20.出発!
朝食を終えた俺は自室に戻っていた。目的は予知の訓練だ。この訓練にはアミスに付き合ってもらう。
「私は何をしたら良いですか?」
「これから指を何本か立てて数を表してほしい。例えば、1なら指を1本立てる、3なら3本立てる、みたいな感じだね」
「分かりました。これで良いですか?」
そう言ってアミスは指を2本立てて俺に見せてくる。
「手の形はそれで良いけど、これは予知の訓練だから、アミスが手を出す前に僕が数を当てるんだ。だから僕が良いと言うまで手を出さないでくれるかな?」
「分かりました!」
「それじゃあいくよ」
予知発動。…3本かな。
「アミス、手を出して」
「はい」
アミスは指を立てて手を出してくる。立っている指の数は3本だ。当たりだな。
「どうでしたか?」
「うん、予知した通りの数だったよ。この調子でどんどん訓練を続けていこう」
「はい!」
訓練をするのは俺なんだけど、アミスが張り切っている。ずっとだけど、協力してくれるのがとても嬉しいな。
それからは予知の可能性を一通り調べ、そのたびにアミスに協力してもらった。
予知のできる事は、これから発生する出来事を知る事。俺に起きる出来事だったり、任意の誰かに起きる出来事も効果範囲に入る。
どんな感じで予知できるのか分からなかったけど、基本的に客観的な視点からのようだ。例えば誰かに攻撃されるとしたら、攻撃されている俺を多方面から見る事ができる。後ろから殴られるとしたら、普通なら俺の視線に入らない。でも多方面から見る事ができるから、後ろから殴ってくる人の姿がはっきりと分かる。予知は1対多の場面で効果を発揮するかもしれない。
予知を使って自分や家族の将来を知るのは避けたいけど、戦闘の場面では活用していきたいな。
1年後、俺は15歳になった。でも新しいスキルが解放される声は聞こえなかった。
「予知が最後だったのかな」
深夜、自分のベッドに横になりながら呟く。まあ、これだけスキルがあれば十分だから別に良いけど。
「そうか、今年もスキルが解放しなかったか」
朝食の席でスキルが解放されなかった事を話すと、父さんがそう言った。今年は、じゃなくて、今年も。前に解放されなかった年はなかったはずだけど………あぁ、そうか!透視とか読心の時は言わなかったんだ。
「でも落ち込む事はないのよ?前にも解放されない年はあったんだから、来年からまた解放されるかもしれないし」
「はい、そうですね」
母さんの言葉に相槌をうったけど、たぶん解放されない。解放されない年は今までなかったんだから。
「こうしてラソマと一緒に食事ができるのも、もうすぐ終わりなんだな」
朝食を食べ終えた頃、父さんが言う。今年、俺は冒険者になるため、王都に行くからだ。
「そして1年後には私も王都に行きます」
「…一気に寂しくなるな」
スィスルの言葉に父さんは寂しそうに言う。3人の子供のうち、2人が立て続けに家を出て行くんだから父親としては寂しいんだろうな。
「たまには帰ってきますよ?瞬間移動もできますし」
「そうだな。心配だから逐一、状況報告に帰ってくれば良い」
「分かりました」
父さんの言葉に内心で苦笑いしてしまう。
翌朝。
「ラソマ様、起きていらっしゃいますか?」
「うん、起きてるよ。どうぞ」
「失礼します。おはようございます」
「おはよう」
部屋にアミスが入ってくる。いつもの支度だけど、15歳になってもするんだよな。でも、これももうすぐ終わりだ。
「こんな風に身支度をさせて頂けるのも、あと少しなんですね。いつ頃、王都に行かれるんですか?」
「近い内に行くよ。あまり居過ぎたら、ダラダラしてしまいそうだからね」
「そうですか。寂しくなります…」
「また瞬間移動で帰ってくるから。ずっと別れるわけじゃないよ」
そう言って俺はアミスの頭を撫でる。身長は俺の方が少しだけ上だから頭を撫でるのも楽だ。
「ラソマ様…」
「っ!」
アミス、上目遣いで見てくるのは反則だよ。
「す、すみません!」
アミスはそう言って離れる。俺もアミスと離れるのは寂しい。ずっと一緒にいるし。両親や兄さんと離れるのは、そこまで寂しくないかな。前世では実家を離れて一人暮らしをしていたから。でもスィスルと離れるのは寂しいな。あれだけ慕ってくれているからな。とはいえ、俺も15歳。この世界でも親離れをしないと。
