第11話
「ん……? つーかセオ、何情けねーツラしてんだよ…? 大体オレは大丈夫だっつの」
「な、情けないツラって…誰のせいでこんな顔してると思ってるんだよ? とりあえず、そんな軽口が叩けるようなら大丈夫そうだな」
開口一番にセオを小馬鹿にしたような態度を取るユトナ。
そんなユトナの態度に、あれだけ心配していた自分が馬鹿だった…と心の中でがっくりと肩を落とすセオ。
「ってか、此処何処だよ…? 確かオレ、魔何とかを使おうとしてなかったっけ…?」
「…何だ、覚えてないのかい? 君が魔耀石を手にしてから、魔力が暴走したらしいんだ。もう所構わず物凄い威力の魔法をぶつけてくるし、幾ら呼びかけても全く反応しないし。でも、思ったより元気そうで良かったよ。あ、ちなみに此処は医務室だよ。気絶してる君を此処まで運んできたんだ」
「…え、そうだっけか…? やべぇ、全然覚えてねー…。石を握って、精神統一した所までは何とか覚えてんだよな。でも急に自分の中から魔力が溢れて来て、自分じゃどうにも抑え切れなくなって…その後の事は全然覚えてねーや。いや~でも、どうも色々迷惑かけちまったみてーだな。悪い悪い」
「全く…。でも、ユトナ自身も原因が分からないのなら、君のせいじゃないよ、気にしないでくれ」
セオに事の顛末を説明されて、ようやく自分の身に何が起こったのか、自分が意識を手放してからどんな事が起こったのか理解したらしいユトナ。
──あんな感覚は、今まで体験した事も無いものだった。
だから実際、セオからそんな説明を受けても本当に自分に暴走するだけの魔力があるのか、信じられないくらいだ。
しかし、事実は事実。自分はそれを受け止めなくてはならない。
頭では分かっているものの、ユトナに突き付けられた真実は彼女の肩に重くのしかかった。
さらに、体力を消耗した身体には、その重すぎる事実は正直堪えるもので。
「顔色もあまり良くないし…暫くは此処で休んでるといいよ。隊長もその事は知ってるし、怒られる事は無いだろうから。まだ本調子じゃないだろ?」
「ん?あー…何か身体がすっげーダルイんだよな。一日中走り回ってクタクタになったみてーなさ。んじゃ遠慮なく、暫く寝てるか」
此処はセオの言葉に甘える事にしたらしいユトナは、再びベッドに横になろうとしたのだが。
不意にセオの傍らにいる人物に声を掛けられて、そちらに気を取られてしまった。
「…全くもう、一体何事かと思って駆けつけてみれば…相変わらず、周りの人達に迷惑かけまくったって自覚ゼロみたいだね、ユトナ」
「げっ、シノアかよ…? つーか、何でオマエが此処にいんだよ!?」
まるでお化けでも見るかのような眼差しで、驚愕の表情を浮かべながらシノアを指差すユトナ。
彼女の言葉の通り、セオの傍らにいたのはユトナの双子の片割れ、シノアであった。
一方、そんなユトナの態度にますます気分を悪くしたのか、シノアは眉間に深い皺を刻み込ませると、
「…あのねぇ、僕は幽霊じゃないんだから“げっ”は無いでしょうに。セルネ様から聞いたんだよ。…正直言うと、僕が男だって事も、ユトナと入れ替わってた事も全部バレちゃってて…。でも、全部承知の上でセルネ様が医務室に行って様子を見て来いって言ってくれたんだ」
「へぇ~、そうだったのか……ってバレたのかよ!? じゃあ、オレが女だって事もあのセルネとかいう黒猫魔術師にバレちまったって訳か? うわーサイアク過ぎる…どうすんだオレ…」
シノアの口から語られた真実は、またしてもユトナを驚愕されるには充分過ぎる程で。
セオから教えられた真実でさえお腹いっぱいで自分では処理し切れないというのに、これ以上の重すぎる真実は勘弁して欲しい…これがユトナの本音であろう。
しかし、シノアといえばバレてしまったにも関わらず至極落ち着いた態度で、
「確かに僕も、バレた時は本当に不味いと思ったけど…多分、大丈夫だと思う。だって、他の人にばらして僕達をクビにする事だって出来る筈でしょ? でもそれをしないで、あまつさえ僕にユトナの事を教えてくれるんだからばらすつもりは無いんだと思う」
「…あ、考えてみれば…元からシノアの事がバレてるなら、ユトナが自分の事を“シノアだ”って名乗った時点で、真実に気づく筈だもんな。でもセルネさん、その事について一切触れてなかったし…大丈夫なんじゃないかな?」
そういえば、とユトナとセルネのやり取りを今更ながら思い出して合点がいったように頷くセオ。
2人のある意味楽天的な発言に、ユトナの胸を巣食っていた不安も少しずつ取り払われていったようであった。