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24.戦闘にもならない

 魔族が人族の領地に入るのは珍しい。

 というのも、人族の領地で魔族が生活をしてはいけないからだ。


 数百年前、人族(エルフやドワーフなどを含む)と魔族が戦争を繰り返していた。互いの戦力は拮抗しており、死傷者が続出した。そこで当時の人族の王たちと魔族の王たちは話し合い、戦争を止める代わりにお互いに領地を作り、相手側の領地には行かない事を約束した。もし入った場合、それは自己責任であり、奴隷にされても殺されても何も文句は言えないという法律までできている。


 そういうわけだから、魔族が人族の領地に来るなんてとても珍しい。何をされても文句が言えないんだから。


「少し様子を見てみるか。魔族はどの方角?」

「あっち」


 妖精が指し示した方向を千里眼と透視で確認する。そこには1人の男の魔族がいた。

 魔族は肌が灰色で赤い目をしている。額からは1本の角が生えている。それ以外に人族との違いはない。

 俺はさらに読心を発動して、魔族の考えを読む。………人族を見つけて殺すつもりか。誰かに命令されたとかじゃなくて、自分の意思のようだな。まったく…まだ殺した記憶はないから、誰かが犠牲になる前に対処しないといけないな。

 そう考えて俺は魔族のいる場所に進もうとする。


「どこに行くの?」

「そっちは魔族がいる場所だ。危険だよ」

「大丈夫…たぶん」


 結界があるから魔族の攻撃は防げると思うし、万が一防げなかったとしても瞬間移動で逃げる事も可能なはずだ。

 そう考えて進む。


「おっ!人間が自分から来たぜ!」


 俺を見つけた魔族は嬉しそうに言う。


「魔族、こんな所に何をしに来たんだ?人族の領地だよ?」


 最初は目的を知らないフリをしておく。


「お前たちを殺すためだ!人族なんて邪魔でしかないからな!」

「今時、そんな考えは流行らない。過去に約束もしてるだろう?」

「そんな約束は関係ない。俺は人族を滅ぼす!」

「今、魔族の領地に帰るなら何もしない。話し合いで解決できないかな?」


 何でも暴力で解決する事はしたくない。可能であれば穏便に済ませたい。


「話し合い?ふん!無駄だ!まずはお前からだ!喰らえ!」


 そう言って魔族が魔法を発動させようとする。魔法を発動させる兆候は人族と同じのようだ。俺は魔法を使えないけど、スィスルの魔法の練習を見ていて、魔力を、これが魔力かな?、と感じる事はできるようになった。父さんに聞くと、魔力を感じる事は訓練さえすれば魔法が使えない人でも可能らしい。

 魔法を発動させようとすると、その人の体の一部に魔力が集中する。それが兆候だ。俺は結界で魔法を使おうとしている魔族を囲う。その瞬間、魔族に集中していた魔力が消えていく。この結界は中にいる人が魔法を使えなくする効果を付けている。


