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戦争の令嬢  作者: sweet
〜旅立つまで〜
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四話 決行


アリア・ヒューゲル(16)は激烈な閃光を目の当たりにした事を昨日の事のように覚えている。ちょうど床に就こうかというときだった。驚くべきはその閃光を確認したものがアリア以外全員『新たな人類』だったという事だ。まさか本当は自分も『新たな人類』なのではないだろうかと浮かれたものだったが、やはりなんの不思議な力も使えなかった。あれから3年が経った春の頃。

「なにはともあれ、そろそろ私は家を出なきゃいけないと思ってるよ」

思い立ったが吉日と言わんばかりに、アリアはすっくと立ち上がった。幼少の頃から抱いていた夢を叶えようと。



「行ってしまうか愛しき我が娘よ」

「アリアちゃんの成長を嬉しくも哀しくも思うわ…盗賊には気をつけるのよ?」


「別に今生の別れでもないし、何かあったら電話するよ」

「電話代はバカにならないから出来ればお手紙にしてちょうだい。伝染病が感染るかもしれないし」

この頃C国での流行り病は、電話から広がっていると信じられていた。電話を持てる様な身分の者でしか広まらなかったからである。


「はっはっは、金のことなんて、貴族らしからぬお願いだな愛しき我が妻よ」

「いや、うちも大変なんだし、しょうがないよ。たまには手紙送るよ。んじゃ、いってき」がちゃ。ばたん



「「……軽っ」」


かくして浅窓の令嬢アリア・ヒューゲルの一人旅は始まる。

軽く。浅く。

しかし彼女の背負っている彼女の知らない未来は。

重く。深く。


◎ ◉ ◎ ◉


……もう、二週間は経ったのだろうか。

「なぜ私は街を出られないの!?」

未だにアリア・ヒューゲルは自分の生まれ育った街アキュタを出られないのか。答えは単純明快である。


「知らない!他国に行くのにパスポートなんて物が必要なんて習わなかった!」申請中。



「すまん愛しき我が娘よ。もうとっくに取得してるもんだと思ってた」

「アリアちゃん。自分の翼だけじゃ飛び立てないってことも憶えてね?」


「くっくっくっ、お嬢様は本当に面白いお人だ」

「あんたは笑うな!講師のくせに!パスポートのこと教えなかったくせに!」

「いやねお嬢様、仲間とお嬢様が一週間以内に街から出られるかって賭けをしたんですよ。おかげでぼろ勝ちしましたがね…くっくっくっ」

「外す方に賭けてんじゃねえよ!」


それから2日後。ようやくパスポートを手にした浅窓の令嬢は、悪態をつきながらヒューゲル邸を飛び出していった。


◎ ◉ ◎ ◉


C国の海沿いにある街アキュタは、海を挟んだ隣国である宗教大国N国へ海産物を輸出するための大船が海沿いに数隻ある。この船に潜入N国へ密入国しようとする者もいる。文明が栄えているN国は、超小国であるC国民の羨望のまとなのだ。

そのまとであるN国へ密入国しようとしている女がひとり。波止場にいるは我らが主人公、アリア・ヒューゲル。



「いや密入国しないから」



「あら、アリア、アリアでありませんの?」

「……あれ?オスクリタ!久しぶりだね」

深緑の髪を揺らしながらやってきたのはアリアの友人である深層の令嬢(甚だ疑問ではあるが)、オスクリタ・ラコリーヌ。彼女がここにいるのは、彼女の家がこの界隈を牛耳っているためであろうか。

