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36.王様との謁見

「ラソマさん、起きてますか?!」

「はい、起きてます。どうしたんですか?」


 宴会の翌朝、宿泊している宿の自分の部屋で起きていると、宿の従業員のメルさんが訪ねてきた。なんだか焦ってるみたいだけど、どうしたんだろう。

 不思議に思いながらドアを開ける。


「何があったんですか?」

「大変です!ラソマさんに衛兵が訪ねてきてます!」

「衛兵?」


 何かしたかな?

 俺はそのまま部屋を出て、メルさんと共に宿の玄関から外に出る。そこには1台の馬車と、数人の兵士が立っていた。周囲には人も集まってきている。


「俺に何か用かな?」

「お前がラソマか?」


 衛兵の1人が聞いてくる。あ…この男、俺がギルドに登録した日に会ったな。やけに冒険者に悪感情をもっていた記憶がある。


「国王陛下がお呼びだ。一緒に来てもらおう」

「国王陛下が?!」


 王様が呼んでるのか?俺を?!俺だけじゃなくて、周りの人達も驚いている。


「えっと、どうして俺を?」

「詳細は知らん。俺の仕事はお前を城に連れて行く事だからな」

「分かった。それじゃあ国王陛下がお呼びなら、着替えてくるよ」

「待て。たかが冒険者風情が着替えても同じだ。それよりも早く馬車に乗れ」

「それはできない。相手は国王陛下だ。こんな服装じゃあ、会いたくても会えない。すぐに着替えてくるから少しだけ待っていてくれ」

「それは無理だ。早く乗れ!」

「何か勘違いをしてるのかな?」

「なに!?」

「あなたは衛兵だ。衛兵には民間人に対して命令権は無い。だからあなたの命令に俺が従う理由はない」

「なんだと!?」

「取り敢えず着替えてくるよ」


 これ以上の問答は面倒だから、部屋に戻る事にした。


「あの、大丈夫なんですか?」


 俺の後についてきたメルが心配そうに聞く。


「大丈夫です」

「でも、もしあの人がラソマさんを放って行ってしまったりしたら…」

「そうすると、あの人の立場が危ういです。陛下の命令で連れて来るように言った俺を連れて来ずに帰ってしまったんですから」

「そ、それもそうですね」


 少しだけメルさんの表情から心配が消えた。

 それから俺は部屋に戻って着替えを用意する。この着替えはマジックバッグにずっと保管していた貴族としての服だ。家ではアミスに着替えさせてもらっていたけど、もう自分でできる。


「うん、大丈夫だな」


 千里眼で客観的に自分を見て大丈夫かを確認する。家なら姿見があるけど、ここには無い。高級な宿にはあるんだろうけど。サイズも大丈夫そうだ。


「ラソマさん、用意はできましたか?」

「はい、今から出ます」


 メルさんから声が聞こえたので、部屋から出る。


「ふわぁっ!ラソマさん、貴族様みたいですね!」

「ハハ、そうですね」


 みたい、じゃなくて、実際に貴族なんだよな。


「用意できたよ」

「なっ!?」


 外に出て支度ができた事を伝えると、衛兵が驚く。


「その衣服はどうした!?どこから盗んで来たんだ!?」

「凄い言いがかりだな。家から持ってきていただけだよ」

「家からだと?嘘をつくな!冒険者如きの家に、そんな衣服があるわけないだろ!」


 凄い偏見だな。まあ普通の家には無い事は同意するけど。


「とにかく用意ができたから、城に向かおうか。早くしないと陛下に怒られるよ?」

「ぐ…分かった。乗れ!だが、その服の事は調べさせてもらうからな」

「どうぞ」


 呆れてしまうな。そこまで偏見の目を持っているとは…。


「それじゃあ、行ってきます」

「は、はい!行ってらっしゃい」


 メルさんは笑顔で見送ってくれる。

 メルさんの笑顔で気分が良くなったのに、この衛兵の男と一緒に馬車に乗るのか…。


「…なぁ、お前、もしかして貴族なのか?」


 馬車での移動が始まって十数分後、冷静になったのか、衛兵の男が聞いてくる。


「…そうかもね。ただ、今は冒険者のラソマとして活動しているから、貴族かどうかは関係ないかな」

「そうか…」


 答える必要はないから、はぐらかしておく。でも相手によるかな。俺の中でこの人は偏見が強過ぎて信用できない。メルさんなら印象は良いから話しても大丈夫かな。って、これは俺の偏見かもしれないな。