「なんだ?!どうして発動しない!!?」


 魔族は驚いている。


「俺が邪魔しているからだ」


 さて、これからどうしようかな。この魔族の生殺与奪は俺に権利がある。でも、まだ何もしていない魔族を殺したくはないな。…兵士に引き渡すか。


「決めたよ。お前は兵士に引き渡す。その先、どうなるかは知らないけど、仕方ないよね」

「くそ!」

「あ、でもその前に付き合ってもらうよ」

「…何をする気だ?」


 魔族は身構えながら言う。俺が何かしようと思ってるんだろうか。


「お前には何もしない。ただ俺は依頼を受けてここに来ているんだ」


 薬草を規定数摘まないと俺の冒険者としての信頼度が下がってしまう。


「俺は動かないぞ!」

「それは大丈夫」


 魔族ごと結界を浮かせば、中で動かなくても関係ない。浮かした瞬間、魔族は、うぉっ!、と驚くが気にしない。


「さて、薬草を摘むか」

「なに!?そんな低レベルの依頼をお前みたいな強い奴が受けるのか?」

「俺は低ランクだからね」

「お前が低ランク…?」


 魔族がぶつぶつ言っている。それしても魔族にとっても薬草摘みは低レベルの依頼なんだな。


「ねえねえ、その魔族は大丈夫なの?」

「ん?ああ、さっきの妖精だね。大丈夫だよ、何もできないから」

「ちっ!妖精の晒し者になるとはな!!」

「ひっ!!」


 魔族が怒鳴るから妖精の2人が怯える。


「だいたい妖精なんてーー」

「あれ?」

「魔族の声がしなくなったよ?」


 妖精の言う通り、魔族は口を動かしてるけど、声が聞こえない。


「この魔族の声を聞こえなくしたんだ」

「そうなんだ」

「ありがとう!」


 2人は魔族に怯えていたからな。魔族は結界の効果で何もできないけど、怯えている妖精が可哀想だ。


 その後、俺は規定数の薬草を摘み終えた。


「さて、帰るか」

「もう帰るのか?」

「うん。これで依頼は達成できるはずだからね」

「そっか…また来るの?」

「うん、来るね」


 他にどんな依頼があるか分からないけど、森に来る必要がない依頼があるとは思えない。どうして、そんな事を聞いてくるんだろう。人にはあまり来て欲しくないのかな。


「それじゃあ、その時を楽しみにしてるね!」

「まあ、お前みたいな人間は珍しいからな。また会ってみたいとは思う」


 どうやら俺の考えは杞憂だったようだ。歓迎してくれるのは嬉しいな。


「それじゃあまた近いうちに来るよ」

「うん!」

「おう」


 そうして俺は妖精と会えた事に喜びながら捕らえた魔族を連れて王都の門まで来た。


「ひっ!?」

「魔族!?」


 俺が魔族を連れて歩いていると門を出入りする人が驚いた声を上げる。俺は平然と歩いて見せ、大丈夫だと暗に知らせるけど、それは無意味っぽい。


「止まれ!その魔族を中に入れるつもりか!?」


 門まで近づくと兵士が怒鳴ってきた。


「いえ、違います。あ、俺は王都の冒険者でラソマと言います」


 そう言って冒険者のペンダントを見せる。


「確かに冒険者だな。それで、その魔族はどうしたんだ?」

「森で見かけたので捕らえました。捕らえた人に生殺与奪の権利があるのは知ってるんですけど、人を殺すために来たようなので解放もできず、かと言って殺すのもちょっと……なので、兵士の方にお渡ししようかと思って連れてきました」

「そうか。魔族を相手に無事でいるなど相当な実力者なんだな。分かった。魔族はこちらで引き取ろう」

「ありがとうございます。でも魔族は魔法を使いますけど、どうするんですか?」

「魔法封じの首輪がある。そういえばこの魔族は大人しいな。魔法を使う気配がないが」

「俺のスキルで魔法の使用を封じています。声もこちらには届かないようにしています。どういうスキルなのかは秘密ですけど」

「なるほど。優秀なスキルのようだな」


 兵士は俺のスキルに感心した後、もう1人の兵士に魔法封じの首輪を持ってくるように伝える。しばらくして首輪を持った兵士が走ってきて、俺の応対をしていた兵士に渡す。


「これが魔法封じの首輪だ」

「見た目は普通ですね」

「そうだな」

「その首輪は魔法使いの天敵ですね」

「いや、これを使うには相応の許可がいる。今回のように魔族を捕らえた時や、犯罪を犯した魔法使いを捕らえる時だな」

「なるほど」


 使用制限があるのか。


「それでは付けるぞ」

「お願いします」


 兵士は結界に入り、魔族に近づく。この時、結界は人が入れるようにしておいた。魔法を使う事ができないのは、そのままだ。俺は念動力で魔族が暴れないように動きを止める。その隙に兵士は首輪を魔族に取り付けた。それを見て、俺は結界を解除する。


「くそ!離せ!」


 魔族は暴れているけど何もできない。魔法も使う様子がないから、あの首輪の性能は本物のようだ。


「それでは、あとはこちらで対処する。魔族を連れてきて感謝するが、礼は出ないぞ」

「はい、分かっています」


 報酬が出るようになったら、その金を目当てに魔族の領地に行く人族が増えそうだ。


 魔族を無事、兵士に引き渡した俺は依頼の報告のため、ギルドに向かう事にした。

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