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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第4章 魔耀石の力
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第14話

「さてと…ゆっくり休んだし、俺はそろそろ寄宿舎に戻ろうかな」


「え、セオ君大丈夫なの? そんな急がなくてもいいじゃない」


「うん、俺ならもう大丈夫だよ。元々、そんなに疲労してた訳でも怪我した訳でも無いんだしさ」


ふと柱にかけられている時計に目をやってから、ポツリとそう呟くセオ。

すると、右に倣えと言わんばかりにユトナも口を挟んできた。


「何だよーもう戻んのかよ? だったらオレも帰ろっかな~? もう元気だし」


「駄目だよ、ユトナはまだ休んでないと。あれだけの事があったんだから、無茶は禁物だろ」


「セオの言う通りだよ。全くもう…ちょっと元気になったからって、ユトナはすぐ調子に乗るんだから。体力が回復するまで、僕がずっと此処で見張りしてるんだから勝手に抜け出しちゃ駄目だよ?」


セオとシノアに完膚なきまでに叩きのめされ、流石のユトナも従うより他無かったらしい。

不満そうに頬を膨らませてむくれつつも、


「ちぇー、何だよ2人してオレの事責めてさ。わーったよ、休んでりゃいいんだろ休んでりゃーさ」


「そうそう、ユトナにしては珍しく聞き分けがいいんだね」


まるで子供を叱り付ける母親のような口調で言葉を返した後、満足そうに笑みを浮かべるシノア。

ユトナにはお目付け役であるシノアもいるし、此処はシノアに任せればいいだろう…そう判断したらしいセオは2人に軽く手を振りながら、


「それじゃ、俺はこれで…、じゃあまたな」


「…あ、ちょっと待ってよセオ君、あたしも帰る~! じゃあねー2人共。…あ、ユトナちゃん、今度ゆっくりお話しでもしましょうね」


さっさと部屋を後にするセオを見るなり慌てて彼の背中を追い掛けつつ、シノアとユトナに軽く会釈をしてからその場を立ち去るレネード。

そんな2人の背中を、シノアとユトナは微笑ましく見送っていった。



◆◇◆



セオがレネードに伴われて医務室を後にして暫くしてから。

ずっと大人しく休んでいたユトナであったが、元来の性格故じっとしているのも最早限界だったのだろう、遂にはがばっとベッドから起き上がった。


「…ダメだ、もー我慢できねー…。元気なのにじっとなんてしてらんねーよ、ちょっと散歩してくる」


「え、ちょっ!? 何言ってるのさ、何の為にユトナが此処で休んでると思ってるの? それなら僕もついていくよ」


「いいよ別に、オマエはついてこなくても。オマエがいると余計息が詰まるっつの」


「何その、いかにも人を邪魔にしてるような言い振りは…全くもう、それだけ元気があれば多少なら出歩くのも大丈夫かもね。いい、ほんのちょっと、この辺出歩くだけだよ? ちょっとでも体調の異変を感じたら、すぐに戻ってきてね?」


「分かってるって、シノアは相変わらず心配性だよな。じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」



いきなりの提案に目を丸くするなり断固反対の構えを見てるシノア。

しかし、暖簾に腕押し馬の耳に念仏、ユトナがはいそうですかと納得する筈もなく。

これだけ元気ならば、多少は出歩いても大丈夫だろうとシノアも判断したのだろう。だが、一応念を押しておく事は忘れない。


シノアの許可に待ってましたと言わんばかりにニカッと満面の笑みを浮かべると、ベッドから飛び起きるとそのまま軽やかな足取りで医務室から出ていってしまった。

…のだが。


医務室の扉を勢いよく開けて飛び出したと同時に、丁度廊下から医務室に入ろうとした人物と危うく正面衝突しそうになる。

ユトナだけでなく、相手の反射神経もなかなかのものですんでの所でぶつかるのは免れたようだが。


「うおっ、あぶねー…って、キーゼとネクトじゃねーか。どうかしたのか?」


目を丸くして驚くのはユトナだけでなく、ぶつかりそうになったキーゼとネクトも同じ事。

2人共、ユトナを頭の天辺から爪先までまじまじと凝視した後、若干の呆れを孕んだ声でこう返した。


「どうって…見ての通り、シノアの様子見に来たんだよ」


「…だが、その様子では大丈夫そうだな。元気そうで何よりだ」


2人の返答がよっぽど意外だったのか、きょとんとするユトナ。

しかし、次第に嬉しそうにへらっと底抜けに明るい笑みを浮かべた。


「オレの様子を…? へへっ、ありがとな」


心配してくれる仲間がいる。

それだけで、ユトナの心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「あんな事があって、気持ちの整理をつけるのも大変だろうが…もし、何かあれば自分が相談に乗るし、協力も惜しまない」


「相変わらずネクトはクソ真面目だよな~。でもまぁ、ありがとな。けど、今のところ体調もいつも通りだし、何でこうなったか分かんねーもんは分かんねーし、考えてもどーにもなんねーしな」


