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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第6章 深淵の少女と絶望の青年
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第5話

何処までも、無限に広がる空間。

ただただ、無が広がるばかり。

足元には透き通った水が張られているが、自然と冷たさは感じない。


ロゼルタは今まで見たこともない光景に呆気に取られつつも、ユトナの姿を探して視線を彷徨わせる。

しかし、無がひたすらロゼルタを包み込むばかりで、ユトナどころか何もありはしなかった。

まるで、無限をたゆたうような…不思議な感覚に襲われる。


「ユトナ…何処にいるのです? 此処が貴方の精神世界というのならば、貴方が居なければおかしいではないですか」


声を張り上げてみるも、その声は辺りに虚しくこだまするだけ。

まさか本当に、彼女の魂は消えてしまったのか…思いたくはない不安がロゼルタの胸を過る。


しかし、まだ諦めるのは早いと気を取り直し、ユトナの姿を求めて彷徨い歩く。

見渡す限り広がる虚無の空間に心が折れそうになるものの、必死に自分を奮い立たせた。


「全く…一国の王子であるこの私に此処まで手間を掛けさせるとは…無能な従者もいたものですね。もし見つけたら、小一時間説教するくらいでは済みませんよ。さて、果たして何処にいるのやら…」


「あら…まさかそちらから迎えがあるとは思いませんでしたわ」


「……っ!?」


独り言のつもりが予想外に反応があった為、思わず目を見開き声のする方へ視線をずらすロゼルタ。

この声が聞いたことのあるもの──引いてはユトナのものであれば何の問題もないのだが、残念な事に女性のものではあるものの、その声色はユトナのものとは似ても似つかないものであった。


今まで、ロゼルタ以外誰もいなかったというのに。

彼の視線の先には、いつの間にかふらりと姿を現したとした思えない程、唐突に映り込む女性の姿。

腰辺りまである長い髪をなびかせる、何処か儚げで深い闇を感じさせる不思議な雰囲気を纏った女性。


「貴方は一体何者です…? 何故、ユトナの精神世界に彼女以外の人間がいるのです?」


警戒心を一層強めるロゼルタに対し、女性はふんわりと甘い微笑みを称えるばかり。


「そんなに警戒なさらないで? わたくしはずっと、彼女の魂の中にいたのですから」



「仰っている意味が、よく分からないのですが…。結局貴方は何者なのかという問いには答えてらっしゃらないでしょう?」


上手い具合にはぐらかされてしまったと思ったのか、ロゼルタは一層険しい表情を浮かべる。

しかし、謎の女性の反応は彼の予想を大きく覆すものであった。


「わたくしは魂の欠片。ユトナの中に眠っていた魔耀石に宿っていましたの。貴方達が呼んでいる、蒼月の日に…」


「……? それは一体どういう…? やはり、ユトナの中には魔耀石が宿っていましたか…」


オブセシオンに狙われたのもそれが原因だろうというのは安易に推測出来たし、何よりユトナは一度謎の暴走を起こした事もあり、彼女に何かあるのは明白であった。


「おそらく、ユトナ自身も気付いてはいませんわね…。彼女は適性者、わたくしとしては期待しておりましたし…」


「適性者…? 魔耀石を宿す事が出来るからですか? …それに貴方は、ユトナを使って何かを企んでいたのです?」


女性の口振りに敏感に反応し、ナイフのように鋭い視線をぶつけるロゼルタ。

しかし、女性はふんわりと穏やかな態度を崩そうとはしない。


「企んでいるなんて…人聞きの悪い。わたくしにはどうしても叶えたい願いがあるだけですわ。蒼月の日も、その一つの過程に過ぎませんもの。…ふふ、少しお喋りが過ぎましたわね」


女性の眼差しが何処か遠くにある何かを見つめているように見えたのは、気のせいであろうか。

そして、彼女の言葉が真実ならば、蒼月の日には何か重要な裏が…目的があるという事。


しかし、今のロゼルタにはそんな事、どうでも良かった。


「事情は知りませんが…ともかくユトナに害を成さないようならば、それで構いません。ところで、ユトナが何処にいるか…貴方ならご存知では?」


「あら、そういえば貴方はユトナの魂を呼び起こしにいらして下さったのですよね? わたくしも、ユトナの事は気に入っておりましたから…こうして誰かが呼び掛けにいらして下さるのをずっと待っておりましたわ。ユトナの魂の欠片はほんの僅かなものですけれど…まだ、小さいながらも必死に伊吹を残しておりますわ。貴方が呼び掛けて下さるなら、もしや…」

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