53.お茶会
ダンジョンマスターが俺個人を狙ってきている。さて、どうするか。俺がダンジョンに入るたびにいちいち攻撃されたらたまったもんじゃない。
『ダンジョンマスター…長いな…ダンマス、どうする?俺が気になるなら、直接そこに行こうか?』
『え?いや、えっと…来なくても良い』
『ん?』
ダンマスが呟く。
『来なくて良い!きみが来ても、もう何もしない!だから来ないでよ』
『そうか。でも俺が来たからと言って魔物を出現させないようにはしないでくれよ?魔物の素材が目的なんだからな。できれば高値で売れる素材の魔物を出現させてくれると嬉しいが』
『分かった。きみが来たらそういう魔物を出現させるよ………だから僕のいる場所には来ないで…』
『分かった。行かない。約束しよう』
『うん』
『とりあえず今日はまだダンジョンにいるから、魔物の方をよろしく頼む』
『うん』
よし、これでお金の心配はしなくて済むな。でもダンマスに悪い気がしてくる。俺を倒したと勘違いした時は上機嫌だったけど、最後は辛そうだったからな。俺も脅すつもりはなかったし…今度は地上の土産でも瞬間移動させるか。
その後は本当に素材が高値で売れる魔物が頻繁に出現するようになった。それらを一撃で倒して、異空間に収納する。ダンマス、ありがとう。
それから体感的に1時間後、俺はギルドの近くに瞬間移動した。そして中に入るとミオナさんの元に向かう。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい!長かったですね」
「そうですか?」
「はい。ギルドを出て5時間は経ってますよ」
もう夕方だからな。
「ダンジョンでは時間が分からないので、つい長く居てしまいますね」
「どの階層まで行けましたか?」
「その前に確認なんですけど、現在の最高到達階層はどこですか?」
「50階層にです」
「なるほど。届かなかったですね。俺は30階層です」
「たった5時間でそこまで行けたんですか!?」
「はい」
透視と瞬間移動を使えばあっという間だ。でもそれがなければ、1階層が広くて階段を探すのさえ一苦労するダンジョンで50階層まで行けた人はすごいと思う。
「1階層がかなり広いですよね。階段を探すのに苦労しました」
「え?苦労したんですか?確かに10階層より下は広くて大変かもしれないですけど、それまでは比較的楽に階段を見つけられる筈ですよ?」
「………やっぱり俺はダンジョンというか、迷路が苦手みたいです」
「それでも30階層まで行けたんですから、大丈夫だと思いますよ」
「ありがとうございます」
ミオナさんに励まされてしまった。
その後、売りたい素材を出す為、ギルドの裏に行く。
結果、予想以上に高値で買い取ってもらえた。担当の職員には、その量に驚かれてしまった。Sランクの依頼を受けるより、こちらの方が稼ぎが良いな。でもSランク冒険者なんだから、きちんと相応の依頼を受けないといけない。Sランクの依頼は危険なものが多い。それらを放置すると国にとって一大事になりかねない。そんな事態を望んでいるわけではないので、きちんと冒険者としての仕事はこなす。
「ただいま」
「お帰りなさいませ。大丈夫ですか?」
屋敷に帰るとアミスが心配そうな顔で出迎えてくれた。
「うん、大丈夫だよ。どうして?」
「お帰りが遅かったからです。ダンジョンは何があるか分からない場所ですから、ラソマ様に万が一の事があったらと思うと心配で…」
「そうか、ごめんよ、心配をかけてしまって。これからは、もう少し早く帰るようにするよ」
「いえ!私こそ、すみません。いつ帰るか、ラソマ様の自由なので、私の事は気にしないでください!」
俺が謝るとアミスが慌てて言う。
「いや、早く帰るようにするよ。もし遅くなりそうだったらテレパシーで伝える。連絡をせずにアミスに心配をかけさせたくないからね」
そうだよ、テレパシーがあるんだから連絡すれば良かった。そうすれば、こんなにアミスを心配させなくて済んだ筈だ。これからは気をつけよう。
翌朝。今日もダンジョンに行くか。そう思って部屋を出ようとした時、ノックする音が聞こえた。
「ラソマ様、起きていますか?」
「うん、起きてるよ、入って」
「失礼します」
部屋に入ってきたのはアミス。
「どうしたの?」