「ま、仮説立てるにもソースねぇもんな。とりあえず、暫くはおとなしくしてろよ」


「分かってるっての」


軽口を叩き合える辺り、ユトナの体調もかなり快方に向かっているのだろう。

和やかな空気が辺りを包みだした頃、不意にキーゼの眼差しに真剣な光が宿る。


「…なぁ、シノア…こんな時に何だけど、一つ聞いてもいいか?」


「……? おう、いいぜ」


後に、ユトナは安請け合いで了承してしまった事を後悔する羽目になる。

自らを窮地に追い込む事となってしまうのだから…。


「…あんた、おれ達に何か隠してないよな?」


「……え? な…何だよいきなり、オレがオマエらに何隠すっつーんだよ?」


あまりに不意打ちだったのだろう、そんな事を問い詰められるとは思わなかったユトナは咄嗟に冷静を保とうとするものの、視線が泳ぎ完全に声が上ずっている。

だが、キーゼはさらに畳み掛ける。


「シノアって本当はもしかして…何か偽ってんだろ?」


「偽る…って…そっ、そんな訳ねーだろバカ言ってんじゃねーよっ!」


「そうだぞキーゼ、貴殿いきなり何を言いだす気だ…?」


ネクトといえばまるでユトナが男装しているのに気付いていないのだろう、いきなり何を言いだすのかと訝しげにキーゼを見やる。

ユトナもあくまでしらばくれるものの、何時までそれが持ちこたえられるか…彼女自身、不安と恐怖で押し潰されそうになっていた。


ユトナとキーゼの視線がぶつかる。

暫く沈黙が辺りを包み込んでいたが、最初にそれを破ったのはキーゼであった。


「ふぅん…そっか、あくまで何も隠してないって言うんだな。…分かった」


拍子抜けする程、あっさり引き下がるキーゼ。

しかし、何処か含みのある言い方…何より猜疑を孕んだ眼差しは、彼が全く納得していないことを示唆していた。


「…さてと、ネクト戻ろうぜ」


「え、何…? まだ来たばかりではないか」


「シノアが無事ってのは分かったんだから、もう目的は果たしたろ。あんまいても迷惑になるだろうし」


「…む、それはそうだが…」


急にそんな提案をするキーゼにネクトが非難の声を上げるものの、確かに彼の言い分も一理ある。

元来真面目なネクトは、それもそうだと納得したようだ。


「じゃあシノア、あんま無理すんなよー」


「早く元気になって、隊に復帰してくれるのを待っているからな」


それぞれ2人はユトナに声をかけてから、踵を返してその場を立ち去っていった。

その場に残されたのは、ユトナただ1人。


キーゼがユトナを疑っているのは、最早確定的だろう。

もし、このまま騙し通せなかったら──…?


ユトナは胸を押さえるも、ざわざわと波のように寄せては返す不安は落ち着きそうもない。

妙案など思い付く筈もないユトナは、その場に立ち尽くすしかなかった。



◆◇◆



所変わって、こちらは医務室を後にしたセオとレネード。

ようやくセオに追いつくと、彼の隣を歩きながら思い浮かべるのはシノアとユトナの事。


「ふふっ、セオ君にあんなに可愛くて素敵な友達が居るなんてね。もっと早くに紹介してくれれば良かったのに~」


「良かった…2人の事気に入ってくれて。2人とは友達でもあるし、幼馴染でもあるし、兄弟みたいでもあるし…掛け替えの無い存在なんだ」


「そっか、本当に仲が良いのね…って、友達や幼馴染は分かるけど、兄弟って…?」


「え? ああ、俺とあの2人は小さい頃、同じ孤児院で育ったんだ。2人は子供がいない夫婦に引き取られて、俺は城に仕える事になったけど」


「あら、そうだったのね。それなら…君達があんなに仲が良いのも納得だわ」


軽く2人との関係を説明するセオに、ようやく合点がいったらしく納得したような表情を浮かべるレネード。

暫くそうして何気ない会話を交わしていたセオであったが、ふと何かを思い出したらしくハッとなって目を見開いてみせる。


「…あ! しまった忘れ物…! ごめん、レネードさんは先に戻っててくれるかな? 俺も忘れ物を取りに行ったら、すぐに帰るから」


「忘れ物? もう~、セオ君てばドジねぇ。分かったわ、それじゃああたしは先に帰ってるから」


クスッと微笑みながら冗談ぽく言って見せれば、誤魔化し笑いを浮かべてからその場を立ち去るセオの背中を見送ってから再び歩を進めるレネード。

上機嫌に鼻歌など歌いながら城内の廊下を歩くレネードであったが、ふと彼女の視線の片隅に一つの影が映り込む。


──刹那、レネードの胸の奥に眠っていた何かが、大きく揺さぶられるような感覚。

全身を稲妻が駆け巡るような衝撃が、レネードに襲い掛かった。


「え…何…? どういう事…?」


瞠目しながら、その場にカタカタと小刻みに震えながら立ち尽くすしか出来ないレネード。

しかも、自分が何故このような感覚に襲われるのか…レネード自身、全く身に覚えが無いようだ。

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