40.意外な出会い
さて、俺の屋敷にはアミスとメルが住む事になった。本当はメルさんと呼びたいんだけど、男爵が自分の屋敷で雇っている人をさん付けで呼ぶのはおかしいという事で、呼び捨てで構わないとメルに言われたので呼び捨てにしている。…少し抵抗がある。これにも慣れていくしかないな。
「おはようございます、ラソマ様。起きていらっしゃいますか?」
「うん、起きてるよ。どうしたの?」
朝、起きるとアミスが部屋を訪ねてきたので、ドアを開けて中に入れる。
「身支度をお手伝いさせて頂きます」
「え?あ、そうか…屋敷だもんな。でも大丈夫だよ。俺は冒険者として活動するから、貴族の服装は着ないんだ」
「でしたら、冒険者の服装の身支度を…」
「それくらい自分でできるよ。ありがとう」
「い、いえ…残念です」
何が残念なんだろうか?
その後、俺は冒険者の服装に着替えて、アミスと共に1階の食堂に行った。
「おはようございます、ラソマ様!」
「おはよう、メル。よく眠れた?」
「はい!今まで住んでいた場所と違って豪華なので最初は緊張しましたけど、ぐっすり眠れました!」
「それは良かった」
「食事もできてますよ。今、運んできますね」
「私も手伝います!」
アミスも食事を運ぶ作業を手伝ってくれるようだ。
「俺も手伝うよ」
「駄目です!ラソマ様は男爵様なんですよ?」
「でも男爵が手伝ってはいけないなんて規則はないよね?」
「ないですけど…駄目です!座ってゆっくりしていてください」
「分かったよ」
2人に言われたので、苦笑いして椅子に座る。まあ規則はないと思うけど、確かに貴族が料理運びを手伝うのは普通ではないだろう。
その後、料理が運ばれてきて、俺達は3人で食事を食べた。宿と同じような庶民的な食事を頼んでおいたから、コース料理のように何度も厨房と食堂を行き来する必要はない。だから2人にも一緒に食事をするように言った。最初は断られたけど、最終的には一緒に楽しく食事ができた。やっぱり1人で食べるより、一緒に食べた方が美味しい。
「それじゃあ行ってきます」
「「行ってらっしゃいませ」」
食事を終えた俺はギルドに向かう。2人に給料を払う為にもしっかり働かないとな!まあ貴族だから国から少しお金が貰えるんだけど、それはそれだ。
「おはようございます!」
「おはようございます。今日は依頼を受けに来ました」
「どういう依頼を受けますか?」
「Aランクで討伐系の依頼を受けます」
俺に採取とか、そういうのは無理だ。いや、無理ではないけど、面倒だ。
「では、これはどうですか?」
「ドラゴンの討伐ですか」
「はい。普通なら1人で行くのは厳しいかもしれないですけど…」
「俺なら大丈夫と判断してくれたんですね?」
「…はい。ラソマ様なら大丈夫ですよね?」
「勿論です。目標のドラゴンも1匹だけですし。ミオナさんは安心して待っていてください」
「はい!気をつけてくださいね?」
「はい。行ってきます」
さて、ドラゴン討伐だな。まずは討伐対象のドラゴンがいる森に向かう。方向はわかってるから千里眼と瞬間移動であっという間だ。あとはドラゴンを探すだけなんだけど…。
「グオオオオッ!」
今の吠え声がドラゴンなら俺は運が良い。行ってみるか。
「ん?あれはまずいんじゃないか!?」
吠え声のした方に行ってみると、そこには1匹のドラゴンと、1人の少女がいた。ただの少女じゃない、魔族だ。
ドラゴンは魔族の少女に向かって口を開ける。口内に火が見えるから、火のブレスを放つつもりなんだろうか。魔族の少女は座り込んで、震えている。逃げる事もできないか。
俺はドラゴンの顔に結界を張る。結界に気づかないドラゴンは火のブレスを放つけど、内側からの攻撃を放った側に跳ね返す効果のある結界により、逆にドラゴンが火のブレスを受けて苦しむ。
「自分のブレスでもダメージを喰らうのか。まあ良い、これで終わりだ」
そう呟いて俺はドラゴンの首を結界刃で切った。
ドラゴンが絶命した事を確認して、俺は魔族の少女の元に向かう。
「大丈夫か?」
「?…ひ、人族!?どうしてここに!?」
座り込んだ状態で俺を見上げた少女は驚きの声を上げる。
「どうしてって…逆にキミはどうして人族の領地にいるんだ?」
「…え?ここは魔族の領地でしょう?」
「いや、人族の領地だけど…」
俺の言葉に驚きつつ、少女は周囲を見渡す。
「…本当ね…ここは人族の領地…」
