第16話
何となく気まずくなったのと話題も無かったのとで、お互いに口を噤みセオの足音ばかりが辺りに響き渡る。
長い廊下を抜けて中庭を歩いている時、ふと何か思い出したらしいレネードが声を上げた。
「…あ、セオ君…そういえば聞きたい事があったの」
「聞きたい事…? 何だい?」
自分を見上げてくるレネードの双眸を正面から捉えつつ、きょとんと首を傾げるセオ。
「セオ君は…知ってる? あたし、コレを見たら急に頭痛に襲われて…もしかしたら、あたしの記憶に何か関連してるんじゃないかと思って」
最初にそう断ってから、セオに問い掛けるレネード。
それは、先程レネードが目にしたとあるものであった。
彼女の頭痛の原因と思われるもの。
一方、レネードの話を聞くなりセオはそんな事か、とでも言わんばかりの口調で、こう答えたのであった。
「ああ、それなら知ってるよ。でも、それとレネードさんとどういう関係があるんだろうね?
確か…」
レネードの失われた記憶を取り戻す鍵になるかどうかは分からない。
けれど、少しでも彼女の役に立てるのならば。
そう思い、セオは自分が知っている事をレネードに話して聞かせた。
◆◇◆
──セオやレネードとは、場所を別にして。
此処が何処なのか…それは定かでは無く、締め切られた部屋らしき所は外からの光を完全に遮断している為辺りは真っ暗だ。
薄暗い空間の中、灯された蝋燭だけが不気味に揺らめく。
そんな中、蝋燭の僅かな明かりが、一つの影を映し出していた。
「フフ、フフフフ…。見つけた…ようやく見つけたぞ…!」
蝋燭の明かりだけではその人影の表情まで捉える事は出来なかったが、呟かれた言葉からはその人物が少なからず気持ちを高揚させている事を示唆していた。
空気がざわめく。張り詰めた空気は、辺りにピリピリと緊張感を与える。
…と同時に、凄まじい程の魔力がその人影から溢れていた。
「幸いにも、蒼月の日まであと僅か…。これで我が悲願は果たされるのだ…!」
狂喜を押し隠すかのように抑圧された声が辺りに響き渡る。
それは誰に聞こえるでも無く、緊迫した空気に溶け込んでいった。