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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第5章 蒼月の日
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第7話

暫く茫然としていた青年であったが、その表情は次第に狂気に歪んでゆく。

そして、まるで狂ったように乾いた笑みを零す青年の表情は、何処か鬼気迫ったような尋常ならざるものを嫌でも感じさせた。


「……、そうか…ならば仕方がない。元より、そう簡単に事が運ぶとは思ってはおらん」


吐き捨てるように言い切るなり、青年の双眸が妖しく光る。

まるで見た者全てを絡み取り、惑わすような…不気味で奇妙な力を宿した瞳。


その瞳を見てはいけない、脳裏で本能がそう警鐘を鳴らすものの、何故かその双眸から目を逸らす事が出来ない。

妖しい光に囚われたようにその場から微動だにしないレネードであったが、次第に意識が遠のいてゆく。

このままではいけない、どうにかして逃げなくては…心の何処かで必死に足掻くものの、身体が言う事を全く聞いてくれない。

薄らぐ意識、霞む視界。そして最後には、意識を手放してしまった。


その場に力なく崩れ落ちるレネードを、軽々と抱き抱えて支える魔術師の青年。

彼は眉一つ動かさず、全て想定通りとでも言いたげに冷静な態度を崩そうとはしない。


それから間髪入れずに、慣れた様子で呪文の詠唱を始める。

魔力によって生み出された風が彼の髪を撫でてゆき、彼の足元には淡く光を放つ魔法陣が描かれる。


全ては計画通り──そう心の中で呟きほくそ笑む青年。

しかし、彼の目論みはほんの僅かな所から綻びが生まれた。


「レネードさんっ! あんた一体、レネードさんに何をしたんだ!?」


焦りと怒りを孕んだ叫び声が、辺りにこだまする。

鬱陶しそうに苛立った視線を声がする方へと向ければ、そこには何時もの穏やかな表情は見る影も無く鋭い視線で青年を睨み付けるセオの姿。

どうやら急いで此処までやってきたのだろう、額には汗が浮かび肩が大きく上下に揺れていた。


「……貴様には関係の無い事だ」


「関係あるとか無いとか、そういう問題じゃないだろ。…やっぱり、鍛冶屋行くの止めてレネードさんの後追いかけて正解だったよ…。虫の知らせって本当にあるんだな」


まるで虫けらでも見下ろすような冷ややかな眼差しを注ぐ青年に全く怯む様子無く、むしろキッと睨み返すセオ。

どうやらレネードと別れてからも奇妙な不安感を拭う事が出来ず、虫の知らせに従い彼女を追いかける事にしたのだろう。


鋭い視線がぶつかり、張り詰めた空気が辺りを支配する。

すると、何か不思議な感覚を覚えたらしいセオが思わず顔をしかめた。

そう──それは…言うなれば、既視感というべきものか。


「……! 思い出した…! 何処かで見た事あると思ったら、あんた宮廷魔術師じゃないのか…? 名前は確か…そうだ、オブセシオン、だっけ…?」


ようやくもやもやしていた奇妙な感覚を払いのけ、思わず声を荒げるセオ。

一方、自分を知るセオの存在がよっぽど意外だったのかそれとも不愉快だったのか、眉間に深々と皺を刻み込ませる。


「何故私の名を知っている…? 成程、どうやら騎士か。だが、貴様如きに私の邪魔はさせぬ…!」


怒りに震える青年──オブセシオンの双眸が狂気に歪む。

片手を眼前に翳すなり、手のひらから鞭のようにしなやかでうねりを上げる紫電が放たれたのだ。

それは攻撃対象であるセオに向かって、空気を切り裂きながら真っ直ぐ向かってゆく。


一方で、まさか話も済んでいないというのに攻撃を仕掛けられるとは露にも思っていなかったセオは、一瞬ではあるものの回避動作が遅れてしまう。

刹那のやり取りで生死を分ける戦いの世界で、ほんの一瞬が命取りになる事をセオも分からない筈も無く。

回避は不可能と判断し咄嗟に防御態勢を取るも、紫電はセオの右肩を激しく強打する。


「……? あれ? 傷が……っ!? ぐあああぁぁっ!」


反射的に強打した箇所へ視線をずらすも、まさに無傷といってもよい程。

一体今の紫電は何だったのだろう…? と疑問に思うより早く、右肩から悶え苦しむ程の凄まじい激痛が迸った。


激痛はあっという間に全身に広がり、その場に存在するだけでも耐え難い苦痛がセオに襲い掛かる。

あまりの痛みに身体をくの字に曲げてその場にうずくまり、全身から脂汗が噴き出してきた。


「な、にを…?」


「外傷は無いから安心するがいい。その分、痛覚を刺激し凄まじい痛みが襲い掛かるであろうがな。…最後に、一つ忠告をしておいてやる。私達に関わるな。元来、貴様は部外者なのだから」


「ど、どういう、意味……あぐっ!」


幾ら傷を負う事は無くとも、凄まじい激痛というのはある意味傷を負うより恐ろしいものだ。

それをあえて、強い恨みを持っている訳でも無いセオに事も無げに使う所からも、オブセシオンの奥に秘められた残虐さを映し出していた。


オブセシオンはセオを気遣う素振りも無く吐き捨てるように言い捨てれば、冷淡な眼差しでただただ彼を見下ろすばかり。

しかしそれすらも無駄な時間と判断したらしく、セオから視線を外すと中断していた魔術を再開するべく再び呪文の詠唱を始めた。

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