かき消された言葉
「と言うわけで、走ってたらあなたに出くわしたのよ」
「大丈夫なのか!?そんな事してぇ!」
「………」
今までそれなりに自分の想いも含めて話す彼女が急に黙る。
まだ何かあるのだと思い聞き返す。
「大丈夫!」
微笑む顔。どこか不自然。
「と言うわけで、走ってたらあなたに出くわしたのよ」
「大丈夫なのか!?そんな事してぇ!」
「………」
今までそれなりに自分の想いも含めて話す彼女が急に黙る。
まだ何かあるのだと思い聞き返す。
「大丈夫!」
微笑む顔。どこか不自然。
「ホンマか?今朝のニュースで言ってた」
「社長交替って、お前の家どうなってんの?」
「そんな状況で、俺のところでバイトしてる場合なん?」
続ける言葉に一瞬の沈黙。
目を閉じ微笑み声を出した時、後ろに大型トラック。
「い………………………」
声はかき消された。
俺には「いいの!大丈夫。私は私」そう聞こえた。
「さっき何て言うたん?」
だが急に彼女は何でもないとばかり首を振り、俺に寄りかかる。
「どうしたん?」
「父と私とは違うから…気にしないで…」
「でも、俺さ…」
続けようとした瞬間、彼女が俺の口を紡ぐ。
「わかってる…俺はまだお前の事よく知らない。そう言いたいんでしょ?」
コクリと頷く俺。それと同じような答えが返ってくる。
「私もあなたの事まだよく知らない」
「けど、なんかこう…この人ならって何処か思えるの」
「………」
「あなたってさ?どことなく頼りなさそうなのに、あの時はトンデモなく強かった」
「心意気?そう言うのが凄い出てたわよ?」
「………そう?」
「ほらぁ!普通さ、あんな状況であの強さは出ないし、今もおちゃらけないその態度私は好きだな…」
「ダメならダメって言ってね。でもあなたと一緒なら私が勇気づく」
「ダメちゃうけど、まだ本当に好きって確証が持てない」
「いいんじゃない?これから好きになっていけば、ねぇ?週末デートしようっか?」
「えっ?」
「お互いを知るためのデート。順番が普通とは違うかもしれなけど、私はそうしたい」
俺は「うん」と頷いた。
別れ際、再度キスと離れる手が少し切なさを感じた。
翌朝からも毎朝この1週間顔を合わせた。仲睦まじいカップルのような振る舞いではなく、普通のスタッフとして店では対応を心がけた。
そんな1週間が過ぎ、週末シフト休みをもらっていた俺は、四条通りを待ち合わせ場所に定刻前に着くようにゆっくりと歩いていた。
そんな大通りのど真ん中。突然女性の悲鳴が鳴り響く。
「キャアーーーーー!!!!泥棒!!!」
後ろを振り向くと、女性からショルダーバッグを奪いこちらに走り出してくる男。
「なっなんやぁ!?」
声を出した時には、既に俺の横を走る男。
この状況一瞬の判断。何も考えずに走り出し、男の後を追っていた。
「待てぇ!!!」