第12話
「全く…お主はそんな事も知らぬのか。よくそれで、騎士などやってられるのう。宮廷魔術師とは、国に仕えそれなりの地位と権力を与えられた名のある魔術師の事じゃ。ちなみに、妾も宮廷魔術師であるぞよ」
…若干、自惚れというか自画自賛が入っている気がしなくもないが。
それでも大体は理解出来たようで、ユトナはふむふむ、と頷くだけで特に突っ込みは入れないようであったが。
「…で、宮廷魔術師ってのは何処に居て何人くらいいんだよ?」
「皆、おそらく城内の何処かにおる筈じゃ。人数もさほど多くは無いし、虱潰しに探せば何とかなるじゃろ」
セルネにとって、宮廷魔術師は同僚のようなもの。
勝手知ったるといった様子で、慣れた様子で城内の廊下をひた走るセルネと、そんな彼女を必死に追いかけるユトナ。
普段限られた者しか足を踏み入れ無いような場所に差し掛かり、ユトナは物珍しそうに辺りをキョロキョロ見渡してみせた。
「へぇ~、何か小奇麗だなぁ此処。つーかこんなトコ、今まで来た事もねーぜ」
「来ないのも無理は無いじゃろう。何せ、騎士が容易に足を踏み入れられる場所ではないかの。…そこにあるのが、宮廷魔術師の自室じゃ」
若干呆れたような冷ややかな眼差しでユトナを見遣りつつ、ようやく目的の場所に辿り着いたようでとある物々しい雰囲気さえ纏った扉を指差してみせる。
どうやら彼女が指さした先に、宮廷魔術師の自室があるのだろう。
ずかずかと大股でそちらに歩み寄り、扉をノックしようと徐に手を振り翳した、まさにその刹那──…
「……おや、セルネと…御付きのメイドですか? 珍しいですね、貴方が他の宮廷魔術師の元を訪れるなんて」
不意に背後から降り注ぐ声に、予想だにしていなかった為にビクッと盛大に肩をびくつかせるユトナとセルネ。
反射的に声のする方へと振り返れば、そこには青紫色の艶やかな長い髪をたなびかせる、オッドアイの青年の姿があった。
「ほう…これはこれは、若君がこんな所に御出でとは、珍しい事もあったものじゃのう」
ナイフのように鋭い視線が、オッドアイの青年──ロゼルタを射抜く。
ゾクリと殺気さえ感じさせるような視線であるにも関わらず、ロゼルタと言えば相変わらず口元に薄く笑みを浮かべるのみ。
「そんな睨まないで下さいよ、どうやら私はとことん貴方に嫌われているようですねぇ。貴方達こそ、此処で何をしているんです?」
若干嫌味を込めた切り返しをしつつ、確信を突くかのように問いを被せるロゼルタ。
ユトナとセルネ、交互を見遣るロゼルタの眼差しに、ユトナは蛇に睨まれたカエルのようにその場に硬直してしまう。
(や、やべぇ…! つーか何でコイツが此処にいんだよ!? オレがメイドになってるってバレたら後々めんどくさい事になりそうだし…とりあえず何とか誤魔化さねーと)
冷や汗が背中を伝うのを感じつつ、何とかこの場をやり過ごそうとなるべくロゼルタと視線を合わせぬように顔を逸らして俯くユトナ。
一方、ユトナの正体に気づいているのかいないのか、特に彼女に関心を示す様子も無く再びセルネへと視線を投げかけた。
「否…大した用件では無いが、少々宮廷魔術師に用があってな」
「へぇ…自分以外の魔術師にはまるで興味を示さない貴方が、珍しいですね。…その用件というのは…貴方が1人の騎士を探している事と、何か関係があるのです?」
「……!? お主…一体何を企んでおるつもりじゃ…!?」
事も無げに放たれたロゼルタの言葉を聞くなり、表情を一変させ険しい表情を浮かべるセルネ。
張り詰めた空気が辺りを支配する中、場違いなくらい飄々としたロゼルタの声が辺りに響き渡った。
「だから、そんな怖い目で睨まないで下さいよ。貴方達が、城中駆けずり回って騎士を探しているのを偶然見かけただけなんですから、何も企んでいませんて」
「……、ふむ、仮にそうだとして、それが一体どうしたと言うのじゃ? お主には関係の無い事じゃろう」
「そうですねぇ…その騎士の行方、私が知っている…と言ったら?」