「貴女も密入国?」

「あんた私をどんなねずみ小僧だと思ってるわけ?……まぁいいわ、ねえ聞いてオスクリタ私迷ってるの。大陸踏破のため、西から行くか東へ向かうか」

あれほど準備に準備を重ねて行き先を決めていないという浅窓の令嬢さすがと言うべきか。相談を受けたオスクリタも絶句、と言った顔であった。

「まさか貴女がそれほどまでのおばかさんだとは……」

「人生行き当たりハッタリ」

「貴女の頭には驚くばかり」


◎ ◉ ◎ ◉


二人は近くにある喫茶店へと移動した。波止場の潮の匂いとはうって変わって、店の中は香ばしいコーヒーの香りで充満していた。

《鍵》が墜ちてから、それぞれの国で文明が衰退した部分と生き残ったものが全く違うことは多々ある。こと飲食においては、C国は他の大国と比べても遜色ないほど発達していた。

オスクリタは給仕に向かって、コーヒーを。と一言言って席に着く。

「アリアはどうなさいます?」

「オスクリタってコーヒーなんて苦いだけの高級品、よく飲めるね……。あ、私はマリブコークで。アルコール無しの」

マリブコークとはココナッツ・リキュールをコーラに混ぜたものである。味は信じられないほど甘い。

「貴女のお父様はアキュタで1番ののコーヒー狂いだと聞いてますが……貴女とんでもない甘党ですわね」

「いやぁ、糖分を摂らなきゃ勉強もはかどらなかったから……」どの口が言うか。

「ま、まぁ、努力していた事は事実ですものね…あ、どうもありがとう」

給仕がコーヒーとマリブコークを運んできた。コーヒーの深い香りと、マリブコークの甘いココナッツの香りが喧嘩しているようで、オスクリタは注文を失敗したかなと思った。

「私の70%は努力で出来ている。20%は才能。残りの40%は筋肉!…あれ?足したら150%になっちゃうね」

「130%ですわ…。少なくとも才能は溢れてると思いますわ」違う意味で。



◎ ◉ ◎ ◉


「……で、先程の件なのですが」

商人の娘はがめつさとは裏腹に、コーヒーを飲む所作が美しい。近くにいた給仕が見惚れるほどに。

「え?なんだっけ。マリブコークとマリブパインは甘くて飲みやすいから女の子を酔わせてアレするのに丁度いいって話だっけ?」

貴族の娘はジュースを飲む姿が様になる。頭の悪さが滲み出るようなという意味で。

「そんなゲストークしてません。貴女が西と東どちらから向かうかって話です」

「……あぁそうだった。全く考えてなかった」

「ちょっとは考えて下さいな……アリアとしては、どちらがいいと思っておりますの?」

「うーん…私は……西かな。全く文明が違うって学んだし。同じ大陸よりも違う場所に行ってみたい」

「……っ、……あら、同意見ですわ。いろいろな事が学べると思います」

最初っから自分で答え決まってんじゃねえかと突っ込みそうになったのをぐっとこらえ、親友の意見に賛成する。商人は空気が読めなくてはいけないのだ。

親友の同調する意見を聞き、アリアは手を組み、ぱっと明るい笑顔を見せ嬉しそうにする。

「そっか!オスクリタ、本当にありがとう!オスクリタがいて本当に良かったよ!」

「……な、か、感違いしないで下さいませ!アリアは大切な親友なんですからね!」なにと感違いしているというのか。

「うん!ありがとう、じゃあ、早速船の手配してくれる?」

「あ、それが狙いですか」

「……立ってるものは親でも使えって言うじゃん?」


◎ ◉ ◎ ◉


「はぁ。仕方ないから、今度出る我が家の貿易船に乗せてあげますわ。D国へひと月ほど滞在してからのN国行きですが、宜しくて?」

何が仕方ないのか。オスクリタは厳しそうに見えてアリアにはマリブコークのように甘い。

「ほ、本当にいいの!やったあ」

「えぇ。まさか密入国させるわけには行かないので、D国、N国に入国する手続きをとりたいからアリア、パスポートを私の家に持ってきてくださる?」



「ん?………ぱすぽーと?」



「そう。パスポートですわ」




「ぱすぽうと?」



「………………え?アリア?」




上記に戻る。




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