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忘れちゃいけないもの  作者: 冴あき
第二章 ー百合編ー
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契約書

 パーティーテーブルを幾つも通り抜けて入り口へと駆け足を踏む。後ろでは目付け役の東郷さんが私を呼ぶ声。しかしそれを無視して私は一目散に出入り口の扉を開けた。小さな受付には誰もおらず、通路左手の扉奥から人の声らしきものが聞こえてくる。耳を澄まし、ダメだと思いつつ立ち聴きをする。


「本日は本当に光栄です。私どもと一緒に手を組んでいただけるのですから」


 父の声だ。その後すぐ、男の声がする。


「いえいえ、あなたがまさかお嬢様を差し出すとはね。こちらもそれには驚きましたが・・・。本日は正式に婚約発表でも行こうかな?」

「ハハハハッ!それはまだ百合と会ってからにしていただければと・・・百合を気にいるかどうかは、これからでは?」


 えっ!?どう言う事?この話・・・。何?

 私はとんでも無い事を立ち聴きしたようで少し放心状態になった。立ち止まったまま扉の方へ耳を澄ませた。


「いえいえ、あの方は私のタイプですよ?清楚な感じで。それに私は彼女のファンでしてね?そんな彼女を取れるとあらば、容易い御用です」

「いやぁーあの子はあぁ見えて結構気の強いところがありますから・・・」

「良いではありませんかぁ、それでも結構!これは契約上の・・・・」


 その時だった。出入り口から東郷さんが追いかけ出て私に声をかける。

「お嬢様、いけません。すぐ戻りましょう」

「黙って・・・今、大事なところ・・・」

「ですから、大事な話をお父様はしていらっしゃいます」


 まるで、何もかも知ったような口ぶりで話す東郷さんを私は睨んだ。そして私の手を取り引き寄せる。「待って!」と押し問答すると後ろの扉がゆっくりと開く。そしてメガネをかけた男が目の前に現れて私を窘めた。


「いけませんね、まだ出会うのはあと5分早いですよ?百合お嬢様?」

「えっ?」

「百合!お前は立ち聴きをしていたのかぁ!?」父の叫ぶ声がする。その言葉を制すように、後ろにいる父に手をかざした。そして男が私に向かって言う。その言葉はまるで私の感情など無視した言葉だった。


「君は私の妻になるんです。お父様も承諾してくれた。これはお父様を守るための行為ですよ?」

「ど、どう言う意味ですか?」

「あぁ、君は何も心配いらない。ただ私を愛せばいい、それだけのこと」


 何?この人・・・。

 銀縁のメガネを左手で外し、ハンカチで拭き、そしてまたかけ直すこの男。


「初めましてかな?高津です。百合さん」

「愛せばいいって、今初めてお会いしたんですが・・・」


 私は少し怪訝な態度を取り口を開いた。そして斜に構えて腕を組んで威嚇した態度をとった。


「ほほぉ・・・その強気な姿勢もいいじゃないですか?君は何か勘違いしているようだが、これはもう既に決められたことなんだよ?お父様のサインもここにある」

「えっ?」


 そう言うとテーブルに一旦引き返し、私にその白い用紙を見せた。そこには、共同出資の契約書。そこには私の名前と婚約制約書の文字が書き込まれてった。

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