26.ランク上げの大会
大会の対策を考えるか。現在、夕食を済ませた俺は宿泊施設の自室で椅子に座っている。結界刃や結界弾は必要以上に対戦相手を傷つける可能性が高い。闘うと言っても同じ冒険者なので、酷い怪我はさせたくない。さて、どんな技で攻撃するか。
やっぱり、この方法が1番かな。
考えた末、俺はある攻撃方法を思いついた。それは拳に結界を纏って殴るというもの。この結界の効果は、結界が受けた衝撃を数倍にして相手に反射するというもの。これなら衝撃だけを反射するから、対戦相手に大きな怪我を負わせてしまう事がない。
そして予知だ。試合中、予知をフル稼働させる。相手の攻撃を避けてカウンター!予知ができるからカウンターを当てるのも簡単なはずだ。
「楽しみだなぁ」
大会が楽しみで仕方がない。対魔物なら何度か経験があるけど、対人は経験がない。魔族は人型だったけど、結界で行動を封じたからな。たいして戦闘らしい戦闘はしていない。
そして3日目の朝。俺はギルドに来ていた。
「おはようございます」
「おはようございます、体調はどうですか?」
ミオナさんに挨拶をすると、体調を気にしてくれる。
「万全です。良い試合ができそうです」
「それは良かったです!最終確認ですけど、本当に大会に参加されるんですね?」
「はい」
「分かりました。それでは試合場に案内します」
「ミオナさんが案内してくれるんですか?」
「はい」
受付の職員が案内するのか。その間のギルドの仕事はどうするんだろうか、と考えたけど、職員は沢山いるから大丈夫そうだ。でも案内する職員というのがいそうだけどな。
「自分が担当している冒険者が出場する場合、職員は試合を見ないといけないんです」
「そうなんですか、大変ですね」
「いえ、私たちも自分が担当している冒険者の試合を見るのが楽しみなんです!今回、私が担当しているのはラソマさんだけなので、一所懸命に応援しますね!」
「ありがとうございます!」
まだ王都に来て間もないから俺を応援してくれる人は他にいないだろう。この状況で1人でも応援してくれる人がいるのは嬉しい。
それからミオナさんに案内されて、出場者の控え室に入った。ミオナさんは客席に向かうため、歩いて行った。闘う場所は控え室から近いようで、控え室の前の通路を歩いて行った先にあると説明してくれた。
控え室は人が多いな。やっぱり一気にランクが上がるのは魅力なんだろうな。俺もランクを上げたいし。
試合が始まる時は呼ばれるみたいだし、それまでのんびり待つとするか。
それから数分後。控え室にいた俺や他の冒険者たちはギルド職員に呼ばれて試合が行われる場所に向かった。そこは屋外で、階段状の客席が円形に作られている。その中央に広い場所があり、俺たちはそこに集まった。
「さあ、今年もGランクの冒険者だけが参加できる大会が始まりました。優勝すればEランク、2位と3位の人はFランクになります」
客席の一番前に座っている男性が喋り始めた。服装はギルド職員のものだな。声が大きく聞こえているのは拡声魔法なのか、また別の魔法なのか。
「参加人数は118人。人数が多いので、20人ずつのグループに分けて闘ってもらいます。それぞれのグループで勝ち残った1人が本戦に出場でき、残った6人でトーナメントをして優勝者を決めていきます」
なるほど、ここにいるのは20人だ。俺は最初のグループの1人に選ばれたわけだ。
「ルールは事前に聞いていると思うので、ここでは言いません。闘い方は自由です。それでは試合を始めてください!」
司会が言うと、試合場に集まっている冒険者は、剣や杖など、それぞれの武器を構える。俺はボクシングっぽい構えをとる。ちなみにボクシングは未経験だ。
「おらあああっ!」
俺に向かって掛け声と共に剣を振ってくる男。…掛け声…いる?予知で剣を振ってくるのは分かっていたから、剣の軌道から避けると、振り終えた男の腹を殴る。結界の効果で吹き飛ばすだけだから、本気で殴ってはいない。本気で殴ったところで俺の力じゃあ結果は知れてるからな。
拳は避けなかった男の腹に命中し、男は数メートル吹き飛んで倒れた。だ、大丈夫かな?
