第3話
ぶつかり合う瞳。目を逸らしたらその刹那、相手に先制を許してしまいそうで一瞬でも目を離せない。
果たして、どれくらい睨み合っていただろうか。
最初に動き出したのは──ユトナだった。
ニッと口角を吊り上げるなり、地面を強く蹴り上げるユトナ。
刹那、セオの視界からユトナの姿が忽然と消えてしまう。
必死になってユトナの姿を目線だけで追いかけるセオ、しかしそれでもユトナに大きな隙を与えてしまう。
突如、セオの背中を駆け巡る悪寒──言うならば第六感か。
自分の足元から奇妙な気配を感じや否や、風を切り裂きながら突き上げるように繰り出される刃。
ほぼ反射的に上半身を仰け反らせれば、今まで自分の頭があった場所を刃が突き抜けてゆく。
「…チッ、頭狙ったんだけどなぁ…惜しかったな」
「流石に、頭貫かれる訳にはいかないからね」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるのは、しゃがんだ体勢のまま腕だけを突き上げ手にした短剣を振り上げるユトナ。
そう、ユトナは一瞬の合間にセオの斜め前に駆け出すなりしゃがんで彼の視界から消えれば、そこから一気に刃を振り翳したのだ。
だが、セオも負けてはいない。
すぐさま体勢を立て直すと、手にした剣を両手に持ち替えユトナ目掛けて諸手突きを放つ。
しかし、セオの放った刃は空しく空を斬るばかり。
ユトナは軽やかなステップで横に跳んで回避すれば、セオを惑わせるようにちょこまかと彼の周りを駆け回ってみせる。
セオも必死にユトナの動きを追いかけて隙を狙おうとするも、ユトナの動きは機敏且つ不規則な為視線を追いかけるだけで精一杯。
ユトナの体格が小さいのも、動きを捉えにくい要因なのだろう。
「くっ…! ユトナの動きって型にはまってないというか、猿みたいにうろちょろするから追いにくい…!」
「へへーん、オレの動きについてこれねーだろ……って誰が猿だコルァ!」
互いに刃を交わしつつ、傍から見ればふざけ合っているかのような会話も出来るのだから、余裕があるのか何なのか。
だが、このままでは埒があかないと、最初に動いたのはセオであった。
両手に構えた剣を目にも止まらぬ速さでユトナ目掛けて袈裟切りを放つ。
一瞬動作が遅れたユトナは回避不可能と判断、手にした短剣で捌き切る手段を選んだようだ。
「──っ!?」
だが、剣で受け止めるのは承知の上、力で押し切ろうと両手にさらに力を込めようとしたセオであったが…予期せぬユトナの反撃に、思わず息を飲む羽目になる。
ユトナが選んだ方法は、避ける事でも受け止める事でもなく、受け流す事。
無理に力で反発せず、セオの剣を自分の短剣で受けた後、流れに乗るようにその刃を自分の横へ受け流したのだ。
当然、力を逸らされてしまったセオは僅かながらもバランスを崩し、ユトナにとっては真横、セオにとっては前へつんのめるような形になってしまう。
そんな隙を、ユトナがみすみす見逃す筈も無かった。
すぐさまもう片方の手に握っていた短剣を、セオの脇腹目掛けて横一線に薙ぎ払ったのだ。
刹那、セオの脳裏に警鐘が鳴り響く。
何としてでも回避するか、若しくは致命傷だけでも避けなくては──…!そう瞬時に判断したセオは必死に身体を捻る。
確かにユトナの刃はセオを捉えた…ものの、手応えは何ともはっきりしないものであった。
「あっぶな…あと1センチでもずれてたらヤバかったな」
「ンだよ、絶対当たったと思ったのにな~…セオ、意外としぶといよなオマエ」
「意外とは何だ意外とは」
ユトナの刃が切り裂いたのは、セオが着ていた衣服のみ。
どうやら、紙一重で回避したのだろう。
「…さてと、どうする? まだ続けるか?」
「あったりまえだろ? こーなったら決着つくまでやろうぜ」
「…言うと思った。それじゃ続け……」
「皆、悪いがちょっといいか?」
何とか体勢を立て直し、未だ闘志の炎は消えていないらしい2人。
しかし、そんな2人の出鼻をくじくように、訓練場に響き渡る威厳のあるどっしりとした男性の声。