第14話
「何を今更、妾にはばれておるのだから取り繕う必要も無かろう?」
セルネはカマをかけているのか、それとも確信した上での言葉なのか。
どう返答するべきか考えあぐねるシノアは暫く唇を噛み締めながら口を噤んでいたが、最後の抵抗と言わんばかりにとぼけてみせた。
「取り繕うも何も、僕は女装なんてしていませんし…」
「まだシラを切るのかえ? 何なら今から調べてみるかのう? 幾らしらばくれても、調べればすぐに分かる事なのじゃぞ?」
「……っ。何時から…気づいていたのですか?」
「最初からじゃよ。どうも不自然さを感じてのう。お主は上手く誤魔化していたかもしれぬが、妾から見ればまだまだじゃな」
「う…そうだったんですか…」
遂に観念したらしく、がっくりとうなだれるシノア。
だが、セルネが最初から自分の正体を感づいていたとなれば、浮かび上がる一つの疑問。
「セルネ様は…最初から気づいてらしたんですよね? だったら何で、ずっと黙ってたんですか? 男がメイドに成りすましてたなんて、それこそマズイ事なんじゃ……あ、でも…僕、これからもメイドを続けたいんです。ですから…その、誰にも言わないで下さると嬉しいんですけど、なんて…」
よほど困惑しているのか、妙に他人事のような口ぶりになったり言葉に詰まったりと、散々たる様子のシノア。
しかし、そんなシノアに向かってセルネが発した返答とは、至極あっけらかんとしたものであった。
「何故って…決まっておるだろう。お主はメイドとして使えるからのう。いい働きをするメイドを、自ら手放す真似をすると思うかえ? お主が使えるうちは、他言するつもりは無いから安心するが良い」
「つまり…使えなくなったら即ポイって事ですよね。まぁ、セルネ様らしいというか何と言うか…」
「ふむ、平たく言えばそういう事じゃ。お主は飲み込みが早いから助かる」
これから自分に襲い掛かるであろう未来を思い浮かべれば、自然と口から重々しい溜め息が零れてしまう。
よりによって、一番バレたくない相手にバレてしまった…とシノアが心の中で後悔するも、後悔先に立たず。
「…それにしても、お主はまだ隠している事が色々ありそうだのう? お主の名、偽名とも到底思えぬし…そういえば、本名は何というのじゃ?」
「え? いやいやいや、別に隠してるなんてそんな事無いですからっ! あ、名前は…シノアと申します」
「まぁ、隠し事は追々聞くとして…そうか、シノアか。弟子の件も含め…これからは末永く宜しく頼むぞえ? お主の働き、期待しておるぞ」
「うぅ…何かもう、嫌な予感しかしないんですけど…。まぁいいです、こうなったら開き直って今まで以上に頑張りますから。こちらこそ、一応宜しくお願いします」
何やら色々企んでいるらしいセルネはニヤリと黒い笑みを浮かべれば、改めてシノアに向き直る。
メイドをクビになっては路頭に迷ってしまうシノアにとって、此処は最早ヤケクソになるしかないようだ。
──ひょんな事から回り始めた、奇妙な運命の歯車。
この出会いが、後に彼らにどんな未来をもたらすのか…今の彼らが知る由も無かった。