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転移してのんびり異世界ライフを楽しみます。  作者: 秋色空
第一章「王都までの旅」
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6ページ目「ゆえに僕は出発する」

今話から第1章の第2幕です。

 街中に響き渡る高い声で僕を呼び止めたのは、この街へ初めて来た時に会った王女陛下だった。


 僕とリルが足を止めて、そちらを振り返ると王女陛下は小走りでこちらへ来た。


「はぁはぁ……。」

「大丈夫ですか?王女様。」

「だ、大丈夫です……。」


 どう見ても大丈夫ではない。王女という身分からも分かるように普段からあまり外を出歩かないのだろう。体力がつくはずがない。別に無視して行ったりしないからゆっくり歩いて来ても良かったのにな。


 幾度か深呼吸をして呼吸を整えた王女陛下は、僕に言った。


「私と共に王都へ行って下さいませんか?」

「良いですよ?」

「駄目ですよね。すみません。この街で一番の冒険者を聞いた所、あなたと聞いたもので……いえいえ、大丈夫です。御迷惑を……え?」


 随分と溜めたな……。まさか王女陛下……狙ったのか!?なかなかの策士だ、やりおる。


「僕達も王都へ行くところなんです。御一緒するのであれば、道も分からなかったのでお話に飛びついただけの事です。微力ながら尽力させて頂きます。」

「い、いえ、そんな気負わなくても大丈夫ですよ。私の護衛を務めてほしいだけなのです。」

「旅の護衛ですか?」

「旅だけではありまけん。王都でもお願いしたいのですが……。」

「旅については分かりましたが、王都についてからはそこで決めます。まずは王都へ向かうとしましょう。御者の方は?」

「門の近くに待たせてます。」

「では、行きましょうか。」


 王女陛下を加えた僕ら3人はカハメルの街の門の前にいた馬車の側へ行った。


「王女陛下様。それでこいつらはどうですか?」

「確かに強いようです。御者であるあなたが心配する必要は無いです。青色冒険者ですから。」

「……この数ヶ月でそこまで成長したのか。」

「私とて最低限の護身術は学んでいます。もしもという状況が訪れないのが最も良いのですが、もしも護衛達が離れても自分の身は守れます。」

「そうですね、それでは私も賛成です。王女陛下、行きましょう。」


 流石に王女陛下の馬車に乗り込むのは礼儀知らずなのでゆっくり進む馬車の横を歩く事にした。


 王都へ行く時に『刃蟻の根城』を通っていくことになる。ここは元来、商人や旅人達を襲う刃蟻(カットアント)が出てきたため、危険度が高かったが、今は僕の保有地であるため害はない。〈保有地管理〉で生物が出現しないように設定してある。僕達が通った後は戻すけど。


「未開拓地帯に全く刃蟻(カットアント)が出ませんね。」

「そうですね……。」


 取り敢えず知らないふりをしておいた。保有地というのは、あまり広めない方が良い気がしたからだ。保有者って知られたら、襲われる危険性があるからね。余程の権力者にでもならない限り、保有者であることを広めるつもりは無い。


 刃蟻の根城は広いために時間を要するが、ここで野宿をするのは御法度とされている。前にも言ったように危険すぎるからだ。いや、安全だけどね。一団は早めに刃蟻の根城を通り過ぎた。カハメルから刃蟻の根城を通過するまでに掛かった時間は4時間。夕暮れ時に出発したため、既に夜となっている。


 夜になると夜襲の危険性が出てくるが、刃蟻の根城を越えたところに村がすぐある。カハメルほどは大きくないものの、宿はあるようだ。しかし、王女陛下は迷惑にならないように、村の外で野宿するらしい。


「これが〈魔導テント〉ですか。」

「護衛の二人は見たこと無かったのか?そうだ、これが〈魔導テント〉だ。少し魔力を流せば、勝手に組み立ててくれるっていう代物だ。王女陛下の使う〈魔導テント〉はその中でも一級品だからな。外側は地味に仕立てたが、中は素晴らしいぞ。」


 どうやら外側を地味にするのは、やはり夜襲を危惧してのことらしい。僕も当初はこの人は本当に王女陛下なのかと疑ってはいたが、馬車やこのテントなどを見る限り、嘘ではないようだ。


「お前らも一級品では無いが、テントは数枚ある。自由に使っていいぞ。」

「ありがとうございます。」


 御者の人は一応、王国騎士団の一員のようだ。国を任される身であるため、あまり高い身分ではないだろう。しかし、王女陛下に信頼を置かれる人物というだけあって、レベルは40もあった。

 一応、言っておくけど僕のレベル60は一般の人生で得られるレベルとしては異常な数値だよ?


