人気者
翌日。朝いつものように出勤すると、菊池さんが和かに「昨日デートだったんでしょう?」と聞いてくる。
「今日からいないけど、寂しくなるね?副店長!」
「はあ?別に…」
「その顔、寂しいって言ってますよ?」
和かに返す菊池さんを他所に俺はキッチンで準備に取り掛かった。勝田店長が朝早くから顔を出し、菊池さんと同じ言葉を投げかける。またかと言う思いと何故店長まで知っているのだという思い。誰にも話していない筈が、デートの事は皆んなに知られていた。
「ニヤニヤしちゃって…」
「あのね、店長?仕事の準備の邪魔!」
「あっ!いいんだ?手伝わなくて」
「いつもいない癖に何言ってるんですか!」
「ふーん、じゃあ三隅さんの出勤の日、君休みにしちゃおうかな?」
「いっすよ別に」
「無理しちゃって…クククククッ」
「ああ!もう!店長本当に邪魔です!」
店長をキッチンから追い出し、俺は一人昨日のことを考えながら準備に取り掛かっていた。思い出すのは胸の柔らかさと、手に残る太ももの感触。朝からエロ妄想に浸っていると。菊池さんが「やっぱりニヤニヤしてる」とグーで頭を擦る。
「別に、ニヤニヤなんて」
そんな準備も終わり、朝からラッシュと思いきや、本日は客がまばらな朝食時間。三隅さんが入ってからの1週間というものは、サラリーマンや男性客が大勢押しかけてきたものの、今日は疎らな上に、お母様達がチラホラと来るのみで、比較的暇な朝食ラッシュだった。
ラッシュも疎らな上に、昼の客も全くと言って入ってこない。店長はそんな状況でティッシュ配りをして来いと菊池さんと俺に促した。
寺町通り沿いに立ち、ランチメニューの宣伝にティッシュを配っていると、大学生たちが聞いてくる。
「なあ?今日ロングヘアーの綺麗なお姉さん休み?」
「あっ?えっ?」
菊池さんが機転を効かせて「長身の三隅ってものですか?」と尋ねる。すると大学生達は、「ああ!そうそう三隅さん」と和かに答える。
「ええ、はい本日からは週一のみの出勤ですが…」
「そうなんや。じゃあ今度おる時に行くわ。出勤日いつなんですか?」
「ああ、今度の土曜日ですが…」
「じゃあ、土曜日予約で!」
不思議なことに、三隅百合目当てなのかと菊池さんが、肘を俺の腰に当て「やばいんじゃないですか?取られちゃいますよ!」と笑顔を見せた。
その後も、止まる通行人曰く、皆、三隅さんの事を聞いてくる。俺たちはそれを何回も聞かされると顔を見合わせ「何でなんやろ?」と首を捻った。
ティッシュも中々はけない中、交代要因が到着して、俺たち二人は一度店舗に戻った。勝田店長がティッシュ配りの状況はどうだったと訪ねてくる。
「うーん。なんか皆んな三隅さんの出勤日聞いてくるんですよ」
「あっそう。やっぱり」
「やっぱりって?店長何か知ってるんですか?」
「ほら、彼女人気者だからねえ?」
「人気者!?」
「あれ?菊池さん知ってるよね?」
「えっ!?私ですか?」
菊池さんも首を横に振る。
「あれ?知らないの?雑誌とか読まない?」
「ああ、私結構オタクだから女性誌はあまり…」
「そう?彼女この雑誌のモデルしてるの知らない?」
「はああああああああああああ?モデル!?」
菊池さんと顔を付き合わせて驚いた。その雑誌に載っている彼女の水着姿。夏をイメージさせる悩殺ポーズを取る姿がそこにはあった。