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2話

久しぶりに腹を立てていた。大きく足を踏み鳴らしながら歩きたいのを抑え妥協して大股で歩きながらシオンの家へと向かっていた。


 「シオン、いる?」


 殴りつけそうな気持ちをなんとか制御してシオンの家のドアをノックするとシオンはすぐに出てきた。


 「話したい、いいよね」


 落ち着こうとして言葉が棘のある言い方になってしまう、こんな言い方じゃなくてもっと、ちゃんと言いたいのに・・・。


 「うん、入って」


 あんなに嫌な言い方をしてしまったのにシオンはいつもどうり、いやいつもより優しくなだめるような雰囲気を出していた。それが私の苛立ちを余計に助長させるが同時に自分が恥ずかしくもなる。お茶を入れてくるから座ってとすすめられ一刻も早く話したくて断ろうとしたが自分をまず落ち着けなければと思い直し、素直に座る。お茶を入れている五分ほどの時間がとてつもなく長く途方もないものに感じた。


 「はい」


 出された紅茶からハーブの香りが漂う、それを一口だけのみ細く息を吐く。シオンに聞かなければならないことがある。


 

 「おじいさまから聞いた、軍に入るんだってね。・・・どうして?」

 

 「前から、軍には入るつもりだった」

 

また棘のある言い方になってしまったのにシオンは動じない、それにカッとなってしまう。


 「前から決めてたって・・・軍っていうのがどういうものなのかちゃんと分かって言っているのか!?何時からかは知らないけど、今どんな状況か知らないわけじゃないだろ!隣国との関係が悪化してるっていうのに、もしかしたらそう遠くないうちに争いになるかもしれないっていうのに、なんでだよ!なんで、よりによってこんな時に・・・・・・・アーダおばあさまが、家族が亡くなったばかりだろ・・・」


 耐えられなくなって両手で顔を覆って俯いてしまう。年上として落ち着いて、理性的にしようとしていたのに上手くいかない。

 

 アーダおばあさまは一週間前に亡くなった。朝、シオンが朝食の用意をして待っていたが時間になっても来ないのを心配して様子を見に行ったところベッドの上で眠るように亡くなっていたそうだ。それなのに、軍に入るというシオンが分からない。たった一人の家族を亡くしたばかりで、アーダおばあさまはシオンのことを心配していた、健やかに暮らして欲しいと思っていた、シオンもそれは分かっていたはず。それは私も同じで、シオンには危ないことはして欲しくない。


 「ごめん、もう決めたから」

 「決めたって、誰かに相談は?・・・・・・私は何も聞いていない、子供の頃からずっと一緒にいたのに、大事に思っているのに。シオンには幸せになってほしいんだ!アーダおばあさまからシオンを頼むように言われているし、守らないといけないと思っていたのに・・・・・・!」


 



 「守るって、あばあちゃんから言われたから?」


 静かな、落ち着いた声が耳を通り、頭を、脳を、心臓を揺らした。顔を上げて目の前にいるシオンを見る、背筋を伸ばし揺るがなく引き締まったいつもと変わらない様子なのに悲しそうにも怒っているようにも見えた。


 「ルカは、私のおばあちゃんから言われたから、責任を感じてそう思っているの?」


 この問いかけに間違えてはいけない、直感的にそう思った。


 「・・・違う」

 「じゃあ、どうして?大事に思っているのはなんで?」

 「それは・・・・・・あのとき、シオンが傷つけられたときに、守りたいって思って、アーダおばあさまに言われたからじゃない。大事に思っているのは・・・・・・それは、小さいときからずっと一緒にいて、それで・・・・・」


 自分でも分からなかった、なんでこんなにシオンを思っているのか、小さいときから一緒にいたから?家族のように育ったから?虚をつかれたようなシオンの問に言葉が出てこない。考えれば考えるほど分からなくなり、思い浮かんだどの答えも違うような気がしてくる。何か言わなくては、じゃないとシオンは遠くに行ってしまう、それだけはどうしても嫌だった。

 

 

 「それでいいよ」


 え、なに、なんて言ったの?聞き取れなくてもう一度、と言おうとしてシオンの顔を見ると、穏やかに微笑んでさっきまで二人の間に流れていた剣呑な空気が嘘のようになる。


 「ごめん意地悪して。心配してくれたんだよね、ありがとう。確かに今、隣国との関係が悪化して緊張状態だけど今すぐに戦争になるってわけじゃないし、もしかしたら案外いい方向になるかもしれないよ。それに・・・守りたいって思っているのは私も同じで、ルカを守りたいって思ってる」


 穏やかなシオンの様子にもう何を言っても駄目なのだと察する。覚悟を決めたのだというのがはっきりと分かった。


 「それに会えなくなるってわけじゃないよ、今までみたいには難しいけど休みが合ったら・・・・・そうだね、紅茶でも飲んで優雅にすごそうか」


 明るくて楽しそうなおどけた言い方なのにどうして落ち着かないのだろう。私は何か間違ってしまったのだろうか、そう思わずにはいられなかった。

 

 


 それから二週間後、シオンは正式に軍に入った。

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