第13話
「あ…レネードさんなら大丈夫だよ。元々この国には関わりない人だし、事情を説明すればきっと協力してくれる筈だから」
「そ、そうなのかな…? 確かに、言いふらすような人には見えないけど…。でも、それじゃ…セオの言う事を信じてみるよ」
「ん~…オレもいいぜ、喋っても。セオがそこまで言うんなら、きっと大丈夫だろ」
レネードには聞こえないようにシノア、ユトナにこそこそと耳打ちするセオ。
シノアは最初彼の言葉に猜疑的であったが、次第に心揺らいで来たらしく遂には真実を伝える事を決めたらしい。
ユトナにも確認を取ろうと目配せを送れば、ユトナはそこまで大事に考えていないのか何なのか、何とも軽い返答。
ようやく腹を括ったらしいシノアは大きく深呼吸をした後、ゆっくりとレネードに向き直る。
何が何だか分からずきょとんとするレネードをよそに、シノアは重々しい口を開いた。
「…あの、レネードさん…信じられないかもしれないけど、僕達男女入れ代わってるんです。本当は僕が男でシノアっていって、こっちはユトナで女なんだけど…訳あって城内では僕がユトナでメイドをやっていて、逆にユトナが僕の名前を騙って騎士になったんだ。まぁ、こんなややこしい事になっちゃったのは色々事情があるんだけど…でも、城の人にバレるとさらに面倒な事になるから、絶対に他言しないで欲しいんです」
「え、えぇっ!? ちょっ…ど、どういう事? つまりメイドさんな君が本当は男の子で、シノア君なのよね? それで、こちらの可愛い騎士さんが女の子でユトナちゃん…って事よね? で、でも…2人共顔が似てるからっていうのもあるからなのかもしれないけど、言われても俄かには信じられないって言うか…あたしの事、からかったとかしてないよね?」
本当に話しても良いものかと心の何処かで迷いがあるのか、時折視線を泳がせつつぼそぼそと小声になりながらも一気に自分達の素性を説明するシノア。
当然と言えばそうなのか、シノアの話す事実を俄かには信じられないようで鳩が豆鉄砲食らったような顔をしたきり唖然とするばかり。
確認を取るかのように念を押しつつシノアとユトナの顔を交互に見遣るレネードに、ユトナがあっけらかんと言い放った。
「からかう訳ねーだろ? 大体、初対面の相手からかってどーすんだよ。…けど、絶対誰かに喋んなよ? オレ達はセオが大丈夫だっていうから話したんだからな」
「……、すっごい吃驚したけど、そこまで言うなら本当、なのよね…? それにしてもすごーい、パッと見全然分かんないよ。シノア君のメイド姿とっても可愛いし、ユトナちゃんの騎士姿も様になってるもの」
暫しの沈黙の後、ようやく信用してくれたらしいレネードが感嘆の声を上げる。
しかし、シノアにとっては誉められているのか貶されているのか微妙なレネードの発言に、如何返答すればいいのか考えあぐねているようで苦笑いを浮かべるばかり。
「へへっ、だろ~? オレさ、騎士になるのはずっと前から夢だったし、剣振り回すのも好きだし…もう騎士になって楽しくてしょうがねーんだよな」
「あら、頼もしい騎士さんね。それにしても…2人共、セオ君の事信じてるのね。それなら、セオ君の信頼をあたしが裏切る訳にはいかないものね…任せて、この事は絶対喋らないから」
3人の強い絆を感じたらしく、それを自分が壊してはいけないときっぱりと言い切るレネード。
彼女の言葉に、シノアもユトナも安心したようで表情が若干和らいだ。
「ふぅ、良かったぁ…。話そうか本当に迷ったけど…言って良かったよ。…正直、ずっと隠し続けているっていうのもちょっときつかったし、下手したら、セオと一緒に居る時まで嘘を吐き続けなきゃいけなくなるかもって思ったし」
「別に、セオの事信じてるっつーか馬鹿正直だし不器用だしお人好しだから絶対嘘はつかねーんだろうなぁって思っただけだっつの」
ホッと胸を撫で下ろすシノアに対し、照れ隠しなのかそれとも本心なのかは定かではないが、傍から見ればただの強がりにしか聞こえないユトナの台詞。
一方、レネードといえばユトナの言葉が可笑しかったのかクスクス微笑めば、
「あはは、それは分かるかもー。セオ君て嘘つけないものね、すぐ顔に出るんだもん。だからついうっかり信じちゃうのよねー」
「…あ、分かる分かるソレ。セオってホントすぐ顔に出るよな~。だから顔見てると面白いしついからかいたくなったりしてさ」
すっかり打ち解けたようで、きゃっきゃとはしゃぎながらお喋りに花を咲かせる女性陣。
一方、そんな2人の様子を遠巻きに眺めるのは男性陣だ。
「…セオ、一つ聞いていい?」
「…え、何だい?」
「レネードさんに、振り回されまくってるでしょ…? それこそ、ユトナと一緒に居る時と同じか、それ以上に」
「はは、ははは…よく分かったな…」
「そりゃ、分かるよ…僕達はどれだけの付き合いだと思ってるのさ?」
苦笑いを浮かべながらげっそりした表情を浮かべる男性陣に、女性陣が気づく筈も無かった。