 僕とリルは今更別々というのも面倒なので普段通り同じテントにした。べ、別にやましいことは無いよ……!?いや、ホントですって。


「そう言えばリルは風竜王に何故、会いに行くの?」

「ゲイリルウィントは私の友達だから、タクトを紹介したいと思ったの。」


 なんか照れるな……。わざわざそんな事してくれなくてもいいのに。竜なのに小さい所に細かったりする。竜でもう少し大雑把なものかと思った。


「風竜王とは仲良くなれるかな……。」

「大丈夫だと思うよ?ゲイリルウィントは私よりも優しいから。」


 優しい竜というと母性溢れる竜……みたいな?それよりも竜にはみんなリルが付くのか?リルっていう渾名が使えなくなりそうなんだけど。まあ、ウィント辺りで良いかな。


 僕らはそれから数時間ほど談笑して、その後に寝た。今日は初めての長旅で疲れた。


 * * * * *


 次の日、一団は村の村長と話して、少しばかり食糧を分けてもらった。リルが意外と大食いだったりするのだ。竜の胃と人間の胃のサイズが同じ筈が無いのだ。誤魔化すのに苦労したけど。苦労したのは、リルが大食いって言われると怒るからなんだけどね。


 一団は村長と別れ、村を出た。次の行き先は、カハメルほどの都市である。20kmほど離れているが、昼前までには辿り着けるだろう。平坦な道だし。


 次の都市は商業都市だ。色々な魔法関連の道具が手に入るかもしれない。王女陛下は1週間程滞在するらしいから。好都合だ。街を見て回ろう。


「御者さん。」

「何だ?」

「商業都市って魔法関連の道具って多いんですか?」

「ああ、多いと思うぞ。何しろ国内最大の商業都市だからな。辺境の地にあるのが不思議なくらいだ。」


 御者さんはこっそりと賄賂が横行している事も教えてくれたが。王女陛下がカハメルまで来た目的は、各都市の貴族らが不正をはたらいていないかを調べるためらしい。事前には知らせていないため、隠すのは容易ではないだろう。


「あれ?行きとは違う道を通っているんですか?」

「ああ、そうだ。行きも貴族の調査をしたが、最低でも2,3の貴族の階級剥奪を決定した。」

「それは既に報告したんですか?」

「いや、まだだ。王女陛下がその情報を持っている。」

「と、いうことは……その不正を働いていた貴族にも襲われる心配があると。」

「まあ、そういう事だな。」


 一応、リルにも言って今までよりもさらに人の気配に気を付けることにした。


 階級剥奪されれば一般市民と変わらない。税を納める義務も発生する。貴族にとっては悲しい宣告だろう。自業自得だが。その資料を奪おうと刺客を放ってもおかしくはない。……気を付けよう。


 昨日訪れた村から商業都市までは整備された道を使う。この道は偶に商人がカハメルとの行き来に使用するのだ。国の財政の一役を買う商人達にクレームをつけられないためにも整備したのだろう。王国も大変だな……。王にはなりたくない。なったとしても人任せにする。


 今通っているのは道は狭く、馬車が1台通るのが精一杯だ。横を通れないため、僕が前でリルが後ろを見張っている。それでも護衛2人では無理があったのだろう。馬が突然倒れた。


「どうしたのですか!?」


 王女陛下が驚いて顔を出した。


「分かりませんが王女陛下は馬車の中へ。」

「……分かりました。」


 原因は何だ……?そう考えて馬を見たところ、足に矢が刺さっていた。それも魔力の篭った矢だ。


「敵襲です、周囲に気を付けて!」


 僕はすぐに伝えた。御者さんは頷き、剣を取り出した。もう一度言うけど御者さんは騎士です。


「来た……!」


 人が現れた。それも1人ではない。2人、3人、4人……全部で20人だ。数が多い。相手に攻撃される前に倒さなくては。リルならば一瞬だが、あまり力を見せたくない。リルにアイコンタクトで攻撃するなと伝えた。リルはすぐに首肯した。さて、どうするか。相手の言葉を待つか?


「おい、お前ら全ての荷物を置いていけ!武器も服もだ。金目になる物は全てだ。」

「……どうする?」


 騎士さんは演技をした。相手の隙を見つけようとしたのだろう。それじゃあ乗るとするか。


「……どうしましょうか。荷物は食糧しか無いのですが。」

「それじゃあ、ここに置け!」


 その瞬間、盗賊が指差した場所を皆が向いた。盗賊もこちらもだ。僕はこの瞬間を狙っていた。話していた盗賊のリーダーらしき人と1mも離れていなかった僕は、駆け寄り鳩尾を殴った。


「……グハッ!」


 僕はレベルの差に気付いていなかった。レベル60が殴っただけでも相手には重すぎる一撃だったようだ。後方20mほどまで飛んだ。


 盗賊も御者さんも呆気に取られていた。流石に護衛がここまでとは思っていなかったのだろう。だが僕は青色冒険者。カハメルでナンバーワンの実力者だ。なめてもらっては困る。


「た、助けて下さい!」


 その時、王女陛下の声が聞こえた。盗賊は他にもいたようだ。王女陛下の護身術も盗賊相手には流石に遅かったのだろう。馬車を振り返る。それは失敗だった。何やら鈍器で頭を殴られた。僕は気を失った。


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