第1話
──記憶の奥底に閉じ込めてしまった、遠い遠い昔の出来事。
まだ…あれは騎士──否、騎士見習いだった頃。
剣の修行にあけくれつつ、いつも一緒だった友達がいた。
将来は、2人で立派な騎士になろうと誓い合っていた、一緒に剣の腕を磨いて、一緒に遊んで…毎日が楽しくて。
いつも一緒に笑い合っているその友達は、自分にとっては親友だった。
けれど…何時の頃だっただろう。
ある日突然、友達が忽然と姿を消してしまった。まるで、最初からいなかったかのように。
勿論、必死になって友達の姿を探した。
街中を駆けずり回って探し歩き、片っ端から様々な人に聞き込みをしたけれど、結局手掛かりは見つからなかった。
まるでそれは神隠しのように。
痕跡一つ残さずに、友達は消えてしまったのだ。
死んでしまったのか、生きているのか…それさえ分からなくて。
どうしていなくなってしまったの?
どうして自分を置いていってしまったの?
もっと、一緒に居たかったのに。色々話がしたかったのに。
お願いだからいなくなってしまわないで、1人にしないで。
ふと気が付けば、周りは闇、漆黒の世界。
全てから閉鎖された空間に、閉じ込められてしまったかのようで。
嫌だ、嫌だ。怖い…怖いよ。
何時か…自分も友達のように、ある日忽然と姿を消してしまうのではないだろうか。
誰か…助けて。
このままでは、自分も深い闇に飲み込まれてしまいそうで──…
「嫌だ、何処行っちゃったんだよ……っ!? あ、あれ…? もしかしてさっきの、夢…?」
突如反転する世界。
気が付けば、そこは見慣れた自室──騎士団の宿舎の一角だ。
ようやく意識がはっきりしてきたのだろう、ぼんやりとした頭を抱えながら、その人物──セオはゆっくりと辺りを見渡した。
窓から差し込む朝日、殺風景な部屋。
そういえば、自分は寝ていたのだと今更ながら再確認する。
「何か、夢にしては妙にリアルだったな…。それに、あの時の事夢に見るなんて…」
セオの表情はいつになく浮かないもので、明らかに先程見た夢が彼を蝕んでいるのは一目瞭然。
まさか、自分でも忘れかけていた小さい頃の事を夢に見るなんて。
それにしても、何で今更あんな夢を見たのだろうか。
だが、幾ら考えても詮無き事。
ぼんやりした頭を抱えながらゆっくりベッドから下りると、朝食を取ろうと広間へと向かった。
「あ、セオ君お早う~! 朝御飯、もう出来てるよ」
「……うん、お早う…レネードさん。朝御飯…? あ、ありがとう…」
広間に向かったセオを出迎えたのは、にっこりと満面の笑顔を浮かべるレネード。
てきぱきとパンやハムエッグをテーブルに並べるレネードであったが、覇気の無い返事をするセオに只ならぬものを感じたのだろう、心配そうにセオを見つめた。
「…セオ君? どうしたの? 何かあった?」
「え…? あ、いや…大した事じゃないんだ」
「って事は…少なくとも何かあったのね? もし良かったら、あたしに話してくれるかな? 大した手助けは出来ないかもしれないけど、話せばちょっとは楽になるかもしれないし」
「……、ありがとう、レネードさん。本当に大した事じゃないんだけど…」
真剣な眼差しを向けてくるレネードにセオの中でも何か心動かされたものがあったのか、躊躇いがちではあるものの先程の悪夢の事を説明した。
セオが話をしている間も、真剣な面持ちで無言で聞き入るレネード。
「もうずっと前の事だし、忘れかけてたんだけど…夢に見ちゃったら、何かその時の事思い出しちゃって。友達がいなくなって悲しくて…怖かったんだ」
「…そっか…そんな事があったんだね」
憂いを秘めた双眸でそう締め括るセオに、レネードはゆっくり頷いてみせた。