22.ギルドで早速揉め事
ギルド職員による冒険者の説明が始まった。
と言ってもよくある内容だ。
貴族や平民からの依頼を受けて、達成すれば報酬が貰える。自分のランクによって受けられる依頼の難易度は変わり、低ランクなら低難度の依頼、高ランクなら高難度の依頼を受ける事ができる。高難度の依頼は報酬も高い。依頼に失敗すると違約金が発生し、冒険者としての信用が下がる。
冒険者は、非冒険者を脅迫してはいけない。冒険者同士であれば多少は許されるそうだ。行き過ぎては駄目だけど。ギルドの中で無闇に力を行使してはいけないなど、まあ当然の内容が多かった。
「だいたい、こんな感じですね。分かりましたか?」
「はい、分かりました」
「それから冒険者同士で敬語や丁寧語は控えた方が良いです。相手に舐められますから」
「そうなんですか」
「ギルド職員に対しても敬語や丁寧語を使わない冒険者もいます」
「それは自由ですよね?俺としては職員の方々に敬語は使いたいです」
「はい、自由です。珍しいですけど」
「そうなんですか?」
「高ランクの方は丁寧ですが、低ランクになればなるほど、職員に対して高圧的になります」
中途半端に力があると高圧的になってしまうのかな。逆に高ランクになると精神的に余裕ができて丁寧になるんだろうか。
「おいおい!さっさと済ませてくれよ!後がつかえてるんだぞ!?」
俺の後ろから男が怒鳴ってくる。俺が冒険者としてのルールを聞いている最中なんだから邪魔しないでほしいな。
「申し訳ありません。彼は今日から冒険者になるので説明をしているんです。待てないのであれば他の職員の方に行ってもらっても良いですか?」
「ああん?初心者なら適当に説明を聞いてさっさと依頼を受けてこいよ!」
後ろの冒険者が渋っているので、立ち上がって男の方を向く。
「他の職員の方に行けば良いんじゃないかな?この職員さんも俺もキミに構っているほど暇じゃないんだ」
「なんだと!?」
いや、これだと煽った風になるか。
「今日から俺は冒険者として生きていく事になる。この説明は俺が生きていく上で大切な事なんだ。先輩、俺はまだ死にたくない。だから説明を受けさせてくれ」
「いいや、駄目だ!後輩なら、先輩の邪魔をするんじゃねえ!」
そう言って男は背負っている剣を抜く。周囲の冒険者から悲鳴が上がる。職員たちは狼狽えておらず、何人かが外に行った。おそらく衛兵を呼びに行ったんだろう。
「その剣でどうするのかな?俺を切ってしまえば、キミの冒険者人生は終わってしまうよ?」
「うるせえ!」
そう言って男は剣を振りかぶり、俺の頭めがけて思い切り振り下ろした。
「キャアッ!」
俺の後ろから、さっきまで説明してくれていた職員の女性が悲鳴をあげる。おいおい、女性に悲鳴なんか上げさせるなよ。
「嘘だろ?…なんで切れないんだ?」
俺は常に結界スーツを纏っている。どんな攻撃も防いでしまう。男のペンダントを見たらFランクだった。Sランクの攻撃なら耐えられるか経験していないけど、Fランク程度なら経験しなくても防げると分かっていた。
「女性に悲鳴なんて上げさせるなよ」
「な、なに?!」
結界刃で剣を切断すると男は驚く。俺は気にせず、念動力で男を宙に浮かせると、背中から思い切り床に叩きつけた。
「がはっ!!」
たったそれだけで男は気絶してしまった。
「お強いんですね!」
受付の女性が本当に驚いた顔をしている。
「今の人はFランクですよ」
「そうみたいですね。でもランクが1つしか違わないなら、問題ないと思います」
「うーん、でもラソマさんは強いと思います」
「自信過剰ではないですけど、俺もそれは自覚しています」
そう言って俺は笑う。半ば冗談だと思ってもらうためだ。
「フフフ、頼もしいですね。改めまして、私の名前はミオナ。ラソマさんの冒険者登録を担当させて頂きました。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「少し良いですか?」
俺とミオナさんが話していると、男に話しかけられた。鎧を着てるし、兵士かな。
「先程、暴れている冒険者がいると聞いて来た。それはキミか?」
「いや、そこの男だ。俺に切りかかってきたから正当防衛で倒した。問題があるのか?」
