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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第5章 蒼月の日
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第15話

「…なぁ、オマエが相手だから本当の事話すけど…オレと攫われたシノアは双子で、いつもは入れ替わってるけど、今日だけは…」


「…違う! いい加減な事を言わないで下さい! 貴方は今回の件とは無関係…そうでなければならないんです…!」


ユトナの必死の告白をあえて遮る様に、言葉を重ねるロゼルタ。

しかも、何時も飄々として余裕さえ湛えている彼にしては珍しく、切羽詰まった様子で声を荒げる。

彼の口振りから、ユトナの事も何もかも知っているにも関わらず、あえてその現実から目を背けているような…そして、何か重大な事を胸の内に秘めているであろう事を、ユトナもうすうす感付いていた。

でなければ、彼の不審な言動や態度は説明できないから。


「……、やっぱ様子おかしいぞ? 何かオレ達に隠してる事あるんじゃねーか? そもそも、オレ達の事こうして邪魔してるのも、何か理由ありそうだし…」


「いえ、私は何も隠してなどいません。言いがかりは止めて頂けますか? …兎も角、貴方達は早い所この件から手を引いて下さい。首を突っ込んだ所で、後悔するだけですよ」


「オマエにしちゃ、下手な嘘だな。つーか、シノアを放って黙って引き下がれるかってんだよ!」


やはり、ロゼルタが何かを隠しているのは明白。

一向に真実から目を逸らし、有耶無耶にしようとするロゼルタの態度に苛立ちを募らせていったようで、ユトナの口振りも些か荒々しいものへと変貌してゆく。


勢いのままロゼルタに飛び掛かろうとするユトナであるが、それより先にロゼルタが槍を大きく横一線に薙ぎ払った為、ユトナは方向転換せざるを得なくなり、地面を強く蹴り上げ真上に高々と飛翔。

壁を何度か蹴り上げながら、元居た場所へと着地する。


「くっそ、王子の癖につえーなアイツ」


「外見は只の優男じゃが、油断すると痛い目を見るぞ……っ!? 何じゃ…? 身体の奥がざわめく…まさか…!?」


額を伝う汗を拭いつつ、舌打ちをしながら苦々しい表情を浮かべるユトナ。

そんなユトナに助言を送るセルネであったが、ふと自らの身に降り注ぐ異変に思わず眉をしかめた。


この、身体の奥から魔力が湧き上がるような…ざわめくようなこの感覚は何だというのだろう。

そこでようやく、思い当たる節が脳裏を過ぎったらしくハッと目を見開くセルネ。


「そうじゃ…すっかり忘れておったが、今日は蒼月の日じゃった…! とすると、このざわめきもそのせいか」


「蒼月の日? ああ、シノアもンな事言ってたな。けど、それが何だってんだよ?」


「全く…お主は本当に楽天的というべきか、無知は罪と言うべきか…。今日は月が蒼く染まる日、そして全ての生物の魔力が高まりそれによって様々な弊害が起こる日じゃ」


現在一同は地下に居る為外の様子を推し量る事しか出来ないが、おそらく外は蒼い月の光により妖しい蒼の光で染まっている事だろう。

色々と面倒な事になった…と人知れず辟易するセルネをよそに、ロゼルタだけは思いつめたような、険しい表情を浮かべていた。


「今夜だけ…蒼月の日さえ凌ぐ事が出来れば…!」


無意識のうちにロゼルタの口から零れ落ちた声はあまりに小さなものであった為、ユトナとセルネの耳に届く事は無かった。

そして、すぐさま気持ちを切り替えると、再び槍の切っ先をユトナとセルネに向ける。


互いに睨み合い、一歩も譲らず激しい視線がぶつかる。

譲れぬ思いが交錯し、力づくでも自分の意志を貫いてみせる──…互いに心の奥で固く誓った、まさにその時であった。


「…成程、これはまんまと一杯食わされたものだ。やはり貴様は信頼置けぬ」


「──!」


不意に何処かからか男性の声が響き渡り、その声が耳に飛来するなりロゼルタの表情が一変する。

瞳から色が失われ、額に脂汗が浮かぶ。明らかに動揺している事は、彼の表情から安易に推測する事が出来た。


…と、その刹那。

ユトナの足元から円形に黒い光が放たれたかと思えば、その円から無数の漆黒の影の手が伸びて来てユトナを捉えんと襲い掛かってきたのだ。

普段なら猿のように身軽でそう簡単には後れを取らないユトナであったが、あまりにも不意打ち且つ意外過ぎて回避動作が一瞬遅れてしまう。

そして、その一瞬の隙を見逃すものかと言わんばかりに黒い影の手は一斉にユトナに襲い掛かり、あっという間に彼女を捕縛してしまった。

あまりの的確さ、そして迅速さにユトナは成す術も無く黒い影に絡め取られてしまい、もがけばもがく程拘束は強くなるばかり。


「んがっ、何なんだよコレ!? ふざけんなっつーの! オイコラロゼルタ、オマエの仕業かよ!?」


最早一国の王子に対する物言いでは無いが、最早今のユトナに言葉遣いを気に掛ける余裕など無いようだ。

だが、苦しげに顔を歪めて真っ青な顔つきのロゼルタは、力なく首を横に振るばかり。


「…全く、品の無い奴だ…まるで猿だな。手こずらせたが、やはり幸運の女神はこの私に微笑んでいるようだな…」


何処か他者を蔑むような、冷たく一切の温かみを感じさせない男性の声。

すると、闇の中から現れる一つの影。

何時の間に此処へやってきたのか、どうやって此処に辿り着いたのか…気配を全く感じさせなかった為、あまりの神出鬼没ぶりに驚きを隠せない一同。

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