第4話
「何か用、だと…!? 街の人々を酷い目に遭わせておいて、よくもそんな事が言えるな!?」
女性を睨み付けながら、凄まじい勢いで捲し立てる少年。
しかし、女性には何の事だかさっぱり分からず、首を捻るばかり。
「え? ちょっとごめん、何の事言ってるのかさっぱりなんだけど…? とりあえず人違いじゃないかしら?」
「人違いな訳無い! 犯人は夢魔の女だって聞いているし…言い逃れようったってそうはいかない!」
必死に弁解する夢魔の女性であったが、少年の耳には届かない。
一方的に決めつけられても、はいともいいえとも言えないものだ。
そもそも、彼は何の事を言っているのかも、皆目見当もつかないのだから。
「ちょっと待ってってば! 君、一体何の話してる訳? 酷い目とか犯人とか…」
「往生際の悪い奴め…! フェルナント国騎士団の名において、我セオルーク=リゼンベルテが成敗してやる!」
少年──セオは女性の言葉を一方的に遮断すると、腰に差した剣を抜き、構える。
そして、女性の言い分などお構いなしにいきなり斬り付けてきたのだ。
「……っ!?」
女性はいきなりの事態に慌てふためきつつも、咄嗟に後ろに跳んで回避する。
しかし、回避されるのは想定済みであったのだろう、剣を振り上げる事なく途中で軌道を変えれば、周りの空気すら一刀両断する勢いで剣を斬り下ろした。
…とはいえ、セオと女性の間には距離があり、刃は届きそうも無い。
──刹那。
振り下ろした刃からは衝撃波が生まれ、凄まじいエネルギーとなって女性に襲い掛かったのか。
油断していたせいで回避動作が遅れてしまい、回避は無理と判断すると急所を守る様に身構える女性。
と同時に、身を切り裂くような衝撃波が襲い掛かった。
下半身に力を込めて踏ん張るも凄まじい力には抗えず、吹き飛ばされて近くの壁に激突した。
「いったぁ~…君さぁ、いきなりコレは無いんじゃないの? お姉さんも終いには怒るわよ?」
背中を強かに打った為呼吸困難に陥りそうになりながらも、何とかよろよろと起き上がる女性。
流石に一方的に此処まで痛めつけられて、温厚でいろという方が無理な話だ。
しかし、セオは冷淡な視線を向けるだけ。
「お前のせいで…罪の無い人達が心を奪われ、苦しんでいるんだ。それに比べれば、その程度の痛みなんて…」
どうやら、セオは女性がこの街で起こっている事件の犯人だと思っているのだろう。
確かに彼女の特徴は、マディックの説明にあったものと全く同じものだ。
夢魔の女──まさに女性はその条件と合致していた。
「だから、一体何の話よソレ? あたし、この街に来たばっかりなんだけど!?」
「フン、今更見え透いた嘘を…。そんな嘘で俺が信じるとでも思ってるのか?」
「もう、頭固いなぁ君は…。あたしは嘘なんてついてないっての。仕方ない、話が通じないんじゃちょこっとだけ痛い目を見て貰わないと分からないみたいね」
交渉は不可、とようやく悟ったらしい女性はため息をつけば、腹を括る事にしたらしい。
体勢を立て直してから小さく呪文を詠唱すれば、右手に魔力の塊が収束してゆく。
それはあっという間に弓の形を形成していった。
実際にこうして魔術を目にするのはあまり無いのか、セオは一瞬見惚れるように呆けてしまう。
しかし、ぼんやりしている暇などありはしない。
「食らえッ!」
女性の掛け声と共に、次々と生み出される魔力の矢が放たれる。
魔力の矢は淡い光を放っており、普通の木製の矢より威力が高い事など、当たらずとも推測できる事であった。
「くっ…!」
軽やかなステップを踏みながら、紙一重で矢を躱してゆくセオ。
矢は地面に激突すると、あまりの威力にクレーターを生み出してから消滅した。
無数の矢を躱すのに精いっぱいで、なかなか反撃の暇が見つからない。
そんないたちごっこが、一体どのくらい続いたのであろうか。
流石に焦りを感じ始めたセオであったが、ふと女性の攻撃の手が緩んだ事に気づく。
魔力が枯渇し始めたのか…! と推測したセオは、一気に畳み掛けようと地面を深く蹴り上げ一瞬にして間合いを詰めた。