1ページ目「そして僕は転生する」
────ここは何処だ?
大理石のような柱が幾本も立っている。暑くも寒くもない。快適な気温だ。凪いでいる。世界は白い。空も地も。そんな場所に僕は立っていた。
僕の名前は────だ。……記憶が混濁しているのかな?名前を思い出せない。寸前の記憶までを全て失っているようだ。
『記憶を再生中です。』
世界にそんな声が響いた。感情の籠らない無機質の声……まるで機械のようだ。恐らく人が放送している訳では無いのだろう。今はこの機械声を〈世界の声〉とでも仮称しておこう。
世界の声によると、現在僕は記憶を再生しているようだ。そう言われれば、少しずつ記憶が戻ってきた気がする。僕の名前は今度こそ思い出せる。僕の名前は神代拓人だ。ほら、思い出せた。
次々と記憶が蘇る。年齢は……17歳。誕生日が最近来たばかりである。勿論、高校生である。友達がいないという訳でも無いし、インドア派という訳でも無い。ゲームをしたり、本を読んだりするし、運動もする、という感じだ。多才……なのかな?
『最終シークエンスです。完了をお待ちください。』
〈世界の声〉がそう告げた。僕が今、予想するにこの世界は地球では無いのだろう。地球にこのような場所は100%無い。ここは屋外だ。風が無いこと自体が異常だ。人もいない。世界にこんな声が響くわけもない。
────では、ここは何処か?
再度、自らの問いに解を出そう。……ここは〈異世界〉だと。
『神代拓人の身体再構成を終了しました。〈転生の儀〉を執り行います。』
待つこと10分。〈世界の声〉が告げた。やはり〈異世界〉であるようだ。ライトノベルのような展開であるが、この展開を望んでいる節もある。そう自覚している。
「こんにちは、神代拓人さん。」
僕の前に一人の女性が現れた。歩いてきた訳では無い。目の前にいつの間にか立っていたのだ。僕はずっと前を見ていた。瞬きの最中に現れたのだろう。
その女性は金髪で碧眼。長い髪は腰の辺りまで伸びている。この白い世界に合っている白い服を纏っている。だがその服はワンピースなど簡素なものでは無い。神や天使が着ていそうな神聖な雰囲気が漂ってきそうな服である。意匠の作品である。その女性が立つだけで芸術作品と言っても過言では無いだろう。そう表現するのが限界な程美しい。そんな女性だ。
「────はい、そうです。」
どう返答しようか迷ったがそう答えることにした。変に嘘をつくのも良くないと思ったからだ。初対面の人には、精一杯の親切を。それが僕の家の掟だ。
「神代拓人さん。あなたはこの世界についてどう思われますか?」
目の前の女性は静かにそう問い掛けてきた。僕の回答は依然として変わらない。
「……ここは〈異世界〉ですね。地球があった世界とは異なる世界……。」
「お見事です。」
その声には今まで最も感情が乗っていた。無感情という訳では無いようだ。果たしてこの女性は人なのか、それとも────。
「私はこの世界……〈神界〉に住む神々の1柱である転生神とです。」
「そうですか……。」
やはりこの女性は人間ではないようだ。神という存在を僕はあまり信じていなかったが、信じるしか無いのだろう。これで無信教者は終わりだ。これからはこの転生神様を信仰するとしよう。それがベストな解だと思われる。
「私など取るに足らない存在だとは思いますが、私は自らの使命である転生をしなければなりません。そこで私は数多くの人間の中で神代拓人さん、あなたを選ばせて頂きました。」
「……それはどうも。」
どうやら意外と饒舌なようだ。熱くなっておられる。
「それはそうと、神代拓人さん。あなたはこれより〈異世界転生〉をすることとなりますが、宜しいですか?」
「それは僕に選択権がある、ということですか?」
「ええ、少なくとも選ぶ権利は誰にでもあると思いますが?」
「そうなんですか……僕は〈異世界転生〉、出来るものならしてみたいですね。」
「では了承ということですね。早速ですが、〈転生の儀〉を執り行います。儀式と言ってもあなたがたの地球がある世界で古くからある儀式のように手間のかかるものではありません。あなたが〈異世界〉にて得られる力。それを習得するだけです。」
「得られる力、とは?」
「殆ど自由に叶いますよ。願いを叶える、と言っても過言ではありません。」
僕は有り難くその権利を使わせてもらうことにした。……さて、何を願おうか。勇者の力……そんなの要らないしな。
「すみません、その〈異世界〉において実力や才能を分けるのはどのような力ですか?」
「多くは〈スキル〉ですが、努力や生まれつきの才能もあるでしょう。」
「〈スキル〉とはどのようなものがあるのですか?」
「無数です。」
「その中に通常では得られない〈スキル〉などもありますか?」
「当然、あります。その者が生まれつき所持している〈固有スキル〉や〈スキル〉のレベルが上昇することによって獲得できる〈覚醒スキル〉、また〈称号〉や〈加護〉に付属する〈スキル〉などは得られません。」
「〈称号〉や〈加護〉はどうやって貰うのですか?」
「神の〈加護〉を望むのならば私から他の神々に頼むことも出来ます。他にも偉大な生物や力を象徴する生物などからも限定的な〈加護〉を得られます。それはその生物に頼むかその生物に纏わる物などから手に入れれる事もあります。〈称号〉も無数にありますが、特定条件を達成した時に貰えます。〈称号〉については〈異世界〉へと転生した者ならば、誰でも得られます。不可能な条件はありません。難易度の高すぎる条件はあるでしょうが。」
「……ありがとうございます。」
多くのライトノベルであるような〈異世界転生〉パターンとあまり変わらない。無力のまま、死にゆくのは最も悲しい。出来るなら永遠の命なども欲しいが、それも聞いてみるか。
「〈異世界〉の技術で例えば……尽きない命なども得ることは出来るのですか?」
「その〈異世界〉での能力にもよりますが、出来る可能性はあります。必ずしも、とは言えませんが。」
「そうですか……では決めました。僕の願いは……〈異世界〉にて僕の補助をしてくれる存在とあらゆる〈スキル〉を習得できる力を頂けますか?」
「わかりました。ではあなたには〈固有スキル〉である【固有スキル:万能】を授ます。そしてあなたの補助となる私の知識を与えた〈固有スキル〉である【固有スキル:情報】を授けます。これを使用すれば、あらゆる知識をAR表示してくれるでしょう。加えて【加護:転生神】も授けます。」
「ありがとうございます、転生神様。ですが、そこまでして頂けるのはどうしてですか?」
僕は転生神様によって、新しい世界へ転生する寸前に聞いてみた。
「それは……私はあなたの事が好みだからですよ?」
少し照れ気味に転生神様は言った。僕はとても運が良かったのだろう。優しい神様と出会えたのだ。また、いつか巡り会う事を祈ろう。
────こうして、僕は〈異世界〉へ転生したのだ。