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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第6章 深淵の少女と絶望の青年
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第9話

「え…? あ、うん、俺なら大丈夫…だから、気にしないでくれ」


そう言って、無理やり作り笑いを浮かべるセオ。

そのぎこちない笑みが、かえって痛々しくも見えて。

彼が一同に気を遣わせるまいと強がっているのは、最早明白であった。


「…それ、本当に言ってる? セオって、お人好しな上に自分の悩みを隠して話してくれない所ある…」


「何だよセオ、どーかしたのか? 何かあったのかよ?」


今までずっと気絶していた為、事情を何一つ知らないユトナがきょとんと首を傾げながらそう言い放つ。

セオの態度、そして辺りを包み込む神妙な空気を感じ取れば色々と察するものはあるだろうに…そこで全く空気を読まずに呑気に話し掛けるのは、ある意味ユトナらしいと言うべきか。


「ちょ…! 何でそこでそういう事聞いちゃうんだよっ! 空気読めないにも程があるでしょ!?」


「はぁ? ンな事言ったって、知らねーから聞いたのに何が悪ぃんだよ?」


「だから、そこは色々察してよ…!」


「知らねーよそんなもん」


いたたまれなくなったのか、慌てて突っ込みを入れつつ嗜めようとするシノア。

しかし、ユトナと言えば何故自分が非難の言葉を浴びせられなければならないのか、検討もつかない様子。


何時もと変わらぬ、双子の賑やかなやり取り。

そんな会話を遠巻きに眺めてほんの僅かだけ心が和んだけれど、胸の奥にぽっかりと空いてしまった大きな穴はそう簡単に埋められそうもない。


「ごめん…ユトナも元気そうだし、俺もちょっと席外していいかい…? 1人になって、考えを整理したいんだ…色んな事」


「……! 勿論だよ、そんな謝らなくて大丈夫なのに…。僕の方こそごめんね、いろいろ付き合わせちゃって。もし何かあったら、遠慮なく相談してよ?」


「……うん、ありがとう…それじゃ」


ハッとなってセオへと視線をずらすと、不安そうに瞳を揺らしつつ今はそっとしておくのが得策だろうと判断したらしく、セオの提案をあっさり了承するシノア。

セオは絞り出すようにか細い声でそれだけ言い捨てると、その場から逃げ出すように駆け出していってしまった。


1人減り、2人減り。気が付けば部屋に残されたのはシノアとユトナ、そしてセルネの3人。

話を切り出す切っ掛けが欲しかったのか、わざとらしくコホン、と咳払いをしてからおもむろにセルネがこう切り出した。


「暫くは此処で養生しても構わぬが、此処は妾の部屋なのだから歩ける程に回復したらさっさと出て行って貰うからな。そもそも、この妾の部屋を貸してやってと言う事、光栄に思うが良い」


「あ…はいっ、分かってますっ。セルネ様には、本当に色々とお世話になりっぱなしになってしまって…」


「…フン、まぁ良い。妾としても乗りかかった船であったからのう」


米搗きバッタのようにぺこぺこ頭を何度も下げるシノアを尻目に、セルネの思考は魔耀石の事で支配される。

何故、ユトナの体内で眠っていたのか…そして、魂と深く結びついて強大な力を秘めていたのか。

そもそも、魔耀石は何処で生み出され、そして何の為にこの世界にあるのか…改めて思えば、分からない事だらけで何一つ解決などしていない。


調べなければならない事案は山ほどありそうだ…セルネはそこで一旦思考を中断させると、小さく溜め息を零してみせた。



◆◇◆



「……はぁ…」


帰路について、一体何度目の溜め息を吐いた事だろう。

何とか気持ちを明るい方へ、前向きな方へ切り替えようとやきもきしても、結局元へ戻ってしまう。


東の空から昇った柔らかな日差しがセオの瞳を刺激する。

そういえば、あれから何だかんだあって一晩越えてしまったのか…そんな事をぼんやり考えていると、セオの眼前に何時もの見慣れた宿舎が聳え立った。


自室の前へとやってくると、ゆっくりとした動作で扉を開いた。

セオの視界に飛び込んできたのは、シンと静まり返った何時もの見慣れた部屋…の筈なのに。


まるで自分の部屋なのにそうとは思えないような…世界から切り離された、無機質な空間のように思えて。

冷え切った空間が、セオの胸に突き刺さるようで。


嗚呼、いつの間に慣れてしまったのだろう…扉を開ければ、あの人が自分の帰りを待っていてくれた事に。

不意に浮かぶのは、彼女の向日葵のような鮮やかで力強い笑顔。

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