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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第4章 魔耀石の力
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第8話

「ふむ…このような事例は妾も見た事が無い。しかし、凄まじい魔力がシノアから溢れておるのを感じる。おそらくは魔力が暴走しておるのじゃろうて。取り敢えず、魔力の暴走を止めるぞよ。さすれば大人しくなるじゃろう」


今まで幾多の魔術に関わる事例を目の当たりにしてきたセルネでさえ経験したことの無い光景に、険しい表情で唇を噛み締めるセルネ。

すると、そんな彼女に食って掛かるのはセオだ。


「そんな…! シノアは今まで魔力が暴走どころか、剣士一筋で魔術に関わるような事なんて一度もなかったんだ! それがいきなり、こんな事になるなんて…」


まるで今起こっている出来事を認めたくなくて、駄々を捏ねている子供のようで。

セルネに話しているというより、辺りに八つ当たりしているようにしか見えなかった。


「取り敢えず落ち着くが良い。魔耀石を手にしてからおかしくなったのじゃろう? ならば、原因はそこにある筈じゃ。とにかく、今は魔力の暴走を抑えるのが先決じゃ。細かい事は後で考える、それで良かろう?」


「……っ、わ、分かりました。すみません…八つ当たりしてしまって」


「気にするでない。いきなりこのような状況に出くわしたら、混乱するのも無理はなかろうて」


ぴしゃりとセルネにたしなめられて、ようやく自分が冷静さを欠いていた事に気付きしょんぼりとうなだれるセオ。

しかし、その間も暴走した魔力は待ってはくれない。


ユトナが手にした魔耀石が一瞬深紅に染まったかと思えば、ユトナを中心として幾つもの火柱が上がる。

それはまるで意志を持っているかのように暴れ回り、荒れ狂った火柱は辺りを次々と焼き払っていく。


「逃げろ! こんなものに巻き込まれたら消し炭になるぞ!」


マディックの叫び声を皮切りに、荒れ狂う火柱から逃れる3人。

何とか凌いでから改めて辺りを見渡せば、焼き尽くされ酷い有様であった。


「魔耀石が赤く輝いてる…! って事は、シノアの属性は火って事かな?」


「うむ、おそらくは……っ!? また来るぞよ!」


どうやら、のんびり会話を交わす暇さえ無いらしい。

今度はユトナの手にしている石が蒼く染まったかと思えば、氷の槍が無差別に辺り一面に発射される。


「うわぁぁっ!?」


突如降り注ぐ狂気の刃に驚愕しつつ、横に跳んで回避するセオ。

マディックはいつの間にか鞘から抜いた剣で氷の槍を弾き飛ばし、セルネは自身を包み込むようにして魔術のシールドを張るとそれと氷の刃をぶつけて相殺させる。


壁や床にぶつかった氷の槍はパキパキと音を立てて辺りのものを凍り付かせてゆく。

そんな光景を一瞥しながら、セオは背筋に冷たいものが通り抜けるのを感じた。


「ど、どういう事…? 属性は1人一つなんじゃ…」


「妾にもよく分からぬ。極稀に、二つの属性が魔耀石に現れる事もあるが…。面白い、調べてみたら様々な事が分かりそうじゃ」


慌てふためくセオに対し、セルネは今の状況を何処かで楽しんでいるかのようで、おそらくは彼女の中に眠る知的好奇心が疼いているのだろう。


「しかし、このままではジリ貧だぞ。何か打開策があれば良いのだが…」


「ふむ…無くはないが、お主等には相当体を張って貰わねばならぬのう。それでも良いか?」


険しい表情を浮かべながらぎりっと歯噛みするマディックに、事もなげにあっけらかんと言い放つセルネ。

マディックがその言葉に反応するより早く、セルネに掴み掛からんばかりに声を荒げるのはセオだ。


「ほ、本当ですかソレ!? シノアを助ける為ならどんな事もします、だから教えて下さい!」


「私も同じ気持ちだ。部下を放っておく訳にはいかない」


セオに続くように、力強く言い切るマディック。

2人の返答に満足気な笑みを浮かべるセルネは、早速自分が思いついた作戦を説明した。


「まず、妾がお主等に半球体のシールドをかける。お主等はそのシールドが壊れるより早くシノアの元へ向かい魔耀石を奪うのじゃ。あやつを気絶させる事が出来れば、尚良いのじゃが…。じゃが、あやつの放つ魔力は強力じゃ。おそらく、妾の張ったシールドも大して持たぬじゃろうて。時間が勝負じゃ。…良いな?」


「成程…そうするより他無さそうだな。…セオルーク、大丈夫か?」


「はい、覚悟は出来てますから。セルネさん…何時でも大丈夫です、俺達の方は準備整ってますし」


セルネにそう言うセオの顔に、僅かな迷いも不安もなくあるのはユトナを助けたいという一心のみ。

その言葉にセルネはコクリと頷けば、すぐさま呪文の詠唱を始めた。


「我が力よ…何物をも弾く盾となりて彼の者を守り給え…!」


セルネの口から紡がれる呪文。

途端、2人の身体を中心に半球体の半透明のシールドが生み出された。


「良いかセオルーク、私が囮になってシノアの注意を引き付ける。その隙を狙って君はシノアから石を奪うのだ…分かったな?」


「はい、了解しました」


2人は頷き合うと、魔力の渦に支配され我を失いふらふらと覚束ない足取りで佇むユトナに向かって突撃をかけた。

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