そして数日後の朝。俺は屋敷の玄関に立っている。俺の目の前には家族と全ての使用人とメイドが立っている。
「いよいよ行ってしまうのか」
「はい」
父さんが言う。使用人達のいる手前、寂しいという本心は隠している。今日、俺は家を出て王都に行くんだ。そして冒険者登録をする。
「本当に1人で行くのか?馬車もあるぞ?」
「大丈夫です。最初は空を飛んで行くので。途中からは徒歩に切り替えますけど」
空を飛んで行って王都の兵に敵だと判断されて攻撃されても困る。
「やっぱり空を飛べるのは便利よね。移動が簡単だし。スィスル、飛行魔法は覚えても損はないかもね」
「はい!頑張って覚えます!」
母さんに言われたスィスルは元気に返事する。スィスルのスキルなら覚える事もできるだろうな。
「荷物はないの?」
「全て空間操作で作った異空間に入れてます」
「その件だが、入れたり出したりした時に他人から見たらおかしくはないか?」
「確かにそうですね」
異空間への入口は改良してドアではなく、穴のようなものになっている。穴に入れたら異空間にきちんと入り、出す時も穴から出てくる。
「そこでだ。これを渡しておこう」
「これは?」
「マジックバッグだ」
「これがマジックバッグですか」
父さんに渡された袋を見て呟く。初めて見た。
「これに入れるふりをして、異空間に入れたら良い。他人から見ても違和感がないはずだ」
「ありがとうございます!」
「中には少しお金も入っているから、困った時には使うと良い」
「はい。でも、なるべく使わないようにします」
「うむ」
お金まで用意してくれたのか。いくら入ってるのか知らないけど、絶対に使わないようにしよう。
「ラソマ様…」
「アミス、心配しなくても絶対に会いにくるよ」
家族の別れの場でメイドの自分が声をかけてはいけないと感じたんだろう。小声で俺の名前をアミスが呼んだので声をかける。声をかけられると思っていなかったのか、アミスが驚いている。
「ら、ラソマ様、私などに声をおかけになられなくても…」
「家族がいても、いつものように話すよ。今まで一緒に過ごしてきたんだから。またアミスの顔を見に帰ってくるよ」
「はい!」
「ラソマ、お前も男になったんだな」
父さん、俺はずっと男だよ。
「兄様、私の事も見に帰ってきてくれますか?」
「もちろんだよ」
「スィスル、ラソマは今、アミスと良い雰囲気なんだから邪魔したら駄目だよ」
兄さん、そんな事を言う人だったっけ?
それから父さんの執事や使用人、それにメイドとも挨拶を済ます。15年も一緒にいれば、全員の顔と名前、それぞれに思い出もある。思い出したら懐かしいな。
「それじゃあ行ってきます」
「おう、気をつけてな」
「いってらっしゃい」
俺はついに屋敷から出て王都への道を歩き出す。そしてすぐに念動力で自分を宙に浮かせて、一気に上空まで上がる。
「このくらいで良いか」
寂しくなるから屋敷は振り返らなかった。まあ瞬間移動でいつでも帰れるからな。まずは自分の拠点になる王都を目指さないと。
当然、王都の場所は分かっているから、一直線に王都を目指す。一直線に行けるから急がなくても良いな。本来なら森の中の曲がりくねった道もあるし、幾つかの街も経由しないといけない。一直線ならそのぶんの時間を短縮できるから、余裕で今日中に王都へ着く予定だ。
「何もないと思うけど、ドラゴンには注意しないといけないな。ドラゴンといえば空。知らずにドラゴンのテリトリーを飛行している可能性もなくはない」
ちなみに空気抵抗があるのに普通に喋っていられるのは、自分に結界を張っているから。もう結界のない人生は考えられないな。
「ん?あれは何だ?」
途中、草原の真ん中を通る道に何かが群がっているのが見えた。そこで千里眼を使ってみる。
「大変だ!」
俺が見た光景は馬車が盗賊に襲われているところだった。念の為、読心を使ったから分かるけど、間違いなく盗賊だ。
急いで現場に急降下する。結界を張っているし、自分のスキルだけど、急降下は少し怖いな。勿論、きちんと着地する事ができた。
「加勢します!」
馬車を守るようにして盗賊と闘っている兵士に向かって言う。兵士がいる時点で馬車の中は普通の人ではないんだろうな。まあ、今はどうでも良いか。まずは盗賊を片付けないと。
盗賊の数は約20人。そんなに多くはないか?