 そんな事を考えている内に馬車は城に着いた。馬車を門に停めると、俺と衛兵の男は馬車から降りて、門に近づく。すると兵士が2人、中から歩いて来た。


「ラソマを連れて来ました」

「ご苦労。自分の持ち場に戻ってくれ」

「いえ、しかし、ラソマを連れて行かなければ…」

「その必要は無い。ここからは我々が連れて行く」

「分かりました。それでは」


 そう言い残して衛兵の男と他の兵士は馬車を操って去って行く。


「あなたがラソマ様ですか。聞いていた通り、若いですね」

「えっと…聞いていた、ですか?」

「はい。申し遅れました。俺は近衛騎士団の副団長、セイルです。ラソマ様の事は兵士長から聞いています。お強いそうですね」

「まあ、それなりに」


 謙遜はしても仕方ないよな。魔族の大群を討伐した事は知られてるだろうし。


「そう言えば、今日、私はどういう用事で呼ばれたのでしょうか?」

「俺には話す権利はありません。詳しい話は陛下からお聞きください」

「分かりました」

「それでは案内致します」


 セイルさんに連れられて俺は城に入り、待合室に案内された。


「ここで衣服の着替えをしてもらおうと思っていたんですが、その必要はなかったですね」

「この服装でも大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」


 それからしばらく待ち、謁見の用意ができたという事で、俺は待合室から謁見の間に案内される。

 謁見の間の扉の前で少し待ち、名前が呼ばれて部屋に入った。そこは前世のドラマで観たような場所だ。広い空間、赤いカーペットが扉から前方に向かっており、その先には5段くらい階段状になった上に数人の人が椅子に座っている。おそらく、あの人達が王族だろう。壁際には数人の兵士が立っている。

 俺は待合室で教えられた場所まで歩いて行き、そこで片膝を床につけて跪いた。


「お主がラソマだな?」

「はい」

「余はゼイオン。ここ、ゼキーダ国の王だ」


 やっぱり国王なだけあって威厳があるな。


「俺は第一王子のタークだ」

「俺は第二王子のシルエン。ラソマ、久し振りだな。あの時は助かった。感謝しているぞ」

「勿体ないお言葉です」

「私は第一王女のクリス。兄を助けてくれて有り難う」


 王様の横に並んで座っているのは王子と王女か。


「まったく…たかが盗賊如きを倒せないとはな。お前はもっと剣術の腕を磨くべきだ」

「いやいや、俺は兄さんと違って頭脳派なんだよ」


 第一王子の言葉に第二王子が苦笑いしながら答える。


「シルエン兄さんは、もっと緊張感を持って行動すべきです。自分が王族なのだと自覚を持って」

「…俺の味方はいないのか?」


 王女も厳しいな。それにしても、王女の姿は何だろうか。顔を包帯で覆っている。声から女性だと分かるけど…。でも瞳が綺麗なんだよな。前世でも、この世界でも、そこまで多くの女性と関わっていないけど、その中でもダントツで瞳が綺麗だ。


「あの…やはり気になるの?」

「あ…すみません」


 俺の視線に気づいた王女が聞いてくる。少し悲しそうだ。


「ラソマよ、王女の包帯には原因があるのだ。理由は言えないが…やはり気になるか?」

「いえ、包帯も気にはなりましたが、それ以外の事が気になったのです」


 国王の言葉に俺は答える。


「何が気になった?」

「えっと…」

「構わん。言うが良い」


 言って良いか迷ったけど、王様にそう言われたら言うしかないな。


「王女殿下の瞳が綺麗だなと思いました。すみません」

「…本当に?」

「はい、嘘は吐きません」


 俺の言葉を聞いて、国王が自分の付けている指輪を見た。あの指輪はたぶんギルドにも置いてあった嘘が分かる魔道具だな。


「…フ…ハハハハハ!」

「ククク…」

「瞳が綺麗とは」


 国王、第一王子、第二王子の順の反応だ。王女は黙って下を向いている。包帯のせいで表情が分からない。怒らせてしまっただろうか。


「ラソマ、王族を目の前にして度胸があるな」

「そ、そうですか?」


 第二王子が褒めて、くれてるんだろうか。


「今までにない人物だ」

「今まではクリスを見ても包帯のせいで、おかしなものを見るような目つきの者が多かったからな」

「そうなんですか」


 確かに包帯は気になる。でも気にしても仕方がないから、別の場所を見れば良い。俺の場合はそこが瞳だっただけだ。


「ふぅ、久し振りに大笑いしたな。さて、そろそろ本題に入るか」


 国王が真面目な顔をしながら言う。


「今回、お主を呼んだのは魔族と魔物の大群を倒した事、そして第二王子を救ってくれた事への褒美を渡す為だ」

「あの時は少しの金銭しか渡せなかったが、これでようやくちゃんとした褒美が渡せる」

「うむ。第二王子の件があってからお主を探していたのだが、なかなか見つからなくてな。だが今回、魔族の大群を倒した冒険者がラソマという名前だと知り、ようやく分かったわけだ」


 王都という広く、そして人が多い場所で1人の男を探し出すのは大変だろうな。俺がレミラレスの名前を使っていたら、もっと見つけるのが簡単だったかもしれないけど。


「さて、褒美だが…ラソマよ、お主を男爵に叙爵する」


 おぉ、爵位か。

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