18.冒険者になるための試練
「本当にいた…」
森の中を歩き、2匹の熊の魔物を見つけた俺たちは現在、茂みに隠れている。
「それじゃあ、行ってきます」
「本当に大丈夫なんですか?いえ、信用していないわけではないんですが、万が一の事があってはいけませんから」
「大丈夫です。俺の攻撃は遠距離ですから、この距離からでも攻撃ができます」
「そうなんですね!それではお願いします」
許可を得た俺は頷くと、念動力で1匹の魔物の首を捻り、倒した。
「どうですか?」
「こ、こんなあっさりとBランクの魔物を倒してしまうなんて…」
先生たちは驚いている。次は防御の強さを見せないとな。
「今度は結界の強さを証明します」
「え?あ、ラソマくん!?」
3人が止めてくるけど、俺は残った魔物に近づいていく。魔物は俺を見つけると睨む。俺が仲間の魔物を倒した事は理解していないと思うけど、本能で気づいたのかな?
「グルルルルッ!グアアッ!」
そう吠えて魔物が俺に突進してくる。瞬間移動で避ける事も可能だけど、結界の防御力をアピールする場だから、回避行動はとらない。
「危ない!」
セイチさんの声が聞こえる。しかし次の瞬間、魔物が俺に直撃した。正確には俺が纏っている結界にだけど。
「ギャッ!?」
結界に当たった魔物は数メートルほど吹き飛ぶ。この結界の効果はいつもの衝撃無効化とは違い、受けた衝撃を倍にして相手に返す効果にしている。それで魔物が吹き飛んだんだ。
「どうですか?これだけの防御力があります」
「あ、ああ、すごいな」
「それじゃあトドメをさしますね」
さっきと同じように残った魔物も念動力で首を捻り倒す。
…自分の実力を証明するためとはいえ、魔物を殺すのは気がひけるな。でも冒険者になるための試験だからな。割り切るのは難しいけど。
「ラソマくん、凄いです!」
「うん。Bランクの魔物を単独で倒すなんて、私たちより強いかも?」
「セイチの代わりに仲間になってほしいくらいです」
「おい!?」
ウィースさんの言葉にセイチさんが突っ込む。まあウィースさんも本気で言ってるわけじゃないと思うけど。
「その時はよろしくお願いします!じゃあ、僕が冒険者になっても良いと認めてくれますか?」
「そうですね。実力で言えば大丈夫だと思います」
「やった!」
これで親に反対される事なく、冒険者になる事ができる。…でも先生をつけた割に試験は呆気なかったな。
「自分で言うのも何ですが、本当にこれだけの事で冒険者になる事を認めてくれるんですか?」
「これだけの事と言っても、Bランクの魔物を2匹、子供でもあしらうように簡単に倒せるんです。俺たちでも2匹を同時に相手にするのは面倒ですよ」
あの魔物は本当にそれだけの強さがあるのだろうか?それが少し疑問に残る。
「でも1つだけ問題がある」
「レイビスさん、何ですか?」
「ラソマくんは13歳。でも冒険者になれるのは15歳から。あと2年は冒険者になれないの」
そうなんだよな。なりたい職業だから、年齢の事も知っていた。だから、この2年間で何をするのかは決まっている。
「その間は、もっと冒険者として活動できるように、攻撃手段や防御手段などを考えておきたいと思います。今の攻撃手段は念動力だけですから」
「確かに手段は多ければ多い方が有利ですね。1つの手段だと、対策を取られたら逃げるしかできなくなってしまいます」
「逃げれるなら良いですけど、逃げられなかったら最悪の場合…」
そこでウィースさんが口をつぐむ。おそらく、子供の俺に言う事ではないと思ったんだろう。
「ですから、この2年間を有効活用するんです」
「それが良いですね」
それから俺は倒した魔物から換金できる素材の取り方を教えてもらった。本当は綺麗な死骸であれば、そのまま換金所や冒険者ギルドに持っていく方が良いらしいけど、持っていけない場合はその場で解体する事になっている。残った死骸は他の魔物が食べたりするからゴミにはならない。
その後、屋敷に戻った俺たちは応接間で父さんと話をする事になった。
「早かったな。それで、どうだった?ラソマは冒険者として生活していけそうだったか?」
「はい。実力で言えば、僕たちよりも上だと思います。戦闘においての臨機応変さは経験を積めばなんとかなりますし、どの程度のランクまで上がれるかは分かりませんが、冒険者として生活していくだけなら可能だと判断しました」
「そうか…本職の冒険者のお墨付きがあるなら、ラソマの冒険者になりたいという願いを反対するわけにはいかないだろうな」
「それでは?」
「うむ。ラソマ、冒険者になる事を認めよう」
「ありがとうございます!」
やった!これで冒険者になれる!
