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忘れちゃいけないもの  作者: 冴あき
第二章 ー百合編ー
16/20

後悔しますよ

「いいのか?そんな事して。後悔するのは君だけじゃないんだぞ!」


 ホテルのロビー。高津の声。

 私は契約書を握り締め、このロビーからの出口を探した。

視線は、家族らしき人たちが和気藹々と入ってくる方へと向けられた。

そこが出口だとすぐにわかり足取りは一段と早くなる。


 また高津の声。それに混じって数名の呼びとめる声。父の声も混ざっていたような気もするが、気のせいと言い聞かせ、走ることを止めなかった。

 もう少しで、玄関口。


 どうしてこんな行動に出たのか。いや、こんな行動が出来たのか。

 自分自身に驚いていた。


 父の制裁を受けた後、平静を装い会場に戻った。

 父の挨拶はすでに済んでいて、会場は歓談ムードになっていた。

「どこにいたの?お父様の挨拶も聞かずに。」

 母の問いかけに、無言で頷き、席に着いた。

 蓮たちは関係ない顔をして、ジュースを飲んでいる。

 家族で話している最中、何人もの関係者達が、お祝いに来た。それが途切れた頃、再び父が高津を連れてやってきた。


 「いかがですか?お昼からのお酒もそれなりに楽しんで貰えてますか?」

「まあ、一応。」

 あからさまに不愉快に返す。

「百合!何だ。その言い方は……。」

 父の言葉を高津は手を掲げ制し、私を諭すように話し出した。

「百合さん、先程はすまなかったね。私も言い方が悪かった。だがこれは君のためでもある。私と一緒になれば、何も困ることはない。それに、ご両親だって安心させたいだろう?」


 返す言葉が見つからない。素直な言葉は、この場を壊してしまうだろう。

 私が躊躇していると、父が空気を察したのか、その場を和ませるような会話をしはじめた。

 数分後父は、私に席を立つよう促す。

 そして高津に誘われるがまま、2人きり。


 再度、ウインドウ越しの乾杯。

 2人きりになった高津は饒舌になり、私の心には何も響かない言葉を繰り返した。


「百合さん、僕と君は今日ここで会うことが約束されていたんだよ。」


「君と僕は出会う運命だったんだ。」


「今日は今までの君の誕生日の中で、1番記憶に残る誕生日になる。」

「どこでそれをお知りになったのですか?」

感情を隠しながら、端的に聞きなおす私の言葉を、聞こうともせず高津は続ける。


「何も不自由をしない生活と何も心配いらない家庭を約束しよう。」


 和やかに笑う高津。真逆の感情を持つ私。

 出会うためとか、運命とかは、好きなもの同士が使う言葉。私の気持ちを何も考えずに、そういう話を躊躇せずにつかう高津に、嫌悪感しか覚えなかった。


 18時。アナウンスが流れた。調印式の挨拶らしい。高津が壇上に上がる。そして、話し始めた。

「調印式の前に、皆様にお伝えしたいことが、あります。」

 ざわつく会場。


「本日は、合同調印に立ち会って下さる、三隅様の長女、百合様の誕生日です。皆様、拍手をお願いします。」

 拍手の中、嫌がる私の背中を母が押す。仕方なく、壇上に上がる。

 握手を求められ、スタッフが持ってきた花束を高津が受け取り、私に渡す。


「おめでとうございます。そして、もう一つ話があります。」


「私、高津と三隅百合様とは、本日、婚約することを誓います!」

「な……!」

 驚く私に、ウインクで返す高津。

 私の中で何かがはじけた。

 高津が持っていた契約書を奪い取り、マイクに向かった。


「そんなことは何も聞いておりません。皆様!これは不正調印です。父はこんな調印、望んではおりません。もちろん私もです!」

 言い終わると私は、契約書を持ったまま走り出した。

 ざわめく会場。そして壇上からの高津の声。


「そんな事していいのか!君は後悔することになるぞ!」


 響いている高津の声を無視して、会場を出る。

 私を止めようとしている高津の声が、余計に私を急がせた。

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