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煌天の蒼月 第1部  作者: 天空朱雀
第3章 メイドの少年と魔術師の少女
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第9話

「えーっと、とりあえず早くやっちゃわないと…」


シノアは1人呟きながら、何処から手をつけようかと思案を巡らせる。

勿論早く終わらせるのは当然の事、クオリティも求められる所だ。塵一つ残す訳にはいかない。

何しろ、セルネ直々に頼まれたものなのだから。


「う~ん、何処から手をつければいいのか…まずは、棚にある本を出して埃を払い落とそうかな」


頭の中で段取りを立てていくと、一番上の棚から本を下ろそうと手を伸ばす。

しかし、シノアの身長では一番上の棚に手が届くか微妙な所。


暫く悪戦苦闘を繰り返していたが、背伸びをしてようやく本へ手が届いてホッと胸を撫で下ろすシノア。

だが、本当の苦難はこれからであった。


どうやら本をぎゅうぎゅうに詰め込んでいるらしく、幾ら引っ張ってもびくともしない。

此処で引き下がってなるものかと無駄に闘争心が燃え上がったようで、渾身の力を込めて引っ張った結果──…


「うわぁっ!?」


無事に本を取る事が出来た…までは良かったのだが。

勢い余って、近くに置いてあった本も一緒に引っこ抜けてしまったようだ。


思い切り引っ張り過ぎたせいで勢いよく尻餅をつくと同時に、彼の頭上に数冊の本が落ちてくるおまけつき。

強打した腰を摩りながら、頭に落ちてきた本を摘み上げる。


「あたた…うぅ、恥ずかし過ぎる…。あ、本痛んでないかな…大丈夫かな?」


痛みが引いてきたと同時に脳裏を過ぎるのは、本の事。

セルネ曰く、かなり価値のある本もあるとの事。もし傷でもつけてしまったら…想像するだけでも胃をぎゅっと締め付けられそうだ。


高速の勢いで本を隈なくチェックし、痛みや破れ等が無いか確かめるシノア。

どうやら目立った傷は無いようで、胃がすっと軽くなるのを感じた。


「良かった~…もしちょっとでも破れたり痛んだりしてたら、僕がどうなってた事か…」


ふぅ、と肺に溜まった息を吐き出しつつ、ふとめくったままの魔導書に視線を移す。

今まで魔術なんて自分にはまるで縁の無いもので、先天的に魔力を持ち合わせた人や優秀な魔術師の家系に生まれた人が使うものだと思っていた。

だから、出自も分からず孤児院で暮らしてきた自分には目にする機会すら無かった。


未知のものに対する好奇心なのだろうか。何気なくページに書かれている文字を眺めるシノア。

…と、此処で本人も予期せぬ事態が彼に襲い掛かった。


「……? 見た事も無い筈の字…なのに、どうして読めるんだろ…?」


思わず疑問の言葉が口から零れる。

しかし、それも無理は無いだろう。

本に書かれた文字は普段使っているものとは全く違い、初めて見る文字の筈なのに…何故か文字の読み方がすらすら脳裏に思い浮かぶのだ。


読む事は出来ても何の意味を持つ言葉なのかまでは分からず、推測するにおそらく魔術の呪文では無いのか…? 程度しか分からなかった。

それも、魔導書なんだから書いてあるのは呪文だろう、くらいの根拠だ。


しかも、不思議なのはこれだけではない。

暫く本に目を通していると、文字がいきなり淡い光を放ち始めたのだ。

まるで、シノアと共鳴でもするかのように。


「……!?」


流石のシノアも、この事態には驚きを隠せなかったらしい。

驚きどころか一抹の不安さえ覚えたらしく、反射的に本を床に投げつけてしまったのだ。


シノアの手から離れた事により、再び光を失う魔導書。


「ど、どういう事…?」


困惑を隠せないシノアの呟きは、ただただ静まり返った空間に溶けていくだけであった。


暫くその場に茫然としていたが、ようやくして掃除をしなければいけない事を思い出して書斎の掃除を再開するシノア。

何とか綺麗にしてセルネに報告を終えた後も、彼の心を支配していたのは先程の魔導書の事ばかりだった。

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