近くに行って男の様子を確認すると息をしていたので安堵する。
「よし、この調子で行こう。ん?」
近くにいた冒険者達が驚愕の顔で俺を見ている。
「どんなスキルなんだ?」
「素手であれだけ吹き飛ばせるのか?」
「攻撃を避けた動きも上手くなかったか?」
俺を見ている人たちの会話の一部だ。まあ自分が闘う事になる相手の攻撃方法は知りたいよな。俺は結界があるからそこまで気にしないけど。
さて、1人になるまで闘いは終わらないんだから、続けるか。
振り下ろされる剣、遠くから飛んでくる火の玉、それらの攻撃を予知でかわし、結界を纏った拳で殴っていく。予知で相手の動く位置も把握しているわけだから当てる事も簡単で、闘いは俺が有利で一気に終わっていった。
「そこまで!このグループはラソマの勝利!」
試合が終わっても歓声はない。観客は俺を値踏みしているような顔だ。ただ1人、ミオナさんは喜んでくれている。
その後、俺は最初にいた控え室に戻った。
試合場では次のグループの試合が行われているだろう。
そして昼過ぎになり、ようやく6人のトーナメント進出者が決定した。ギルド職員に呼ばれて、俺は試合場に向かう。そこには5人の男女がいた。彼ら(彼女ら)は俺と闘うことになる冒険者だ。
客席を見回すと、少し人が減っていた。おそらく自分が担当している冒険者が倒されたギルド職員が仕事に戻ったんだろう。そこで俺はある人たちに気づいた。それは荷物運びの依頼を受けた時の伯爵と子爵だった。貴族なら冒険者を指名する事もできる。有力な冒険者の顔を覚えておきたいんだろうな。
「トーナメントの抽選はすでに済んでいる。今から名前を呼ばれた2人は残り、あとの4人は控え室に戻ってくれ」
最初の試合は俺と剣を持った少年。15歳から冒険者になれるわけだから俺と同い年か上か。
試合が始まると同時に、少年が剣を振ってくる。俺はそれを避けると、少年の腹を殴る。少年は反応して咄嗟に避けようとしたけど、その動きも予知していたからもう一方の拳で殴る。その拳を少年は避ける事ができずに命中し、少年は吹き飛んで倒れる。
こうして俺のトーナメント最初の試合は終わった。グループ戦では避けられる事はなかったけど、ここに残るだけあって最初の攻撃は避けられたな。まあ、避けられる事が分かっていたから無駄だけど。
それから控え室に戻り、少しして2回目の試合。俺の相手は杖を持った女性。魔法使いかな。
詠唱してからの魔法か…詠唱が必要だから初心者なんだろうな。家庭教師についてもらって訓練をしている妹のスィスルは無詠唱で魔法を発動できる。うん、妹自慢だな。
相手の使う魔法は俺に向かって放つ火の玉。それから水の玉。2属性を使えるとは…将来は有望だろうな。とりあえず詠唱が終わるのを待つか。魔法使いが魔法を使う前に倒してしまったら、なんだか可哀想だ。詠唱は数秒だったけど、火の玉と水の玉が予知通りに飛んでくる。俺はそれを避けながら前進し、女性に近づいて殴る。女性は魔法使いだから近接戦闘はできないだろう。俺の拳を避ける事ができなかった女性は吹き飛び、気絶する。
ちなみに少しだけ威力は抑えた。試合だから今までと同じ威力でも問題はないんだけど、やっぱり女性を殴るというのは抵抗がある。男女差別だと受け止められるかもしれないけど、やっぱり女性を殴るのは嫌だ。今後、女性の敵とは闘いたくないものだな。いや、俺が女性を殴る事に対しての苦手意識を克服すれば良いのか。…それだと男として何かを失う気がする。これから先、何かの戦闘行為になってしまったとしても、極力穏便に済ませる闘い方を考えないといけないな。
さて、次の試合が決勝戦か。あっという間だな。その試合に勝てば俺はランクが上がる。最後はどんな相手かな。




