35.知ってるドラゴンだった
「さて、気を取り直して、目的のドラゴンを探そうか」
「はい。ドラゴンの特徴はどういうものですか?」
「特徴は1つ。色が真っ白だ。体長は30メートルほどかな」
「お、大きいですね。でも、それなら見つけやすそうです」
さて、見つかるかな。いつものように透視と千里眼で調べてみる。でも岩肌が見えてるだけあって、透視はあまり必要がないかな。そん感じで周囲を見渡していると、白いドラゴンが見えた。ドラゴンの形は前世の西洋風だ。
「いました。この方向です」
ドラゴンが見えている方向を指差しながら報告する。
「向こうか。俺達にはまったく見えないけどな」
千里眼を使っていると距離感が麻痺してくるけど、肉眼では見えない距離にいるんだな。
「…あれ?」
「どうしたんだ?」
「ドラゴンがこっちを見ました。…羽を広げて…こっちに飛んできます」
「なんだって!?」
「でも遠いんでしょ?私達の方には来ないかもしれないよ?」
「そうかもしれないが…不安だな。隠れる場所は…無いか…」
岩肌が見えるような山だから、隠れる事ができる場所は無い。
「ねえ、見えてきたよ」
肉眼で見えるほどにドラゴンがこっちに向かってきている。
「とりあえず結界で皆さんを護ります。ドラゴンの攻撃に耐えられるかは分からないですけど」
「そうだな。ラソマ君の結界は強そうだから安心だ」
「ドラゴンも攻撃してくるかは分からないしね」
やがてドラゴンが近づいてくると、俺達の前に着地した。風圧が発生したけど、結界が全てを防ぐ。
ドラゴンは攻撃してくる気配を見せず、俺達を見つめている。
「…何もしてこないな」
「グオオ」
「ひっ!」
ドラゴンが小さく声を出したので、レイビスさんが驚く。
「会話ってできるんですか?」
「ドラゴンとの会話なんて聞いた事がないけど」
「そもそもお互いに言葉が分からないし」
…そうだ!テレパシーなら通じるんじゃないか?
『えっと…ドラゴンさん、聞こえますか?』
『ん?頭の中に声がするな。声の主は誰だ?』
おぉ…通じた。言葉では通じなくても、脳内では通じる。定番だな。
『今から手を上げる人が俺です』
そう言って俺は手をあげる。
「どうしたんだ?」
「今、ドラゴンと頭の中で会話をしています。それで声の主を聞かれたので答えました」
「そんな事もできるの?!」
「はい」
『お主が我を見ていた者か?』
『そうです』
『ふむ…以前にも我を見た事があるか?』
以前?………あ!あの時か!数年前、千里眼が使えるようになった時、山を見ていたらドラゴンと目があったっけ。
『はい、見ました。あの時はすみませんでした。まさか気づかれるとは思っていなくて』
『構わん。普通のドラゴンなら気づく事もないだろうからな。我のような…人族で言うところの上位種であれば気づく事もあるだろう。ところで、この山に何をしに来たのだ?』
『依頼でドラ…あなたの観察に来ました。周囲の村や街に危険が及びそうであれば報告するようにと』
『ふむ。いつものアレか。たまに我を見張りにくるような者がいたが、目的はそれか。我は暴れる気などないのだがな。まあ、我の怒りに触れる事があれば対抗もするが』
以前、ドラゴンを煽った村人のせいで、近くの村が消滅したそうだしな。やはり強い存在を怒らせると、その報復も規模が大きい。
『さて…我は行くか』
『もう行かれるのですか?』
『我がいると、その者達が辛そうだからな。ククク、貴様は平気そうだがな』
ドラゴンに言われて後ろを見ると、レイビスさんとウィースさんが座り込んでいる。セイチさんは立っているけど、冷や汗をかいている。
…あれ?俺だけ平気なんだけど…どうして?