「お、王族からお手紙が来ています」
「王族から?」
手渡された手紙は封筒に入っているけど、その封筒を見ると確かに王家の紋章が入っていた。封筒を開けると、紋章が消える。これは再利用を防ぐ為だ。例えば俺が誰かに対して、王家の紋章が入った封筒を使って、法に触れるような事――殺人とか――をするように指示する。相手は嫌がるだろうが王家の紋章が入っている為、背けば王家の意に反した事になり罰せられる。そう考えて悪事を行ってしまう。実際、過去にそういう事があって問題になったそうだ。それからは王家の紋章を、封筒を開ければ消えるように魔法を使うことになった。
さて、内容は何かな。………なるほどね。まさか社交辞令なんかではなく、本当に実現しようとするとは。
読み終えた俺は手紙を机の上に置く。
「明日、用事ができたよ。王女殿下からお茶会への誘いがきた」
「お茶会ですか!?」
「うん。前に王城に行った時にお茶会の話があったけど、本当に誘われるとは思わなかったな」
「それは一大事ですね!」
「え?そう?」
「そうですよ!王族からのお誘いなんて、普通では考えられません。王家の方々もラソマ様の魅力に気づかれたんですね」
「いやいや…」
アミスの言葉に苦笑いする。不敬になるよ。
手紙にはお茶会に参加する人数も書いていた。と言っても王女様と俺、それから王女様専属のメイドだけだ。人が多くても緊張するし、それくらいの方がリラックスできそうだ。…まあ、相手は第一王女だし、そんなにリラックスもできないか。
翌朝、俺の屋敷に1台の馬車がやって来た。城から俺を迎えに来てくれたらしい。普通なら俺から行くんだろうけど、今回は王女様からの誘いだから来てくれたんだろうか。…いや、それでも俺から行くのが普通か。
朝早くから着替えて用意をしていたので、すぐに馬車に乗り、城に向かう。
やがて城に到着し、俺はメイドに連れられて王女様が待っている庭に向かう。
着いた先、庭はサッカーコートの半分はあるだろう広さ。その真ん中にテーブルと2脚の椅子が置かれている。その内の1脚に王女様が座っており、傍にメイドが待機している。俺を連れてきてくれたメイドは庭に入らず、その場を後にした。おそらく、今のメイドには権限的に入ってはいけないんだろう。何せ、この庭を使えるのは王族だけという話だから。
「ラソマ伯爵、こちらにどうぞ」
王女に呼ばれたので、俺はそちらに歩いて行く。
「クリス王女殿下、本日はお茶会にお招き頂き有り難うございます」
挨拶はきちんとしないとな。相手は王族だ。少しのミスで俺の首が落ちる可能性がある。
「ふふ、緊張しなくても大丈夫ですよ。どうぞ、座ってください」
「失礼します」
あっさり緊張している事がバレてしまった。座ると、メイドが紅茶を入れてくれる。王女が飲むのを待って俺も飲む。うん、美味いな。
「どうですか?」
「美味しいです」
「良かった」
包帯で顔が隠れているけど目元を見れば喜んでいるのが分かる。
「それにしても、まさか本当にお茶会に招待して頂けるとは思いませんでした」
「私から誘ったのに、実現させないなんて事はしないです」
王女からすれば、たかが伯爵なのに、お茶会を実現させるところが凄いな。
さて、何を話せば良いんだろうか。相手は王女だし、俺も伯爵家に生まれて現在自分が伯爵当主だけど、話す内容が思い浮かばない。
「ラソマ伯爵は冒険者をしてるんですよね?今までどのような冒険活動をしてきたんですか?」
不安に思っていたら王女の方から話してくれた。冒険者としての活動なら話せるな。
冒険者になってからの話をする。ドラゴンを倒した時の話では凄いと感心してくれた。基本的にドラゴンは人に対して自ら危害を加えてくる事はない。でも一旦牙を向ければ、人なんて簡単に倒されてしまう。そんなドラゴンを複数倒したんだから驚きなんだろうな。
ダンマスの件は黙っておいた。話しても信じてもらえないかもしれないし、俺としても嘘を話したと思われたくないし。
それからも王都での生活だったり、他愛もない会話をした。でも最初に比べて緊張はしなくなったな。王女の会話の仕方が上手だからだろう。
その後、これ以上の会話はないかな?と思った時、唐突に王女がこんな事を言い出した。
「ところで私の顔に巻いている包帯について知りたい事はありますか?」




