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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第6章 深淵の少女と絶望の青年
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第8話

ユトナから背を向け、素っ気ない態度のロゼルタ。

しかし、それでも尚食い下がるユトナ。


「え~っそうか? 何か妙にリアルだったんだよなぁ…。オレの心の奥まで届いてきたっつーか」


「気のせいなのではないですか? 貴方の事ですから、居眠りでもして寝ぼけていたのではないかと」


「んーそうなのか……って、今さりげなくオレの事馬鹿にしただろ?」


「いえ、馬鹿にしたのではなく嫌味を言っただけですよ?」


「ちょ、おいっ! それ大して変わってねーし余計ムカつくっ!」


「全く…寝起きだというのにギャーギャー煩いですね。…ですが、それだけ元気があるのなら大丈夫でしょう」


沸点が低く、すぐにカッとなるのは相変わらず。

ロゼルタの安い挑発に乗って、ベッドから身を乗りださんばかりの勢いで食って掛かるユトナ。


──そうだ、それでいい。

すぐムキになって反論する所も、感情を隠す事なく露にするのも…彼女の長所であり、短所でもある。


けれど、ようやく彼女が戻ってきてくれたような気がして。

こんな他愛ない事でも、自分の手のひらから擦り抜けそうになってしまったのを目の当たりにすれば、何気ない日常がどんなに掛け替えのないものであるかを痛感させられるから。


相変わらず皆から背を向けるように壁の方を向いて佇んでいた為、ロゼルタの表情を窺い知る事は誰にも叶わなかった。

…だが、僅かに口元が吊り上がっていたのを、セルネだけは目ざとく見抜いていた。


「あの…若様、ありがとうございました。それから…その、先程はとんだ無礼を働いてしまい…申し訳ありません」


ようやく落ち着いてきたのか、ユトナからゆっくり離れたシノアの瞳が捉えるのは、ロゼルタの後ろ姿。

シノアの行動がよっぽど意外だったのか、思わず振り返ればその表情は些か驚いたもの。


しかし、すぐにいつもの飄々とした仮面を被ると、取るに足らないとでも言いたげにこう返した。


「いえ…あれは私の贖罪のようなものですから。それに、貴方があんなに怒るのも尤もでしょう。私が同じ立場でも、同じ事をしていたでしょうし」


「ふむ…ユトナも経過は順調なようだし、峠は越えたようじゃな。とはいえ、暫くは安静にしているが良い。じゃが、お主を1人にしておると些か危なっかしい…シノア、暫くメイドの仕事は休んで良いから、ユトナに付き添うのじゃぞ」


「わ、分かりました。…ありがとうございます、セルネ様」


まさか、そこまでこの双子に対して気配りを見せるとは。

セルネの素っ気ないながらも確かな優しさを感じで、シノアの顔にも自然に嬉しさの色が浮かんでいた。


「…フン、別にお主に礼を言われる筋合いは無いわ。此処で放っておいては目覚めが悪いだけじゃ」


まさか礼を言われるとは思いもよらなかったセルネは一瞬目を見開いてから、素っ気なくそう返すとプイッとそっぽを向いてしまった。

だが、それはただの照れ隠し。

むっと口を尖らせるセルネの頬が僅かに赤らんでいる事に気付く者は居なかった。


「さて…私は用がありますので、この辺で失礼しますよ」


突如そう切り出すのは、ロゼルタだ。

その言葉に、一同の視線は一気に彼に注がれる。


「何じゃ、随分と忙しないのう。ユトナが無事で、安心したかえ?」

「私は貴方達と違って、成さねばならぬ事が山ほどありますからね。それに、これ以上此処にいる必要はありませんから」


セルネのからかうような口振りをさらりと躱しつつ、酷く機械的で淡々としたロゼルタの声が辺りに響き渡る。

そして、一同の応答も待たずにさっさとその場から立ち去ってしまった。


「全く…相変わらず掴めぬ男じゃ」


やれやれ、と溜め息を零すセルネを尻目に、シノアはふと、セオへと視線をずらした。

先程から、ずっと俯いたまま一言も発しないセオの事を心配に思ったからだ。


「セオ…その、大丈夫? えーと…あの、女の人の事…」


レネードと面識がある訳ではない故、レネードとセオの間にどんな絆があったかは知る由もない。

けれど、セオの落胆の理由がレネードにある事は、安易に想像が出来た。


すると、まさか話し掛けられるとは思っていなかったらしいセオはハッとなって反射的に顔を上げると、一瞬戸惑いと絶望がない交ぜになったような表情を浮かべた。

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