第3話
流石の2人もセオの仲裁にはハッとなったようで、申し訳なさそうにしつつも気を取り直す。
すぐさま獲物を捕獲するかのような鋭い眼光を宿すなり、魔物へ一気に距離を縮めたのはネクトだ。
大きな両手剣を携えているというのに全く重さを感じず、その足取りは至って軽い。
一気に距離を詰めようと迫り来るネクトに危機感を感じたのか、魔物は上空へ舞い上がりながら大きく羽ばたくと、無数の羽根が一瞬妖しい光を放つなり鋭い羽根の矢へと姿を変え、一斉にネクトへ向けて発射された。
おそらくは、蒼月の日によって体内に取り込まれた魔力によるものだろう。
ネクトは一瞬瞠目するも、何か妙案を思いついたのかすぐに冷静を取り戻す。
腰を低く落とし剣を構えれば、魔耀石に力が宿りその影響なのか彼の手にする刀身が鮮やかな緋へとその色を変えた。
──刹那。
ネクトに襲い掛かる羽根の矢を手にした剣を振るう事により弾き飛ばすが、それだけでは終わらない。
高熱を纏った刀身により、羽根の矢が一瞬にして炎に包まれると炎の矢へと姿を変えそれらは魔物の方へと弾き返したのだ。
まさか跳ね返されると思わなかったらしい魔物は小さく鳴き声を上げてからさらに飛翔して逃げようとするも、時すでに遅し。
自らが放った無数の矢が身体に突き刺さり、一気に炎は魔物の身体に燃え移ると魔物の身体を鮮やかな焔色に染め上げていく。
力を失った魔物はそのまま一直線に重力に引き寄せれれば、最後は無惨にも地面に激突した。
暫く僅かに痙攣していたものの、消し炭と化した魔物は次第にピクリとも動かなくなった。
「うわ、凄い…! 相変わらずネクトは強いなぁ」
純粋に尊敬と感心の念を込めて、目を丸くしながらネクトを見つめるセオ。
しかし、ネクトにとってこの程度は朝飯前なのか、特に驕る事も謙遜する事も無く平静を保ったまま。
「いや…この程度、何て事は無い。だが、向こうもそれなりに知能はあるようだ。先程も、明らかに連携した動きを見せていたし…」
「ああ、それは俺も思った。だったら、俺達も折角3人で組んでるんだし、協力した方がいいと思うんだけど…どうかな?」
キーゼとネクトを交互に見遣りつつ、おずおずと控え目にそう提案するのはセオだ。
本来ならば連携するのがセオリーではあるものの、問題は自分以外の2人が犬猿の仲だという事だ。
下手をすれば、単独行動より戦力が落ちる可能性も考えられる。
しかし、セオのそんな懸念をよそに、2人の返答はあっけらかんとしたものであった。
「まぁぶっちゃけ1人で戦うのめんどいし、協力するってか2人に任せるわ、あと宜しくー」
「…キーゼの言う協力は、何か違うような気がするのだが…兎も角、協力するのは賛成だ」
2人共、セオの意見には賛同的な態度を示してくれたようだ。
…が、具体的に何をどう協力するか、呑気に話し合っている暇を与えてはくれない。
残った魔物達が一斉に一同に向かって襲い掛かってきたからだ。
「くっ…!」
鋭いくちばしでセオの頭を突き刺そうと突進をかけてくる魔物。
何とか横に回避して体勢を立て直し、カウンターを放とうと剣を握り直し斜めに斬り上げるも、魔物の翼を掠めるだけに終わる。
警戒心を深めた魔物は羽ばたいて空高く舞い上がろうとする。
上空に逃げてしまえば、翼を持たないセオが追撃する術は無くなってしまうからだ。
悔しそうに唇を噛み締めるセオの視界に映り込んだのは、予期せぬ事態。
不意に魔物の頭上から凄まじい突風が吹き荒れ、魔物のバランスを崩したのだ。
「風…? これはどういう…?」
「おーいセオ、呆けてないでさっさと攻撃しろって、早くしないと逃げられるぞー」
目を見遣るセオに背後から声をかけるのは、のほほんとした顔つきで死神鎌を構えるキーゼ。
おそらくは、先程の突風は彼の仕業であろう。
すぐに気を取り直して地面を強く蹴り上げ飛翔。
刹那、手にした剣にエネルギーが注ぎ込まれるような感覚を覚え、視線だけ刃へと向ければ仄かに赤い光に包まれていて。
ネクトの魔耀石によるものであろう事をすぐさま察したセオは心の中でネクトに感謝の言葉を述べつつ、そのまま高く振り上げた刃を魔物の頭上目掛けて振り下ろした。
刃は容赦なく魔物を一刀両断し、無惨にも斬り伏せられた魔物はそのまま地面に墜落していった。
それとは対照的に、軽やかに地上へと着地するセオ。