『それではな。観察を続けるのならば良いが、我を怒らせてくれるなよ?無闇に人を傷つけたくはないからな』
そう言ってドラゴンは飛翔すると、どこかに飛んで行った。
「…ふぅ…緊張した…」
ドラゴンの姿が見えなくなると、セイチさんは息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。滅多に遭遇しない存在に遭遇したから緊張してしまったよ」
「でもAランクならドラゴン討伐の依頼もありますよね?」
「あるけど、今のドラゴンは明らかに別格だったよ。他のドラゴンとは全く違う」
「やっぱりそうなんですか」
Sランクのドラゴンだしな。俺は他のドラゴンを見た事がないから違いが分からないけど、遭遇してすぐに分かるほどに違いがあるんだろう。
「でもラソマ君はどうして平気だったの?」
「分かりません」
「ドラゴンと会話してたからじゃない?私達からすれば、ドラゴンに無表情で睨まれているだけだけれど、ラソマ君は喋ってたんでしょ?」
「あ、そうか!ドラゴンが今、どういう気持ちでいるのかを喋ってたら分かりますね」
それで俺は平気だったのか。確かに無表情で見られていたら何を考えてるか分からない。でも喋っていれば、少なくとも自分達に危害を加えようとしているか、逆にしていないかは分かる。
「それで、ドラゴンの様子はどうだった?暴れそうだったの?」
「いえ、普通の状態でした。何もされなければ、自分からは攻撃しないとも言ってましたし」
「そうか。それなら安心だな!まあドラゴンの気持ちが一瞬で変わる事もあるかもしれないけど」
「今のところ大丈夫なら良いんじゃない?」
「そうだな。取り敢えず、もう少し観察してみて、大丈夫そうならギルドに報告だな」
「はい」
その後も俺達はドラゴンの動きを観察した。でもドラゴンは大きな動きをするでもなく、伏せていると思ったら、飛翔して山の周辺を回ってみたり、自由だった。
「よし、帰るか」
セイチさんの言葉に俺達は頷き、瞬間移動でギルドに帰った。
「うおっ!」
「あ、ごめんよ」
「お、おう…」
瞬間移動した先に居た男性冒険者が驚いたので、謝る。千里眼を使って、人がいたのは知ってたけど、そこまで驚かれるとは思ってなかった。驚かせないように目の前じゃなくて、死角に現れたんだけど。
「ただいま帰りました」
ギルド受付のミオナさんに話しかける。
「お帰りなさい。どうでした?」
「知ってるドラゴンでした」
「ど、どういう事ですか?!」
以前、見かけた事があり、ドラゴンもその事を覚えていた事を話す。
「ドラゴンが覚えていたって…どうして分かるんですか?」
「頭の中で会話をしたので」
「…え?あ、ドラゴンの能力ですか?」
「いえ、俺のスキルです」
「そ、そうなんですか?」
「ハハハ、ラソマ君のスキルには驚かされてばかりだ」
「そうね。驚かないのが不思議」
「もう驚かないように覚悟してても驚いちゃうもんね」
セイチさん達は苦笑いしている。まあ自分でも特殊なスキルだというのは分かっているから、その反応は分かる。
「ドラゴンの状態はどうでしたか?」
「大丈夫そうだ。ラソマ君が観察していたけど、特に問題になりそうな動きはしなかったぞ。ドラゴンが目の前にいても、俺達に何もしてこなかったしな」
「そうですか。それなら大丈夫そうですね」
「危険な状態ではどんな感じなんですか?」
「ドラゴンと接触した時点で攻撃されてます」
「そうだったんですか!」
だから目的は観察であり、ドラゴンと接触しても逃げ切れる可能性のあるAランクの仕事なのか。ドラゴンに攻撃されるなんて…下手をすれば死んでしまう。
「それでは、これからどうしますか?」
「そうですね…」
「ラソマ君、これから宴会をしないかい?」
「宴会ですか?」
「ああ。ラソマ君が無事にAランクに昇格できた事を祝いたいんだ」
「そうね。私達が初めて家庭教師をした子だし」
「こんな短期間でAランクになれるなんて凄い事だもんね」
「勿論、俺達が奢るぞ」
「私達よりお金を持ってそうだけどね」
「そんな事はないですよ。必要最低限のお金は実家から持ってきましたけど、それ以上のお金は冒険者として活動して得たお金だけですから」
俺の目的は冒険者として生活する事だからな。両親のお金に頼るわけにはいかない。
「よし!それじゃあ宴会に行くぞ!」
「はい!」
「本当なら私も行きたいんですけど仕事があって行けないんですよね」
ミオナさんがそう言う。
「仕事が休みなら来てくれるんですか?」
「勿論です。私が担当している冒険者が昇格したんですから」
「それは嬉しいですね。それじゃあミオナさんが休みの日に時間をもらっても良いですか?」
「はい♪」
「ラソマ君、そんな子だったの?」
「どういう子ですか?」
レイビスさんの言葉の意味が分からないし、聞いても教えてくれなかった。
その後、俺達は酒場に行って宴会をする事になった。




