の前に緑色の光の玉が現れる。それはゆっくりと俺に近づき、俺の胸部分から体内に入ってきた。
俺が全身に張っている結界が反応しなかったという事は、攻撃魔法やスキルではないという事か。
「今のは何ですか?」
「ラソマくんへの有効の証よ。これでラソマくんは初歩的なものだけど、植物の魔法が使えるようになったわ」
「え!?」
それは驚きだぞ。俺が使えるスキルは超能力。勿論、魔法が使えるわけではない。そんな俺が植物の魔法を使えるようになるだって?!
「えっと…どういう事ですか?」
「精神的な関係が近いと判断できれば、こういう事もできるの。まあ魔王だからできるのかもしれないわね」
「それは…すごいですね」
「あくまでも初歩的な魔法だけだから、そこまで凄い事ではないわ。でもこれはラソマくんへの感謝の印でもあるから」
「はい。それはありがとうございます。魔法が使えるだけでも嬉しいです」
この世界に転生して、スキルが魔法使い関連じゃなかったから、魔法を使う事は諦めていた。でもやっぱり魔法が使えるのは嬉しいな。
「どんな魔法が使えるかは自分で調べてみてね。魔族と人族では使える魔法が違ってくるから」
「分かりました」
図書館に行けば分かるだろうか。
「今度は私から友好の証を用意します」
何にしようかな。魔王は植物の魔法が使える力を俺にくれた。俺のスキルでできる事…それならやっぱりアレかな。
「別に何も無くて良いのよ?見返りが欲しくてしたわけじゃないんだから」
「いえ、決めました。この王都に結界を張ります」
「結界?」
魔王に結界が何かを説明する。特に王都に張る結界の効果は敵意ある者の侵入を防ぐものだ。火の魔王と金属の魔王はもう居ないけど、他の魔族が干渉してくるかもしれない。
「そんな結界を張ってくれるの?!」
「はい」
「それは嬉しいわね。結界の効果はどのくらい保つの?」
「分かりません。子供の頃から張り続けている結界がまだ消えないので」
「凄いですね!」
王女が感心している。まあ確かに今のところ限界のないスキルなんて珍しいよな。
「それでも大丈夫なら、すぐに張っても良いですか?」
「ええ、お願いするわ」
魔王に承諾されたので、王都を囲うように結界を張る。これで悪意ある者から攻撃されても王都は大丈夫な筈だ。
「張り終えました」
「ありがとう。これで心配事の1つが消えたわ」
心配事の1つという事は他にもあるんだろう。魔王も大変だな。
その後は楽しくお喋りをして、俺は帰る事になった。
「本日はありがとうございました」
「ううん、こちらこそありがとうね。今度来てくれた時はきちんと観光ができるように復興しておくから」
「はい。でも無理はしないでくださいね?」
「勿論よ」
「あの、ラソマさん。今日は来てくれてありがとう!とても楽しかったです!」
「私も楽しかったですよ、カナーハさん。また来ますね?」
「はい!」
そうして俺は自分の屋敷に帰った。本当は城から瞬間移動で帰りたかったんだけど失礼になるだろうから、領地から出てから瞬間移動した。
「お帰りなさいませ」
帰ってきた俺にアミスが声をかけてくる。
「ただいま、アミス」
「どうでした?大丈夫でしたか?」
「勿論。楽しかったよ」
「そうですか」
俺の言葉にアミスは安堵した。
読んでくださり、ありがとうございます!




