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忘れちゃいけないもの  作者: 冴あき
第一章 ー鶴見編ー
4/20

メモ

「彼女・・・。また来てますね?」


 昨日、見つけたと言って現れてからほぼ毎日、この朝のラッシュが終わった時間帯に現れる女。来るたびにコーヒー以外に食べ物を注文し、アルバイトスタッフが俺に運びに行けと促す。


「今日も俺が行かないとあかんか?」と菊池さんに聞き返す。菊池さんは呆れたような口ぶりで俺に言い返す。


「鶴見副店長?あのね!?女の子の気持ちわかってないなぁ?助けてもらっておいてお礼だけ言って終わりなんてさぁ?もっと素直に出たらいいのに?」

「・・・うん・・・はい・・・」


 俺だってわかっているつもりではいた。菊池さんにも助けた経緯を説明をしていた。道を聞かれてその場所を教えたぐらいのことだったらこうにはならないだろうと踏んではいた。しかし、彼女には何かが隠されているようで近づきづらい思いもあったからだ。男一人にならともかくだ。男二人、しかもスーツの男たち二人に追われているとあれば、それ相応のことなんだと思うが、俺はそれをあえてその彼女に聞かずにいた。


 パスタが茹で上がり盛り付けをして、彼女のテーブルまで結局俺が運びに行くこととなった。


「お待たせいたしました!アボカドクリームパスタです」

「ありがとう・・・ございます・・・」と俯き加減に頭を下げる。

「・・・」


 少し彼女がぎこちない。それを余所目に立ち去ろうとすると案の定呼び止められた。


「顔の傷・・・まだ治ってないんだ。ごめんなさい」

「いいですよ・・・別に君のせいじゃないですし・・・」


 彼女は俯き加減になり、真剣眼差しでこちらに向き直し、

「見せてみて・・・」と一言。「あっいや。今仕事中だし・・・」と答えるとその彼女は「いいからっ!」と俺の頬のガーゼに軽く触れた。


「痛ッ・・・」

「あっごめん・・・そんなつもりじゃなくて・・・」と言うとスッと立ち上がりその場で本当に悪かったと言わんばかりにこの間のお詫びがしたいと申し出て頭を深々と下げた。


「・・・・・」


 言葉に詰まっていると、バッグからメモを取り出し携帯番号を書きスッと俺に渡す。


「来てくれないなら、諦める・・・でもこのままじゃ私の気持ちが治らない・・・」

「・・・・・」

「京都女に興味ない?彼女でもいる?」

「・・・・・」

「あの時もあなた聞かなかったけど、なぜ私が追われてたか気にならない?」

「・・・・あっいや・・・」


 その時後ろ側のお客様が店員を呼ぶ声がした。


「・・・ごめん、仕事中だったわね。また後で連絡頂戴、今日もちゃんと食べて帰るだけだから」

「・・・ありがとう・・・ございます」


 それを言うと俺はその場からお客さんに呼ばれて立ち去った。

 キッチンに戻ると菊池さんが「どうだった?」と聞いてくる。メモ書きに名前と携帯番号を書いて渡されたと答えると、「彼女は本気ね!」と一人頷く。


「でもなぁ?」

「何?いいじゃないですか?お似合いだと思いますけど?」

「どこが?」

「美女と野獣みたいで・・・」

「あのね?俺はそんなにブサイクかね?」

「鶴見さんそこ突っ込みどころ間違ってますけど?」


 そんな話をしていると勝田店長が「おはよう!」とキッチンに現れた。そして「二人して何コソコソ話してるの?」と聞いてくる。

 すると菊池さんはいらぬことを口にする。


「副店長がですね?あのお客様助けたらしいですよね?そしたらこのところ毎日店に顔を出しては、鶴見副店長のことを押し押しムードで迫ってるんですよ!すごい話でしょう?この副店長がですよ?人助けをしたんですよ?」

「菊池さん?この副店長が余計やわ!」

「だって、そうじゃないですかぁ!あんな美人の誘いを断ろうとしてるなんて可笑しいですよ!」

「う・・・ん?どの人?」

「あぁもう、店長まで・・・」


 店長が菊池さんに連れられて、フロアに出た。そしてすぐさま俺の元に戻ってきて、いきなり少々強い口調で言い放つ。


「鶴見くん!ありゃ結構な大物だ!君がそんな大物をよく助けたね?」

「大物?美人ってことですか?」

「きみーーーーー!!!この付近で働くなら、覚えておきな!あれ・・・全国カフェ展開してるモントロンダのご令嬢だから!」

「ご令嬢!!!!!」菊池さんが声をあげて拍手をした。

「副店長すごいじゃないですかぁ!そんなご令嬢を助けたとあれば、これはもう逆玉に乗るしかないですよ!」

「はぁ????ピンと来ねーーーわぁ・・・」


 俺は頭を掻いて口元を歪めた。それを見た店長の勝田さんがポンと肩を叩き、店長室へと消えていった。それはあたかも頑張れよと言わんばかりの肩の叩きようだった。その後も菊池さん一人で盛り上がっていたのだった。


店終わり、彼女の携帯へでんわするかどうか迷う俺だった。

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