嫌いな女を惚れさせる。
「レオの騙し」のレオ目線の物語です
「どうしてよ…!!私はお姫様のはずでしょ?それなのにどうして……!なんで皆に罵られなきゃいけないわけ?」
ヒステリーに叫ぶ姫花の姿にレオはおもわず引いてしまった。
お前が姫…?何で罵られなきゃいけないか?
ふざけんじゃねぇよ!!
自分のことを姫とか。ありえねぇ。ナルシストか!?
罵られるのだってお前が今まで鈴香にしてきたことだろう?自業自得だよ。
「ああ!もう腹立たしい!!あの女…私とは違って可愛くないくせに調子に乗りやがって!」
可愛くないだ?お前は鈴香のどこを見てんだよ!ニキビのない、きめ細かく、象牙色の肌は柔らかくてマシュマロのようだし、前髪に隠れた目はこぼれ落ちてしまいそうなほど大きい。お下げにしている黒髪は艶やかで枝毛一つなく、サラサラしていて絡まることはない。
それに比べて、姫花の肌は一見綺麗な肌に見えるが、化粧のし過ぎで、ボロボロだし、目は大きいが、濁っている。髪はサラサラはしているが、染めているので傷んでいる。
可愛くないのはお前だよ。可愛くないお前が調子に乗るな!と言ってやりたいところだが、鈴香には姫花を落とせと言われているので、悔しいが言わなかった。
「大丈夫か?」お前の頭?
ギロリと睨まれた。と思ったら今度は泣きそうな顔で笑った。
この顔はどう考えても作った顔だ。さっきまで、あれほど恐い顔をしていたのだから。こんなのが鈴香の双子の姉だとは思いなくない。
「うん…大丈夫…よ」
まだ演技は続行しているらしい。
気持ち悪い。この笑顔。
《──この男を自分のものにしたい……》
女の口から微かに聞こえた本当の気持ち、欲望。人間なら拾えない声であろうが、犬であるレオにはしっかりと聞こえた。
俺に惚れたのか?
それよりもこの気持ち悪い笑顔に耐えられない。
よく他のオス共はこの笑顔にやられるなぁ…。俺には考えられねぇ。
「無理に笑うな」
この言葉だけなら、優しい言葉にきこえる。だから、女が望むようなことをした。
それはポンポンと頭を撫でることだ。鈴香情報では泣きそうな顔をした女にはこうすると良いらしい。
「無理になんて笑ってないわ」
こちらをうっとりと見つめ、顔を赤くしている。
完全に恋に落ちたな。
「本当…に?」
もう少し、女の演技に付き合うことにした。
心配しているように優しく声をかける。
「う…ん。ねぇ、貴方の名前は何?」
「俺はレオ」
「レオ、本当は辛いの。悲しいの。だから…私を慰めて。」
辛い?悲しい?慰めろ?怒りで血が上るのを感じる。あれだけのことを鈴香にしておきながら?
食いしばった歯を隠すため口に手を当てる。
この女を見たくない。俺の胸に寄りかかる女が憎い。
─────この嫌悪感からこの女を自分がどれほど嫌っているのかを知った。