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『解夏』

作者: JOEmasa

最近、独り言が多くなった。

夏の日の終わり、暑さは引けて暮れゆく空の色と混じり合っていた。

道路に出てみると、お盆の時期だからかやけに静かで、人通りも見られない。

走ろう、と僕は決めた。


言葉を吐かずにいられないのは、きっと自分でいたいからだ。

しかし、執着というのじゃあない。

いつも先回りするように体裁を整えてきた結果、気が付いたら自分が作った小さな世界に追いかけ回されていたのである。

ありのままの世界というのがあるとして、そういうのを本当だと見るのは何だか馬鹿みたいで、こうしてきたのだった。


いや、単に怖ろしかったのだろう。

だから、皆呟いている。

己を演出したり、誰かを分類したりして、必死になって自分でいようとしている。

そんなものは人に認めてもらわなきゃ仕様がないから、尤もらしく聞こえるように、自分の中に作った知人や友人に語らせたりして。


僕は着替え、走った。

風はなかったが、走るとそこにある空気が身体を冷ましてくれた。

背を張って、腕を振る事だけを考える。

そうすると足は前へ前へ行かなきゃならなくなる。

そういう風に出来ているのだ。


直に汗が噴き出し、苦しくなってきた。

それでも呼吸が乱れてしまわないように一定のリズムで吸って吐いてを繰り返していると、それが声のように身体と頭の中に響き渡ってくる。

そうなると何かを考え込もうとしても、思考が追い付いてこないようになって、まるで僕というものがどんどん後ろへ置き去りにされていくように、走る姿から離れていった。

大した時速でなくとも、それが肉体の速度というものなのだろう。


蝉の声は四方から聞こえる。

よく見れば街中の木はどれもがっしりとして、背が高く、巨大だ。

僕の身体は地面の上でちっぽけな自重に悲鳴を上げながらも、前へ、いやどれが前かも分からぬままに、どこかへ向かって走っていた。

苦しいだけなのに、その先に目的がある訳でもないのに、しかし勝手に。


やがて息が切れ、脚は思うように動かなくなって、僕は立ち止まった。

それから身体を折り曲げて膝に手を付き、汗をボタボタと垂らしながら、なりふり構わない荒い呼吸を繰り返した。

その時、口からは空気だけしか出て行かず、この身体の中には僕以外は何もないように思われた。

それまで感じていなかった熱が全身から沸き立ってきて、僕は天を仰ぎながら水を欲した。

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