おやこ
時計の針がもうすぐてっぺんを回るのを確認。わたしは、星空に包まれた静かなベランダに出た。冷たい空気を、ミクは肺いっぱいに詰め込む。パジャマは薄手で、この冬ではとっても寒い。身震いして、部屋に入る。ベランダから下を見たとき、知っている影が見えた。もうすぐ、お父さんが帰ってくる。
「おとうさん……」
ゆっくりと息とともに、言葉を吐き出した。
ガチャガチャッと、鍵の開けられた音。お父さんだ。
「おかえりなさい。おつかれさま」
ぱたぱたと、玄関に駆ける。帰ってきたお父さんは、顔をまっかにして、お酒くさかった。
「なんだぁ、まだ起きてたのか」
酔うとお父さんは声が大きくなる。普段のお父さんは大好きだが、いや、今も好きだが、お酒の力でほんの少し苦手な人になる。
でも、ずっと待っていて寂しかったのでお父さんの腰に思いきり抱き着いた。腰に抱き着くにはもう少し身長が必要なのだが、そこはちょっと跳んでカバーした。つまり、抱き着くというよりしがみつき、ぶら下がる形になった。
「さみしかったよ」
呟いてみた。しがみついてるのでお父さんの顔は見えない。少し困ったかな、なんて考えていると、わしゃわしゃと、頭を撫でられた。やっぱり、好きだ。
そのまま抱き上げられて、軽くキスされる。
キスは、好きだ。大好きな男の子とのキスは幼稚園でもみんなあこがれてる。付き合ってる友達なんかもいて、うらやましいと、思う。それって好き同士ってことで、いつか結婚だってできるってこと。
わたしはお父さんが好き。大好き。付き合いたい。結婚したいと思ってる。そういったこともある。でもそういうとお父さんはいつも困った顔をして、
「おとうさんはね、おかあさんと結婚していてぞっこんだから、できないんだ。もちろんミクのことも大好きだけどね」
決まって言われてしまう。
お母さんが物心つく前に死んでしまっているのに、お父さんはそう言う。ミクは、もういないのにお母さんに負けちゃうなんて、永遠に勝てないんだなあと思う。そう思うと、つらいし、悲しい。永遠に叶わない、片想い。
困らせたくないから、もう結婚してなんて言うことはないんだけど。
今日もそんなことを胸に秘めながら、お父さんの腕の中で眠る。いつか、この恋が実りますように。