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忘れちゃいけないもの  作者: 冴あき
第二章 ー百合編ー
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心の雨

 見せられた契約書。その中には婚約という文字と父と私の名前。

 それを手にしようとすると、紙を上に挙げられて「大事なものだ」とアタッシュケースに仕舞い込む高津。この人は一体なんなのと苛立ちが心底こみ上げてくる。しかし私はそれをグッと堪えた。明け透けな態度をとって仕舞えば、父の立場もある。父の事を憎むのにはまだ早いと感じ、少しだけ足を上げ足を下ろしてヒールを鳴らして心を沈めた。


「と言うわけで、会場に行きましょうか?百合さん?」


 高津はアタッシュケースを持ち、涼しげな顔をして部屋からパーティ会場へと入って行く。父も後を追うように部屋を出ようとしたが、私が声を出し引き止めた。


「百合、悪い。だがこうするのがお前の為だ。高津さんは、さっきはああ言ったが、これはお前の為でもある」

「お父様!初めてお会いするあの方に私はまだ何の感情もありません!」

「いつの日か幸せを掴む時、後悔しない選択をしろ!」

 そう言う父に対し、私はそんな事を言いたいわけではない。契約上と言う言葉が引っかかっている。


「お父様!私の気持ちは無視なの?先ほどの契約書は何なのですか?」

「・・・・あれは・・・」

「私は、契約で売られたのですか!」


 言ってはいけない言葉が父だけだとすんなりと出て来る。父の隣にいた東郷さんが私の名を叫ぶ。「それは言い過ぎですよ」と父の味方をする。幾ら契約上の事とは言え、単なる紹介だけに止まれば私も強くは言いたくはない。だけど今回は少しそれとは違う。それにさっきの高津の態度をみればお父様が不利な立場であるのは明らか。

 だから余計に苛立ちを隠す事なく父だけの前だと本音が聞きたくなった。


 だが・・・。


「百合・・・」


 そうひと言言った後だった。私を通り越した父が振り向き、左手で平手打ちを私の頬に当てた。

 高い音と共に、私の小さな叫びが廊下に木霊した。それを見た東郷さんが父の名を呼ぶ。しかし父は平手打ちをした後、一瞬俯いたが、そのままパーティー会場に入っていった。私は右手で頬を抑えて項垂れた。ただ「お嬢様?大丈夫ですか?」と東郷さんの言葉。

 そしてパーティー会場から司会進行役の女性の言葉がマイクを通して聞こえてくる。


「本日は、生憎の雨模様ですが、このパーティーにお集まり頂きありがとうございます。付きましては共同出資にて、新会社を設立するにあたり、代表取締役に就任されます高津様からご挨拶いただきます。皆様盛大な拍手でお迎えくださいませ!」


 一斉に拍手が起こる中、私はただ項垂れていた。

私はどうなるの?あの人を愛せるかなんて言われても到底無理な話。第一印象が悪すぎる。幾ら代表取締役とは言え、人の心を持たない人なんて愛する事なんて出来るはずがないのだから・・・。


 私の心の中は盛大な拍手で盛り上がる会場とは逆に、悲しくて涙など出ないのに、天気と同じように雨模様だった。

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