「本当ならな」
「本当です。ギルド職員の私が証言します」
「…分かりました。それではこの者は連行します。連れて行け」
「「はい」」
そう言って2人の兵士が倒れている男を外に運んで行く。
「血気盛んなのは分かるが、冒険者として問題を起こさないでもらいたいものだな」
「それは、あの男に言ってくれないかな。俺は関係ない」
兵士に対して言葉を返したが、それには答えずに兵士はギルドの外に出て行った。
「今の兵士は何ですか?」
「王都の衛兵です」
ああ、さっき呼んだ衛兵だな。
「やけに俺に絡んできましたけど」
「兵士は冒険者に対して、悪感情を持っています。魔物討伐や貴族の護衛など、本来なら兵士の仕事になるものを冒険者が格安で受けるからです」
「自分たちの仕事を取られて不満を抱いてるんですか」
「そうですね」
完全に逆恨みのようなものだな。まあ気にしても仕方ないか。
「それでは、これからどうしますか?」
「まずは宿を探そうと思います」
「ギルドが経営している宿がありますけど、そこを紹介しましょうか?値段も安いですから、成り立ての冒険者はよく利用しています。まあラソマさんの立場なら、お金は持っているかもしれませんが」
「いえ、そこを紹介してください」
「分かりました」
それから俺は宿の場所を聞いて向かった。と言ってもすぐ隣だ。
宿は3階建てで、結構大きい。
「いらっしゃい」
中に入ると、すぐにカウンターがあり、その中にいたおばさんが声をかけてくる。
「ギルドの紹介できました、Gランク冒険者のラソマです」
「Gランクか。まだ冒険者に成り立てなら大変だね」
「これから、どんどんランクを上げていくので大丈夫です」
「ハハハ、頼もしいね。お金はあるのかい?何泊を予定してるんだい?」
「とりあえず10日間」
「食事は?朝、昼、晩を用意できるよ」
「それでは3食でお願いします」
「分かった。料金はこれくらいだね」
たしかに安いな。こんなに安くで大丈夫なのかと不安になるけど、この宿を経営しているのはギルド、そしてギルドを経営しているのは国。つまり、この宿は国営と言っても過言ではないだろう。だから安くても大丈夫なんだろう。前金らしく、俺はお金をおばさんに渡した。
「それじゃあ、お願いします」
「あいよ。部屋に案内させるよ。おい、メル」
「なんですか?」
おばさんの後ろにあるドアから1人の女性が出てくる。
「この子に部屋を案内しておくれ」
「分かりました!こっちだよ!」
「あ、うん」
メルと呼ばれた女の子(たぶん10代後半)に急に手を引っ張られて驚く。彼女はウサギの獣人かな。頭の上にウサギの耳が生えている。
「お客さんの部屋はここだよ!鍵はこれ。夕食の時間になったら呼びに来るからね!」
「ありがとう、メルさん」
「メルって呼んで。さんは要らないよ」
「分かった、ありがとう、メル」
「うん♪」
そう言って微笑んだメルは立ち去った。
賑やかな子だな。まあ元気なのは良い事だ。
俺の部屋は1階。両隣と前に部屋がある。もう夜が近いからか、部屋には人がいるようで賑やかな声が聞こえる。
その後、夕食を食べて俺は自分の部屋に戻った。
いよいよ、明日から冒険者としての生活が始まるんだな。楽しい事ばかりではなく苦労もするだろうけど、それは承知で選んだ道なんだから嫌にならずに頑張っていこう。なるべくなら苦労も楽しんでいこう。
朝になり、俺はギルドに向かった。
「おはようございます、ミオナさん」
受付にミオナさんがいたので、そこに向かう。別に誰でも良いんだけど、どうせなら知っている人の方が良い。可愛いしな。でも不思議と、他の受付の職員も女性が多く、そして可愛い人が多い。男の職員もいて格好良い。職員は仕事ができる事は当然として、受付は見た目も大事なんだろうな。
「おはようございます、ラソマさん。早いですね」
「早く冒険者として依頼を受けたかったんです」
「張り切るのは良い事ですけど、無理をしては駄目ですよ?」
「はい、気を付けます。でも早くランクを上げていきたいんです」
「ラソマさんは強いですから無理に依頼をこなすより、3日後の大会に参加した方が良いかもしれないですね」
「大会、ですか?」
何の大会なんだろうか。




