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忘れちゃいけないもの  作者: 冴あき
第二章 ー百合編ー
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わやくちゃ

 一瞬の判断で男の後を追う。男は前から来る人々にぶつかりながら必死に走る。俺も後を追って人々を避け声をはり挙げる。10mぐらい進んだ付近。寺町通りへと右へ曲がる男。俺も女性にぶち当りながら、謝りを入れながらと必死だった。パン屋と服屋を通り越した辺りで、見慣れたロングヘアでジーンズシャツに白スカートの女性。

「あっ!三隅さん!男捕まえて!」

 彼女が振り向く。途端に男が彼女にタックルをかます。

「キャ!」


 振り向いた三隅さんが男に当てられて転ぶ。俺は三隅さんの事も気にかかったが、男を追う。三隅さんにぶち当たったことで、男はスピードを緩めた。イケると踏んだ俺は、三隅さんを通り過ぎた辺りで男に、後ろポケットから財布を取り出し、後頭部目掛けてブン投げた。


「アウッ!」

 鈍い音とともに男の唸る声。姿勢が後ろにそれたところで、飛びかかった。それと同時に三隅さんの「何通り過ぎてんのよ!痛いじゃない!」と後方から聞こえた。

 それどころの騒ぎじゃ無いことぐらい分かれと言わんばかりに、俺も叫んだ。


「こなクソ!捕まりやがれ!」


 男の足元にタックルして男が転んだ。周りの人たちは何事かと、眺めるばかり。男は顔面から落ちたものの、手をつきそれでも前へと前進する。

「ハッ!ハッ!」

「ウググググッ!けっ警察!誰か!」


 必死に男の足元をつかみ、周りに叫ぶ。通行人の一人の男性が、携帯を取り出し電話しているようだ。俺も必死だが、男は持っていたバッグを俺にブン投げた。頭にバッグが当たり痛みが走る。その瞬間、男の靴が脱げて、足蹴りを顔面に食らった。鈍い痛さが襲う。手で顔を抑えると、男は直ぐさま立ち上がり周りの制しも虚しく走り去る。

「大丈夫ですか!?」

 バッグを取られた女性が近づき、声をかけてきた。それで我に返り、女性の方へと顔に手を当てながら上を向いた。

「あっ、だっ大丈夫っす。それよりバッグ戻って良かったっすね…」


 地面に落ちていたバッグを女性に渡す。すると女性は中身を確認していたが、慌てふためた様子で「財布が無い!」と叫ぶ。

「えええええええ!マジっすか!」


 そう声を張り上げた瞬間、後ろから女性のパンプスが飛んで俺の背中に当たり、またもや痛みが走る。痛がりながら振り向くと…。


「冗談じゃ無いわよ!私のパンプスどうしてくれんのよ!?」


 マジギレのお嬢様。三隅百合が大声を挙げて、俺を睨みつけていた。通りすがりの女性が叫び、三隅百合が叫ぶ姿に、周りの通行人も集まり出し大注目の視線が降り注がれる。


「あ、あのさ?それどころじゃないの!?わかる?」

「わかんない!どうしてくれんのよ!私のパンプス!まだおニューなのよ!」

「知らねーよ!」


 周りの通行人の男性が、俺に向けて声をはりあげる。

「兄ちゃん!二兎追うもの一兎も得ずやで?」

「はあ?」

「兄ちゃんも隅に置けんな?」

「ちゃうます!そんなんちゃうって!」


 人だかりが一段と人だかりを呼び。大注目の視線を浴びながら、バッグを持っていた女性は俺に頭を下げた。それをみた三隅百合が、また叫ぶ。


「この人誰よ?私とデートなのに、別の人ともデートしてたの?」

「はあ…………??勘違いにも甚だしいな!」

「だって、いきなり謝るなんておかしいじゃ無い!さっきの男と揉めてたの、この女性のせいでしょ!」

「そうだけどお!事情が違うつうの」


 バッグの女性が申し訳なさそうに手を差し出す。

「立てますか?」

「あっありがとうございます」


 手を差し出されて手を伸ばすと、三隅百合がその手を跳ね除ける。


「痛え!何すんの!?」

「何じゃ無いわよ!私というものがありながら、他の女に!」

「アホか!お前は!」

「アホアホ言うな!この浮気者!」


 そんな痴話喧嘩をしていると、制服を着た警官が走って現れて、いきなり俺が座り込んでいるのを見て言い放った。


「泥棒は貴様か!」

「ちげーよ!よく見ろよ!アホ!」


 警官に対しその反応。それを見た周りの観客たちが大爆笑を起こしてた。正直メチャクチャな初回デートの始まりになりそうだ。もちろん三隅百合は一方的に怒ったままだった。

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