「セイチさん、レイビスさん、ウィースさん、ありがとうございました!」
「冒険者になり、討伐系の依頼を受ければ危険も伴います。ですから冒険者として活動する時は気をつけてくださいね」
「ラソマくんなら大丈夫」
「ラソマ様、いつかパーティーを組んでくださいね」
「はい!」
「ん?ラソマくん?」
レイビスさんが俺を呼んだ言葉に対して父さんが疑問の声をあげる。
「それは僕がそう呼んでほしいと言ったんです。僕は生徒ですし、貴族でも次男なので様をつけられたくなかったんです」
「そうか。まあ、そういう理由なら仕方ないな」
父さんは笑う。言っておかないとレイビスさんが責められる可能性があるからな。
さて、冒険者になれるまでの2年間、きっちりと訓練を積んでおかないとな。とりあえず攻撃手段をもっと多くしておかないと。
その日の夜。夕食の席で俺が2年後、冒険者になる事が父さんの口から発表された。
「ラソマ兄様、冒険者になるんですか?!」
「うん、それが僕の願いだからね」
「父様の治める街で冒険者をするなら安心だね」
「いえ、この街で冒険者になるつもりはありません」
「そうなのか?」
父さんが驚く。
「はい。以前、目立ってしまった事もあり、街やギルドで僕がレミラレス伯爵の息子だと知られています。そのせいで、おそらく、贔屓目に扱われる可能性があると思うんです」
「それはそうだろうな」
「そういう贔屓目なく、1人の冒険者として生活をしていきたいんです」
どの程度の贔屓になるか分からないけど、危険な依頼を受けさせてもらえなかったり、正当な報酬以上に何かを与えられるかもしれない。伯爵である父さんに媚びを売る形になるからな。そういう贔屓はあまり好きではない。1人の人間なんだから、自分だけの力で生きていきたい。
「では、どこで冒険者になるんだ?」
「隣が王都なので、王都で冒険者登録をして、そこで暮らしていきます」
「ラソマ兄様、王都に行ってしまうんですか?!」
「2年後だけどね。まだ、ここにいるよ」
「でも2年…寂しいです」
スィスルがそんな事を言ってくれる。
「スィスルも王都に行ったらどうだい?」
兄さんが言う。どういう事だ?
「王都には貴族の子供が通う学校があるんだ。ここでもスィスルは勉強しているけど、そこなら、もっと色々な事が学べると思うんだ。同年代の友達も沢山できるし、楽しいはずだよ」
「そんな学校があるんですね!是非、行きたいです!」
「なるほど…スィスルを1人だけ王都に行かせるのは不安だったが、ラソマがいるのであれば不安が少しは減るな」
「そうね。あの学校は何歳から入れるんだったかしら?」
「13歳からだが…ここで学び、15歳になったラソマが冒険者登録を無事に終えたら、スィスルが学校に編入する形で入れば良い」
「そうね。スィスル、これなら寂しくないわよね?」
「はい!ありがとうございます!」
スィスルが元気よくお礼を言う。というか、そんなに俺と離れたくないのか。まあ、伯爵を継ぐわけでもないし、スィスルも世界を見ておいた方が良いだろうな。
「父さんとしては娘と離れ離れになるのは寂しいけどな」
「子離れの時期なのよ。私も寂しいけど、仕方ないわよね」
大袈裟だな。それにまだ2年もある。思い出を作るには十分な時間がある。
俺はその2年で超能力での攻防の応用技を増やしていく。増え過ぎても使い分けが面倒になるけど、今より多くあったほうが良いからな。
さて、どんな技にしようかな。
そんな事を考えながら、俺は冒険者になれる日が待ち遠しくなってきた。




