復讐
ついに…ついに復讐が!!復讐が始まりました!
「ねぇ、お願いがあるんだけどお姉ちゃんを誘惑してくれない?」
「ゆーわく?」
あまり良く分かっていないようで、ただ私の言葉を繰り返しただけである。
「うん。誘惑してお姉ちゃんをメロメロにして欲しいの。あ、あと私の彼氏役も宜しくね!」
あ。メロメロって若干死語かも。
「誘惑?彼氏役?なんかよく分からないけど、鈴香の頼みなら。それに楽しそうだし。」
にやりと口元を歪め、唇をペロリと舐めた。
レオの姫花に対する恨みも凄まじいものである。
よく考えて欲しい。私はレオという犬がいる。しかし姫花にはいない。
姫花にはいて、私にはいないではなく。
何故私に犬がいるのか。それは元々はレオは姫花の為に家に連れてこられたのである。
誕生日プレゼントとして。頭の良いレオは姫花には懐かなかった。姫花の危険オーラを察知したのであろう。それでも姫花は懐かれるように頑張った。まぁ、ろくでもない理由だが。
それは『動物から懐かれている私って更に可愛いじゃん。結構可愛い顔しているし、コイツ。とっても良い引き立てる道具を誕プレでもらったわぁ』だそうだ。
あまりにも懐かなかったため、ストレス解消の道具にしたらしい。よく隣の姫花の部屋からキャゥゥッ!とかキャンッ!!と鳴き声が聞こえると思ったら姫花がレオに暴力を振るっていたらしい。更に嫌われ、むしろ傷の手当てをしていた私に懐いた。
どうしてレオを助けなかったか?私だって我が身が一番である。我が身を犠牲にして犬を救うなんて物語でしかありえない。そこまで優しい性格ではない。それでも傷の手当てをされたことに大きな恩に感じたのかとても懐いた。
お姉ちゃんの犬なのに私には懐いて、お姉ちゃんには懐くどころか嫌われている。それが気にくわなかったらしい。「こんな駄犬いらない。アンタにあげるわ。」と言って私にくれた。それから私に懐くお姉ちゃんの犬から私に懐く“私の犬”に変わった。
お姉ちゃんを嫌いな私とレオ。
私がお姉ちゃんに復讐する事をレオが反対するはずがない。
「学校に帰ったらきっと姫花は落ち込んでいると思うから、励まして。そしてお姉ちゃんを惚れさせて。」
「完全に俺に惚れたら、本当はアイツが嫌いということを言う」
「そうそう!そして実はレオと私は付き合っていると言ってね」
2人は顔を見合わせ悪戯気に笑った。
「アイツを地獄に墜としてやろう」
それはそれは楽しそうに。言葉と表情がかみ合っていない。
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いつもより早く登校する。
吐く息はいつもより白い気がする。肌を刺すような冷気はスカートの中へ入りこみ、寒い。を超えて痛い。ハイソックスではなくてタイツを履いてくれば良かったなと後悔した。
それでもこれからする事を想像させ胸を躍らせ、あまり痛みも感じなくなった。リュックを机の上に置いた。新しい落書きは無いもののそれでも過去の落書きがびっしり書いてあり、机は汚い。
机の中に教科書を入れる。机の中にゴミが入っていない。いつもはゴミを捨ててから教科書を入れるのでその手間が要らないので楽である。
──────さぁ、そろそろ準備をするか。ICレコーダーをブレザーのポケットに入れた。
右ポケットに感じる重さにわくわくさせられた。
ふと時計を見ると、長い針は2を指していてそろそろ皆が登校してくる時間だと分かる。
いつもより足を早めて歩く。
勿論目指す場所は───────放送室である。
幸運な事に何故かうちの高校には放送室に鍵がかかっていない。だから職員室に行く必要がない。
マイクの所にICレコーダーを近づける。
スイッチオン!
『(あ、あんたいたんだ。シャーペン借りんね)
ばたん。
(そもそも此処、私の部屋なんだけど……)
ばたばたばたばた!
(ふざけんなよ!シャーシン入ってないじゃん!入れて起きなさいよブス!)
(ごめんなさい)
(全く使えないヤツ!)』
周りからザワザワと話し声が聞こえる。
「何これ?」
「この声聞いたことあるんだけど。誰だろう?」
「この女、こえぇぇ」
まだこの女は誰かを気付いていない。
『
(茅斗、一緒に帰ってもいいよね?)
(ああ)
(じゃ、帰ろ。鈴香)
(す…すずか!?)
(え?だめぇ?)
(駄目じゃない!)
(久しぶりに鈴香と帰れて嬉しいな。あ、ごめんね茅斗)
ちっ
(ああ…なんでこんな糞と帰らなきゃいけねぇんだよ。俺、可哀想)
(何で俺、お前とつき合ってたんだっけ?あぁお前から告白されたからか)
(告白したのは私からじゃない。貴方からよ)
(じゃ、バイバイ!茅斗、また明日ねぇ!)
(ああ)
(どぉ?元彼に罵られて。姫花は見てて超楽しかったよぉ。また見せてねぇ)』
「姫花?姫花って言った?」
「え?姫花ちゃんなの?これ!」
「姫花ってここまで性格が悪かったんだねぇ」
ばたばたばたばた!!
「ふざけんなよ!死ねよテメェ。姫花様の印象に傷どころじゃねぇよ?どうしてくれてんだよ!!」
ばんっと椅子を蹴った。
「ねぇ、お姉ちゃん知ってる?」
「あ?」
「スイッチオンにしたままなんだ」
スイッチを指差し笑顔で言う。
顔は真っ青になりいつでもうるうるな唇はパサパサと乾燥した。
今にでも倒れそうな顔をしたお姉ちゃんはこの場を逃げるように走り去った。