「誰だ!?」
「誰でも良い。俺たちの邪魔をするな!」
盗賊たちは怒鳴ってくる。でもわざわざ返事をする必要はない。結界弾を1つ作ると、念動力で動かして盗賊達の頭部を撃ち抜いていく。
「ど、どうしたんだ!?」
仲間が次々に倒れていく状況に狼狽えている盗賊も、仲間と同じように結界弾で撃ち倒す。少しして20人ほどの盗賊は全て倒す事ができた。うん、結界弾も強いな。
「いったい何が起きているんだ…?」
兵士の1人が呟く。
「大丈夫でしたか?…っ!申し訳ありません!」
馬車に近づいていた俺は、ある事に気付き、すぐに距離をとって片膝をつく。馬車についている紋章、あれは王家のものだ。それによく見たら、兵士の鎧は近衛兵と同じもの。つまり、馬車の中の人は王族!
異世界で王族を助ける…これはもしかしてお姫様かな?
「助かった。礼を言おう」
違った。中から聞こえてきたのは男性の声だ。いや、もしかしたらお姫様の付き人かな。
やがて馬車の扉がゆっくりと開く。
「いけません!この者が何者なのか、そしてこの状況をどうやって作り出したのかを聞くまでは中に入っていてください。危険です」
兵士が慌てて叫ぶ。しかし馬車の扉は殆ど開いており、開けた人の姿が見えた。男だ。男は馬車内の椅子に座り、こちらを見ている。
「きみが盗賊から助けてくれたのだろう?感謝する」
「勿体ないお言葉です」
「お前、この方が誰なのか知っているのか?」
「いえ、知りません」
「では何故、そんなふうに畏まっているんだ?」
「どなたかは存じませんが、王族の方だという事は分かります。馬車についている紋章が王家のものですし、皆さんの鎧も近衛兵のものですから」
兵士に聞かれたので正直に答える。
「なるほど。なかなか聡明だな。庶民ではあるまい」
「はい。レミラレス伯爵の次男になります」
「そうか!レミラレス伯爵の次男か!知っているぞ。変わったスキルを発現したんだったな」
「はい」
そんな噂が流れているのか。
「いや、王都で開催するパーティーに伯爵が来た際、そういう事を自慢していたからな」
父さん、そんな事をしていたのか。
「それにしても、あれだけの人数を僅かな時間で倒すとは…お陰で我が兵を1人も失わずに済んだ。…馬は殺されてしまったがな」
そう、俺が見つけた時には馬車を引いている馬はすでに殺されていた。だから馬車で逃げる事も出来ず、兵は盗賊を相手に闘う事しかできなかったんだ。
「すぐに兵を王都まで行かせ、新しい馬車を用意して来ます」
「うむ、そうしてくれ」
「お待ちください。よければ私が皆様を王都までお連れ致します」
「どうやってだ?」
「私のスキルに念動力というものがあります。いわゆる物体操作に似ています。それを使えば、歩く事なく、王都に行く事ができます」
「伯爵様のご子息がそこまでしてくれるのには理由がおありなんでしょう。理由は何ですか?」
兵士がそんな事を言ってくる。
「この国で生まれ育った身ですから、王族の方のお役に立つのは誉れだと考えたからです。それに私も王都に行く用事がありますから」
「良い心がけだ。それでは厚意に甘えようか。ラソマよ、俺や兵士たちを王都まで運んでくれるか?勿論、褒美は出そう」
「ありがとうございます」
褒美は要らないけど、王族の人があげると言っているのに断ると無礼になりそうだからな。
こうして俺は王族と一緒に王都へ進む事になった。