理解したのか少女は愕然としている。
ちなみに人族の領地と魔族の領地の間に壁みたいなものはない。目印も特にあるわけではなく、場所も様々だ。ここのように森だったり、川だったり、草原だったりする。
ではどうやって境界線が分かるのか。それは雰囲気だ。曖昧な表現かもしれないけど、互いの領地では雰囲気が違う。人によっては居心地が悪く感じるかもしれないし、呼吸がし辛くなる場合もある。ただ一般的な違いとしては空気中に存在する魔力の量だろう。魔族の領地は空気中の魔力量が多い。人によっては多い魔力量は体調を崩しやすい原因になるのだ。逆に魔族が人族の領地に来ると、個人差はあるけど、気分が悪くなるらしい。それでもお互いに弱くなるわけではないから不思議だ。
「あの私…間違えてこっちに来てしまったんです!だから…お願いします…殺さないで…」
少女は怯えながら言う。互いの領地に無断で侵入した場合は何があっても自己責任だからな。
怯えてるけど、それは俺を油断させるための演技かもしれない。読心を使った結果、彼女は本当に間違えて人族の領地に入ってしまった事が分かった。
「分かった、信じるよ。だから殺さない」
そう言うと、少女が唖然とした顔をする。
「え?信じてくれるの?」
「ああ、俺にはそういうスキルがあるからな」
「そうなの… 良かった…」
「ところで、きみはどうしてここに?」
「母が病気で、治すための薬草を探しに来たの」
なかなか見つからなくて先に進んでいた結果、人族の領地に来てしまったらしい。…これも本当だな。
「薬草か。店に行って買ってこようか?」
「嬉しいけど、駄目なの。採取して魔法をかけないと、その薬草はすぐに枯れてしまうから」
そんな薬草があるのか。
「じゃあ見つけるしかないか。でも俺は薬草に詳しくないからな………そうだ、妖精に聞いてみたらどうだろう」
「え?でも妖精は滅多に人の前に姿を見せないし」
「そうだよね」
だからこれは賭けだ。俺はテレパシーで木に声をかける事にした。
『この森の妖精、俺の声が聞こえるか?助けて欲しいんだ』
『良いよ、助けてあげる』
そんな声が聞こえたと同時に、俺の前に1人の妖精ーー見た目は少年ーーが現れた。
「え!?妖精!?」
突然現れた妖精に少女は驚く。でも妖精だって分かるんだな。
「そう妖精だよ。今、この少年に助けを求められて出てきたんだ」
「貴方、妖精と話ができるの?」
「前に話した事はあるけど、この妖精とは初めてかな。それに話してくれるかは分からなかったし」
「キミからは別の妖精の雰囲気が感じ取れたからね。姿を見せても大丈夫だと思ったのさ」
「俺に妖精の雰囲気?」
「前に妖精に会った事があるんだよね?危険な存在には、他の妖精が危険だと分かるようにマーキングされるんだ。逆に安全だったり、友好的な存在には、安全だと分かるマーキングがされる」
なるほど。前に会った妖精はそんな事をしていたのか。まったく気づかなかった。でもそのお陰で、こうしてこの森の妖精に出会えたんだから良かったな。
「さて、それで助けて欲しい理由は、その魔族の少女の求めている薬草かな?」
やっぱり知ってるか。この森で起きた事なら何でも分かるっぽいしな。
「お願いできるかな?」
「勿論!キミは珍しいからね。困っている魔族を見て助けようなんて考える人族はいないよ」
妖精が楽しそうに言う。人族と魔族の仲は良くないしな。でも困ってるなら助けてあげたいと思うのも普通じゃないんだな。
「それじゃあ、お願いできるかな?」
「うん。その薬草は何ていう名前?」
妖精に聞かれた少女は薬草の名前を告げる。妖精が頷いた次の瞬間、俺と少女の間の地面から植物が何本か生えてきた。その植物は急激に成長していき、やがて普通の薬草と同じ大きさになった。
「これで収穫すれば大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます!」
少女は妖精にお礼を言って、生えてきた植物、少女が求めているであろう薬草を採取すると魔法をかけた。
「あの…ありがとうございました!」
少女は人族の俺にまで礼を言う。律儀なんだな。
その時、数人の鎧を着た魔族がこちらに向かって凄い勢いで飛んできた。
「人間!姫様から離れろ!」
少女を庇うように降り立った魔族ーー兜は着けておらず顔で判断するなら全員女性ーーは俺に向かって怒鳴ってきた。




