62.スィスルとのデート その2
お待たせしました。
魔術書が置いてある店を出た俺達は、他の王都の観光名所と呼ばれる場所を巡る。一応、観光ガイドブックはあるけど、紙が貴重な世界なので、ガイドブックは高い。それでも俺なら買える。まあこの先、使う機会があるのかと聞かれれば答えるのに困るけど。
そうして何ヶ所か巡った後、装飾品店に向かった。スィスルに入学祝いを買ってあげる為だ。
「本当に良いんですか?」
「勿論だよ」
「でも、この服も買ってもらったのに…」
「それは入学祝いとは関係ないプレゼントだからね。それにスィスルもそろそろ素敵な装飾品を身につけるべきだと思うんだ。貴族だらけの学校に入学したわけだし」
スィスルは基本的に装飾品はつけない。でも、いずれつける事になるだろうし、そもそも女子生徒達は貴族家の娘として装飾品をつけてくるだろう。その中で伯爵家の娘が装飾品をつけていないと浮いてしまう。世の中、何がきっかけで省かれるか分からないんだから。
と言う風にスィスルに説明した。
「分かりました。でも普通の物で大丈夫です。兄様からのプレゼントというだけで嬉しいです!」
そう言われると豪華なものを買ってあげたくなるな。でも伯爵家の娘相応のものでないと、公爵家の子供から睨まれても困る。よく考えたら難しいな。
「すみません、伯爵家の子供に合う…そうだな…ネックレスはないですか?」
困った時はプロである店員に聞くのが一番だ。
「そちらの女性に似合う物ですね?」
「そうです」
「少々お待ちください」
そう言って店員が候補の物を探してくれる。そして少し待つと幾つかのネックレスをカウンターに並べてくれた。
「こんなにあるのか。スィスルはどれが良い?」
「う〜ん、迷います。少し待ってもらって良いですか?」
「俺は大丈夫。店員さんも良いですか?」
「はい、勿論です」
迷う事数分、スィスルは1つのネックレスを指差した。
「これが良いです」
「分かった。それにしようか。これをください」
「はい」
店員はネックレスを包んでくれようとする。
「あ、そのままで良いです。着けて帰るので」
「分かりました」
「スィスル、ほら着けてあげるよ」
「え?!兄様が、ですか?」
「嫌かい?」
「嫌じゃないです!凄く嬉しいです。それじゃあお願いします」
店員の許可を得て、俺はスィスルにネックレスを着けてあげた。
「うん、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます!一生の宝物にします」
そんな高級品じゃないんだから宝物になんてしなくて良いよ。でも、これなら学校にも着けて行けるだろう。アクセサリーが禁止されているわけでもないし。
スィスルはネックレスを指でいじりながら、微笑んでいる。喜んでくれて良かった。
その後も王都観光を続け、気がつけば夕方になっていた。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」
「まだ大丈夫ですよ?」
「駄目。明日も学校だろ?ちゃんとした生活をしないとな。と言っても、夕食はうちで食べて行くだろ?」
「はい!」
「お帰りなさいませ」
「ただいま、アミス」
屋敷に帰るとアミスが出迎えてくれる。
「アミス、ただいま」
「お帰りなさいませ。あら?スィスル様、素敵なネックレスをつけてますね」
「うん。兄様に買ってもらったの。似合ってる?」
「はい。とても」
スィスルの嬉しそうな声にアミスも嬉しそうだな。
「今度はアミスが買ってもらったら?」
「私ですか!?私にネックレスなんて…」
「アミスにも近い内に買ってあげようと思ってたんだけど、要らなかった?」
「いえ!もし買ってくださるのなら、嬉しいです」
「良かった。今度、買ってあげるからね」
「はい。ありがとうございます!」
アミスにも喜んでほしいな。でもどんなネックレスが良いか分からないから、また店員に聞いてみるか。分からない時はプロ頼みだ。
それから夕食を食べ、スィスルを瞬間移動で寮に送った。瞬間移動した先は寮の外だ。寮を管理している人にスィスルが戻った事を確認してもらわないといけないから、部屋に直接送る事はできなかった。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「そう言ってもらえて良かった。また今度、どこかに行こうね。まだ王都の全ての観光名所に行ったわけじゃないから」
「はい!兄様とのお出かけ、楽しみです!」
「俺もスィスルと出かけるのは楽しみだよ」
挨拶を終えて、笑顔のスィスルは寮に入って行った。俺はそれを見届けると、自分の屋敷に瞬間移動した。
今日は楽しかったな。スィスルとこれだけ一緒に過ごしたのは久し振りかもしれない。実家に居た時でも、それぞれ別の行動をして、一緒に遊びに出かけた事は少なかったからな。
今度は兄さんと一緒に遊びに行きたいな。でも兄さんは次期伯爵だから、気軽にお出かけっていうのも難しい。結界を張ってるから絶対に大丈夫なんだけど、万が一があると困る。その為には護衛を雇わないといけないわけだけど、そうすると兄弟2人きりで楽しむ、という事ができない。どうしても周りにいる護衛が気になるから。
「…難しいな」
「何がですか?」
屋敷のリビングで寛いでいた時、つい呟いて、気づいたアミスが声をかけてきた。俺は事情を説明する。
「それは確かに難しいですね。オスエ様は次期伯爵ですから、2人きりで気軽に出歩くというのは避けて欲しいです。でも、それを言ってしまうと伯爵当主であるラソマ様にも護衛が必要なんですけど」
「確かに。でも俺は大丈夫だ。Sランク冒険者に手を出そうなんて考える人はいないだろう」
Sランク冒険者が規格外の強さだと言う事は誰でも知っている。ましてや俺は魔王を倒した人間。普通の強さではないと分かってくれてるから、絡まれた事はない。
「そうですね。ですがラソマ様は英雄です。嫉妬から何か行動をする人がいるかもしれません」
「それはあるな。でもその場合、俺じゃなくて、アミス達に何かをするかもしれない」
「はい。ですから私達も外を出歩く時は注意しています」
「うん。でも皆には結界を常に張ってるから、そこまで心配は要らないと思うよ?」
うん、やっぱり兄さんを誘ってみようかな。結界を張ってるけど、心配だったら遠くから護衛の人に見守ってもらっても良いし。男同士で話すのも楽しそうだ。
そう言えば王都に来てからアミスとも観光してないな。
「アミス、今度、一緒に王都観光をしようか」
「誘ってくれるんですか?!」
「うん。あ、でもアミスは王都にある使用人を育てる学校に通ってたんだよね。そんなに王都が珍しくないのか」
「確かに学校は王都でしたけど、立派な使用人になる事を目指していたので、観光をしてる余裕はなかったです」
「そっか。それなら観光しようか」
「はい!楽しみです!」
アミスとの観光、兄さんとの観光、どれも楽しそうだ。それにまたスィスルともどこかに行きたいし。
とりあえず明日からはSランク冒険者として依頼をこなしていこう。お金がないと観光する余裕もないからな。
「どうしたんですか?なんだか楽しそうな顔ですが」
「ん?いや、アミスとの観光を楽しみにしていただけだよ」
「そ、そうですか。私も楽しみです」
ふむ。俺は顔に出やすいんだろうか?それともアミスは長い付き合いだから、俺の表情の変化に敏感なのかもしれない。
アミスとの観光はスィスルの時とは違って、大人向けの場所にも行けるな。ただ俺は15歳。そんな場所に行けば、補導される可能性が高い。伯爵当主だと分かれば大丈夫かもしれないけど、そんな権力の使い方はしたくないしな。普通の観光をするか。
まあ、取り敢えずは冒険者の仕事だな。
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